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【C】三つの願い、一つの願い

この小説は【対戦カードC】の組み合わせです。

対戦相手は『夏霧の滴』となります。


以下企画ルールの項目から抜粋。

もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。


【投票方法】……必読!



  ・ルールを守らない書き込みは企画ルールを知らないものとして、集計から除外します。


  ・投票は特設掲示板から行います。

   移動は小説トップにある「投票・感想用掲示板」からお願いします。


  ・あらかじめ各SSタイトルのスレッドを立てておきますので、そこへ書き込みをしてください。


  ・投票する際は本文の最初に【投票】と書き込みを行ってください。

   (もちろん投票だけでも構いませんが、感想なども作者の方も喜ぶと思います)


  ・また投票はしなけど一点入れたい、

   という場合はやはり冒頭に【ナシ】という書き込みを行ってください。

   (加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)


  ・基本的に『小説家になろう』のサイトにある感想欄は使用いたしません。



 お盆休み某日。

 とある田舎にある父方の実家に帰省していた少年は、近くの山に出かけた虫取りに夢中になった結果、道に迷ってしまった。後ろを振り向いた時、自分の来た道が分からなくなってしまったので。

 パニックに陥った少年は、がむしゃらに辺りを駆けた。

 結果、疲れ果てた少年はその時、目の前に涼しそうな洞窟を見つけた。カバンの中の懐中電灯を片手に、少年は洞窟の中に入っていった。しばらく進んだところで彼は壁によりかかり、水筒を取り出して水を飲んだ。

 一息ついて、さりげなく懐中電灯を地面に向けると、そこに妙なものを見つけた。

 土や埃にまみれてくすんだ、金色のランプ。

 何とも言えない魅力に引かれ、少年はそのランプを手に取る。彼はカバンからタオルを取り出し、水筒の水で少し湿らせてからランプを拭いた。

 その瞬間、大量の白煙が少年を覆った。少年は思わず咳き込み、ランプを落とした。

 やがて煙が収まり、少年は眼を開ける。その先にいたのは、自分と同い年――小学生くらいの少女だった。

 唖然とする少年を尻目に、少女は涙を目尻に浮かばせながら頭を押さえて唸っていた。

「……お主、我がランプを突然手放すとは、良い度胸じゃのう。お陰で、頭をぶつけてしまったではないか!」

 彼女は、何とも少女らしくない大仰な口調で少年を罵った。意味の分からないままに罵倒された少年は、ただひたすらにオロオロと脅えた。

 しばし少年を睨んでいた少女であったが、やがて耐え切れなくなったように大笑いをした。

「なに、いつもの冗談じゃよ。お主のかわいい所が見れて何よりじゃ」

 意味不明なことを言い出した少女に、少年はますます酷く混乱した。

「さて、名を名乗ろうかのう……我が名はジニー。呼び出した者の願いを何でも三つ叶える、ランプの魔人であるぞ!」

 少女――ジニーは意味もなく自慢げに胸を張り、名乗りを上げた。

 先ほどからの許容量を超えた出来事の数々に、少年は唖然と立ちっ放しである。

 そんな少年を見て取ったジニーは、まるでこうなることが分かっていたようにニヤリと笑った。

「では試しに一つ、お主の願いを叶えてやろう」

 急にそんなこと言われても、と思う少年。

 ジニーはおもむろに、地面を指を刺す。

「お主、ここまで自分の意思で来たのかな?」

 一瞬、少年はジニーが何のことを言っているのか分からなかった。

 そして、その後すぐに、彼女が言わんとしていることを思い至った。

「要するにお主、道に迷っているのではないか?」


「ほ、本当に帰ってこれた……」

 こうして無事に森の入り口に帰ってこれた少年は、夢見心地の気分でそう呟いた。

「さて、私の言うことが本当だと分かったところで、次の願い事と行こうかのう?」

 ジニーは不敵にニヤニヤしながら、少年に問う。

 ようやく現実味が出てきた少年に、真っ先にこの願いが出てきた。

「んーっと……じゃあさ、ずっと夏休みにすることって出来る?」

「ほう」

「僕宿題とか給食とかが嫌いだから、ずっと学校がなくなればいいのにって思ってたんだ」

「お安い御用じゃ」

 そう言うとジニーは、何やら魔法を唱え始めた。やがて唱え終えたと思うと、一陣の光が走り、少年は思わず眼を覆った。

 恐る恐ると目を開けた少年だったが、特に何かが変わっているということはなかった。しかし、ジニーの力が本物なのは、先ほどのことで証明済みだった。

 ここで不意に妙に思い、少年はジニーに問いかけた。

「そういえばジニー。そもそも夏休みって何なのか知ってるの? ジニーには、知らないことのように思うけど?」

「そんな物、知っていて当然じゃ」

 少年の問いに、少女はまたしても不敵な笑みを浮かべて、答えた。

「そう……とても良く、知っておる」

 魔人の言うことは良く判らないと、少年は思った。

「さて、それはともかく最後の一個じゃぞ」

 目をイタズラっぽく輝かせながら、ジニーはジリジリと少年に詰め寄った。

「え、ええ……」

「ほれほれ、慌てずとも大丈夫。幾ら考えても私は逃げはせんぞ? よくお主の欲望と相談するがよい。私はその間、お主のかわいい懊悩の姿を眺めておるからのう」

 そんな風に語りかけながら、ジニーは悩み抜いている少年の周りを跳ね回る。

 少年は悩みに悩みに悩み……やがて困り果ててしまい、ついには泣き出してしまった。

 声を大きく、ひたすらにむせび泣く少年。少女はそんな彼を見て、ふっと微笑み、呟いた。

「……本当、かわいい奴」

 少女は、少年にそっと後ろから近寄り、後ろからそっと抱きしめた。

 びっくりしたように振り向いた少年は、間近に迫った少女の存在に、顔を赤らめて狼狽した。

 少女は、そんな少年を愛しむように微笑み、

「のう、私に良い案があるのだが」

 少年の耳元で、こう囁いた。

「叶える願い事をもう三つに増やすように、お願いするのじゃ」


 数年後。少年は豪奢なベットの上で、無表情に虚空を見つめていた。

「……ねえ、ジニー。僕もう飽きちゃったよ」

 宙を見たまま、少年は傍らに座る少女に言った。少女はそんな少年を、黙って見つめる。

 あれから少年は、ジニーの言う通りに、何度も何度も願いの水増しを行い、そしてその数だけ願い事を叶えて言った。

 欲望の赴くままに願いを叶えて、叶えて……気がついた時には、この世の全てを手にしてしまっていた。

 だからもう、少年の願い事は、何もなかった。

 少年は死人のような眼でジニーを見つめ、言った。

「ジニー。僕もう、終わりにしたいなあ……」

 そんな少年に、少年は悲しげに顔を歪めたが、やがて無理やりな微笑を作った。

 まるで――最初からこうなることが、分かっていたかのように。

「……お主、私と出会う前に戻りたくはないか?」


 お盆休み某日――少女は考える。本当は誰でも良かったのかもしれない、と。

 少女はランプの中で幾千年もの間、ずっとランプの中で過ごしてきた。だから、自分を見つけてくれる人であったのならば誰でも良かったのかもしれない。ランプの中で過ごす、絶望的な孤独から引っ張り出してくれる人であれば。

 一度願いを叶え終えると、再びランプの中に眠ることになる。そうなると今度は、いつ目覚めることになるか分からない。だから、あのような提案をして半永久的に自分が眠ることを防ぐことだけが目的だった。彼女がいつも行う最後の提案も、それの一巻に過ぎなかった。

 しかし、いつのことだっただろうか。彼でなくてはならないと――自分をランプの中から解放するのは、可愛げのある、あの少年でなくてはならないと思うようになったのは。

 彼には悪いと、本当に悪いと思いながらも、それでも少女は止められなかった。

 自分の身勝手な保身と――何より、自分の身勝手な情によって。

 そうこうするうちに、もう何度目になるかも分からない、ランプが擦られる感覚。

 モクモクと煙となって外界に出てきている最中、唐突に感じる落ちていくような感覚。そしてしこたま、頭をぶつける感覚――全てが、いつもの通りであった。

 そして少女はまた――いつも通りのからかいの言葉を、少年に向かって言った。

「……お主、我がランプを突然手放すとは、良い度胸じゃのう」

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