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【C】夏霧の滴


この小説は【対戦カードC】の組み合わせです。

対戦相手は『三つの願い、一つの願い』となります。


以下企画ルールの項目から抜粋。

もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。


【投票方法】……必読!



  ・ルールを守らない書き込みは企画ルールを知らないものとして、集計から除外します。


  ・投票は特設掲示板から行います。

   移動は小説トップにある「投票・感想用掲示板」からお願いします。


  ・あらかじめ各SSタイトルのスレッドを立てておきますので、そこへ書き込みをしてください。


  ・投票する際は本文の最初に【投票】と書き込みを行ってください。

   (もちろん投票だけでも構いませんが、感想なども作者の方も喜ぶと思います)


  ・また投票はしなけど一点入れたい、

   という場合はやはり冒頭に【ナシ】という書き込みを行ってください。

   (加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)


  ・基本的に『小説家になろう』のサイトにある感想欄は使用いたしません。




 名ばかりの終業式から三週間が過ぎ、高校が定める夏休みの中盤に差し掛かろうとしている、ある日の午後。

 人のいない教室には、成績不良で呼び出された新蔦信二にいづた しんじと、その友人の松佳修也まつか しゅうやの姿があった。

 夏休み中なので空調が動かず、教室内はさながら蒸し風呂のようであった。百均の扇子で緩めたシャツに風を送りながら、信二が言った。

「あ〜、もう止め止めっ! 何が悲しくてクソ暑い教室に閉じ込められなきゃいけないんだよ、畜生め」

「諦めんなよ、お前! どうしてそこでやめるんだ、そこで! もう少し頑張ってみろよ! もっと熱くなれよ!!」

 我慢できなくなって机にシャーペンと足を投げ出した信二に、修也が大袈裟に反応する。

「止めろバカ。感嘆符過剰で、今以上に地球温暖化を促進させないでください」

 合い方のボケに、信二は心底鬱陶し気にツッコむ。

「修也が暑苦しいのはいつものことだけど、今日はまた一段と殺したくなるな。何かあったのか?」

「おいおい信二君、君は今日が何の日か忘れたのかい?」

「忘れた」

「やれやれ、これだから信二君は」と修也は首をすくめてみせる。

 信二は手近に手ごろな鈍器がないか探してみるが、無かったので諦めてた。

「花火大会だよ、香夏子ちゃんと花・火・大・会!

 先月の七夕祭りは大雨の所為で香夏子ちゃんとラブラヴオルタネイティヴ出来なかったけど、今日は日本全国で降水確率〇パだし、もうコレは花火を見上げながら良い雰囲気になって、Aまで行っちゃいますか? Bなんてどうでしょう? え、もしかしてC? いやいやそんな、ボク達まだ付き合い始めたばかりじゃないですかぁ〜」

「あー、そうか、今日だったか、花火大会」

 後半をスルーして、信二は記憶の土壌を掘り返しながらひと月と少し前の自分たちを思い返してみる。

『どーせ来年は受験勉強で夏休みなんか有って無いようなもンだろjk。今年の夏は高校生活の最期の思い出に死ぬほど休みを満喫する! というわけで新蔦先生、ボクを男にしてください!!』

 唐突にそう言い出した修也は、とりあえず 年齢=彼女いない歴 の現状を打破すべく、親友の信二に協力を要請した。ターゲットは信二の幼馴染の、水嶋香夏子だという。

 断りたかったが、修也からお金を借りていて、返すアテが無かった信二に拒否権は認められなかった。

 それにしても修也の、ガードが固いことで有名だった水嶋香夏子(信二の目から見てもかわいい)へのあんな告白が、よく成功したものだと思う。


※あんな告白

「みっmみいみ水嶋あsん! ボぼボクとっつつtっ付い買ってくだしあ!」


 ……ホント、よく成功したもんだよなぁ、と信二はしみじみ思う。

 告白を受け入れられ、舞い上がった修也の『ぼくのかんがえたさいきょうのなつやすみ』計画作りを、信二は期末試験対策そっちのけで手伝わされ、結果赤点をとり、今に至る。

「修也、やっぱりお前は死ね」

「な、なんだよぅ……もしかして、四十八回目のボクの告白武勇伝が気に食わなかった?」

「……もういい」

 怒る気にもなれなかった。

 ふと、与えられた修也の分の課題の空欄が埋まってないことに、信二は気付いた。

「お前、惚気るだけじゃなくて、少しは手も動かせよ。去年みたいに、夏休み終了三日前になって俺に泣きついてくるなよな」

 信二の言葉に、修也は不敵な笑みを浮かべてみせる。

「オウフ、その心配は不要でござるよ新蔦氏。『ぼくのかんがえたさいきょうのなつやすみ』計画の邪魔になる夏休みの宿題など、二週間も前に駆逐済みでござる」

「は!? マジ!? 二週間前って、まだ補講期間中だろ!?」

 頭に『なんちゃって』が付く進学校とはいえ、夏休みの課題は尋常な量ではない。「ドゥフフ、マジでござる」と自信満々に胸を張る修也を相手に、信二は呆然としていたが、しかし、すぐに我に返る。

 目標のためなら、それを達成するまでのどんな苦境もものともせず、いかなる努力も惜しまない。そこに障害があればある程、熱く燃える……松佳修也は、名前が似ている誰かに負けず劣らず熱い男だった。

 綿密にすぎる夏休みの計画自体が、修也の水嶋への想いを表していることを、信二は早々に気付いていた。それほど、修也は香夏子に本気なのだろう。そんなことを考えていると、修也の暑苦しさも許せるような気がした。

「まあ、上手くいくと良いよな」

 信二が呟いたとき、教室に『MESSIAH』の楽曲が流れる。修也のケータイだった。

「おいおい、学校にいるときくらい電源は切っておけよな」

「いやー、メンゴメンゴ! うおっ、香夏子ちゃんからだ!」

 言って、修也は通話ボタンを押した。ここで会話するらしい。

「あ、み、水嶋さん? な、何かご用でありましょうかっ?」

「落ちつけよ」

 ところどころ噛みながらも、喜々として水嶋香夏子と通話する親友の姿を微笑ましく思いながら、信二は言った。

「うん、今日だよ、あ、今日です。えっと、それで、うん、うん、……えっ?」

 急に、修也の表情が強張る。

「……うん、うん、そっか……はい、ううん、全然いいよ? ホントほんと、うん、それじゃ、またね」

「……何だって?」

 通話が切れたのを見計らって、信二がうなだれる修也に声をかけた。

 修也がゆっくりと顔を上げて、笑った。

「香夏子ちゃんの弟くん、今日少年野球の練習試合だったんだって」

「……おう」

「今日、すっげー暑かったじゃんよ? だからなのか、その弟くん、試合の途中で熱中症で倒れちゃって、救急車呼んだんだってさ」

「……」

「ちょっと症状が重いらしくて、弟君、何日か入院するんだってさ」

「それで、今日は……」

 恐る恐る尋ねる信二に、修也は椅子から立ち上がって、ぎこちない笑みを浮かべてみせた。

「香夏子ちゃんって弟思いの良い子だよね! ホント、ボクもあんなお姉ちゃんが欲しかったよ。ウチの姉貴なんかとは大違いだっぜ!」

「お、おい、大丈夫か……?」

「『大丈夫か?』だって? このボク様が大丈夫じゃない訳ないじゃないのさっ! 心配なんて御無用不要っ!」

 そこまで言って、修也は椅子に座りこんだ。

「……うん、ホント、大丈夫だから」

「……そうか」

 言葉をかけても慰めにならないことは分かっていた。それでも何か言葉をと、信二は言葉を探す。

 そのとき、再び教室に先ほどの楽曲が流れる。弾けるようにケータイを耳に当てる修也。

「松佳です! 水嶋さん? うん……えっ!? 本当に!?」

「おい、一体何が……」

「……うん、うん、わかった! うん、じゃあ、詳しいことは、また!」

 瞬間、修也の表情が輝く。

「イイィヤッホォォォォウ!! 香夏子ちゃんが、埋め合わせに、『今度一緒に映画観に行こう』ってよ!! うおぉぉぉぉお!! 」

 さっきまでのブルーな空気が嘘だったかのように、修也が全身で歓喜を表す。

「ハッ、映画! そうだ、信二、今やってる映画でおススメは!?」

「え、サ、サマーウォーズ、かな?」

「よし、こうしちゃいられん。軍曹、出撃するぞ!」

「どこに!?」

 事態が未だ呑みこめない信二を置いて、修也は帰宅の準備をする。鞄を担ぎ、修也が真剣そのものといった顔で言う。

「映画館! 今からその映画観て、予習しとくんだよ!」

「……ああもう、分かった! クソッ、こうなったらトコトンまで付き合ってやるよ!」

 渋々鞄を担ぐ信二に向かって、修也はニカッと笑った。

「行くぜ、俺たちの夏休みは、これからだッ!」


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