表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/366

0:契約解除

『申し訳ないんだが八ツ木さん、あなたとの契約は解消させてもらいます』


「それって……クビって事ですよね?」


 スマホを手に唖然とするざんばら髪な細身の男性。歳はアラサー位だろう。小動物のような穏やかな顔立ちをしている彼の名は八ツ木善継。彼はとある企業に所属しているヒーローだ。

 ヒーロー。それは異世界からの侵略者である魔物から世界を守る為に戦う超人達。彼も慈善活動でヒーローをやっているのではなく、企業と契約し給与を貰い活動をしている。

 その契約が今正に切られたのだ。電話先の人事担当の言葉はいやに冷たく聞こえる。


「理由を聞かせてもらえませんかね。私は自分で言うのもアレですが業績は悪くないはずです。大きな失敗もしていない」


『ええ解ってます。八ツ木さんの活躍は存じてますとも。しかし本物の勇者が所属してくれるなら……要望には応えないと』


「勇者か」


 頭を掻きながら椅子に座る。テーブルに置かれたマグカップからは僅かに湯気が立ち上っていた。

 勇者。それは異世界に召還され圧倒的な力、チートを獲得し地球へと帰還した者だ。そんな彼らはヒーローとは一線を画す力を持っている。

 ヒーローを大量に抱えるより勇者一人を雇った方がコストパフォーマンスは上。企業としては当然の選択だ。


『ですので女性ヒーロー以外は契約解除となります。解りますね? これは八ツ木さんを守る意味もあります』


「…………そういうタイプか。厄介な事になってるな」


『ええ。ここだけの話、社長の娘さんが夢中でして』


 そう言う電話先の声が急にしおらしくなる。善継も半ば同情が混じっているくらいだ。


『勿論退職金は支払います。なに、八ツ木さんなら新しい所属先が見つかりますよ』


「そうは言ってもな。私の契約している精霊の都合上、どうもヒーローとして見栄えを重視する企業には縁が無いもので。そちらもやっとこさ見つけたんですから」


『申し訳ありません……。本来なら次の所属先も斡旋するべきなのですが、社内がそれ所ではなくて』


「お察しします。まあ最悪フリーで頑張りますかね。ちょっとやりたい仕事もあるので、ヒーローは副業にしますよ」


『ハハハ。…………それではご活躍を祈っております。メタルスパイダー』


 電話が切れる。善継はスマホを置くと、マグカップを取り少しぬるくなったコーヒーを飲む。


「本物の勇者か。俺達ヒーローの原型、異世界で魔物を退治して回っていたチート連中か」


 善継は乾いた笑い声を溢しながら部屋を見回す。独り暮らしにはもってこいの小さなマンション。独身男性の部屋にしては小綺麗な所だ。

 そのまま敷いてあった布団に寝っ転がり目を閉じる。


 異世界へと召還される際に精霊を直接身に宿し力を得た者。魔物の脅威から異世界の人々を守る為に拉致された者。それが勇者だ。そしてヒーローはそのチートを再現した紛い物、ダミー勇者なのである。

 救世主として祭り上げられ、異世界でちやほやされてきた彼らが地球に戻って来た。しかも本来地球では無用の長物になりかねないチート、それを存分に使える魔物までいる。となればどうなるか想像するのは容易い。

 自分達ヒーローよりも強い勇者。その力に羨望を感じた事はある。だが彼らそのものには憧れは抱かなかった。


 そこに正義が無いからだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 善継 どう読めば良いのかわからん せめて初登場ではルビ振ってほしい 難読系なら毎回でもいい……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ