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9:変身

 懐から取り出した愛用のメダル、蜘蛛のメダルを入れる。


『Set!』


 何時もと変わらない声がギアから聞こえるのと同時に件のカプセルが出現する。この辺りは変わらないようだ。


『Something is coming out! What is it?』


 周囲の職員が期待の眼差しを向ける。キラキラとした子供のような視線をだ。

 ヒーローが目の前で変身する。そうそう見られるものではない。殆どのヒーローは変身してから出動する。ネットで晒されているのもヒーローと魔物の戦いばかり。ヒーローの変身を見られるのは実は珍しい。

 期待するような目。それを無下にするのも無粋だ。ヒーローとは希望、平和を守る象徴だ。

 ならばやる事は一つ。魅せてやろう。

 大きく円を描くように手を振り、レバーに右手を添える。


「ガチャ!」


『Pon!』


 レバーを回すとカプセルが口を開き善継を飲み込み、小さく痙攣すると粉々に弾け飛ぶ。


『I'm a predator』


 そこに立っていたのはメタルスパイダーではなかった。銀色の金属質のスーツに身を包んでいるものの、そのシルエットは別物となっている。


「どうぞ」


 職員が姿鏡を持ってくる。そこに映った姿に善継は驚いた。

 頭の脚はロングヘアのように後ろにまとめられ、顔には黒いバイザーが追加されその奥に赤い八つの瞳が人魂のようにゆらいでいる。そして身体も蜘蛛の巣模様のコートが追加されていた。


「……こりゃあ、何と言うか。うん、今風って感じだな」


 以前の怪人じみた見た目と違いかなりヒロイックな風貌をしている。これなら若者にもウケは良さそうだ。

 玄徳も小さく拍手をしている。


「どうかな八ツ木さん。デザイナー曰く軍服をイメージしたとの事だが」


「気に入りましたよ。これで性能も上がってるなんて最高だ」


 拳を握りしめる。メダルから全身に力が行き渡るのが感じられた。今までより重装備なはずなのに身体も軽い。


「どうだ善継。あたしから見てもこのギアは悪くない。流石にクロスギアや勇者には劣るがな」


「充分だ。寧ろこんな贅沢をさせてもらえるなんて、申し訳ないくらいだ」


 仮面の中で笑いながら全身を見回す。職員の中には記録用のカメラを向ける者もいる。


「それに善継がやりたいと言ってたアレ、今ならやれるはずだ」


「……マジ?」


 バイザーの中にある赤い目が輝く。


「理論上はより強靭かつ細い糸が作れる。ならば……な?」


 真理はステンレスのタンブラーを善継の方に放り投げた。金属の塊であるタンブラーが善継の目の前にゆっくりと飛来する。

 彼女の意図は善継は察している。寧ろ待っていた。ずっと夢見ていたアレをやれると心が踊っていた。


「!!!」


 手を軽く横に降る。その瞬間、時間が止まったような錯覚が全員に走る。

 床に落ちるタンブラー。しかしそれは真っ二つに切り裂かれていた。歪みの一つも無い鋭利な断面、一瞬にて両断されたタンブラーが転がる。


「…………すっ……………………げぇ」


「下位の魔物なら一撃だろう。太くすれば拘束力も充分だ」


 感動に手が震える。感激のあまり涙も出そうになる。

 糸使いのロマン技。糸による斬撃だ。今までは糸の強度が足りずできなかった。やれたとしても、内臓のような柔らかい場所だけ。だが今は違う、昔漫画で見た技が使えるようになったのだ。

 感動的だ夢のようだ。これなら糸による拘束がそのまま攻撃に転じられる。もっと戦術の幅が広がる。


「凄いな……」


 玄徳も驚いている。


「さすがお姉ちゃんですよね」


「確かに真里も凄いが、私は八ツ木さんの技術に驚いたよ」


 由紀がわからないと言いたげに首をかしげた。


「由紀は今のが見えたかな?」


「うん」


 勇者の由紀には見えていた。善継の人差し指から伸びる糸を。それがタンブラーを切断する瞬間も。


「そうか。なら同じ事が出来るかい?」


「…………無理、かな。流石に糸をあんな風に動かすのはちょっと」


「だろうね。色々彼の事を調べたが、他にも即席の武器や盾を編んで作るのがヒーロー、メタルスパイダーの戦闘スタイルらしい。精霊の力を借りずにだ」


「凄いですね。でも技能系の精霊がいればどうにかなるんじゃないですか?」


「技能か。努力を嘲笑うようで私は好きじゃないんだよ、その精霊は。由紀には悪いがな」


 由紀が視線を落とし口を閉ざす。苛立っているような、逆に申し訳ないような、そんな複雑な表情をしている。


「……伯父さんの言う通りです。訓練で得たんじゃない、精霊のおかげでなんてずる(チート)ですから」


「それを正しく使う意思があるなら良いさ。君は精霊の力に胡座をかく人じゃないのを知っているとも」


 そんな話をしていると善継が真理を連れて近づく。 

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