【B】沖縄旅行
この小説は【対戦カードB】の組み合わせです。
対戦相手は『なんでも貯金箱』『三ツ木オカルト研究部』の二つとなります。
以下企画ルールの項目から抜粋。
もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。
【投票方法】……必読!
・ルールを守らない書き込みは企画ルールを知らないものとして、集計から除外します。
・投票は特設掲示板から行います。
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(もちろん投票だけでも構いませんが、感想なども作者の方も喜ぶと思います)
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という場合はやはり冒頭に【ナシ】という書き込みを行ってください。
(加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)
・基本的に『小説家になろう』のサイトにある感想欄は使用いたしません。
内田一家は夏休み、沖縄に旅行に来ていた。元々沖縄好きだった父親が、子どもに一度綺麗な海を見せてやろうと、一ヶ月前ほどに計画を立てたのが始まりだった。母親も生粋の沖縄好きで、今年四歳になる子どもに、良い刺激になると喜んで賛成した。
「わあ父ちゃん、海が綺麗だよ」
目をキラキラさせて、広大な青色に向けて大きく手を広げた。日光が水面を幻想的な模様に揺らめかせ、三人の麦藁帽子に波のような光を映し出した。母は日傘を差し、熱い砂浜の上でそれをにこやかに見守り、父は横で子と一緒にはしゃいだ。
一家は金髪で、碧眼である。出身の国がそういう場所だったから、そういう容貌をしていた。
子の名前はナハタロウといって、沖縄好きの二人が直感でつけた。沖縄の那覇のように、元気で健やかな子に育つようにという願いが込められていた。
「お父さん、この水しょっぱいよ」
腰まで海につかるところまできて、ナハタロウが舌を出し、苦い顔をして言った。
「そうだ。海の水は塩を沢山含んでいてね、しょっぱいんだよ」
「へえ、そうなんだ」
好奇心旺盛なナハタロウは、思いっきり口内に塩水を含んで、案の定大きく咳き込んで吹くように吐き出した。相当な辛さにやられたのか、目尻には涙が浮かんでいる。父はそんなナハタロウの背中をさすりながら言った。
「気を付けたほうがいいぞ。大自然は恐いからな」
「うん」
初めて水の恐さを知ったナハタロウは、その胸に恐さを美しさを焼き付け、海を後にした。
海で目一杯遊んだ内田一家は、遊泳していた魚を捕らえて海辺で火を熾して焼いた。ちょうど海の塩分がいい塩加減になって、ナハタロウも大喜びの塩焼きが完成した。その美味といえば頬が落ちるほどで、三人は心も身体も暖まった。
「こんな美味しいもの初めて食べたよ!」
「そうだなあ、うちではこんなもの食べられないからなあ」
魚を頬張る父親や母親の顔も幾分か綻んでいる。ナハタロウの笑顔に海よりももっとキラキラとした時間を過ごせていることに、彼等は喜びを胸いっぱいに感じていた。
「いいか、沖縄なんて滅多に来れないからな。しっかりと味わっておくんだぞ」
「はぁい」
大きな声でナハタロウは返事をした。
沖縄は旅行者のゴミのポイ捨てや観光地の開発で水質汚染が広がり、数年前に島ごと重要文化財指定を受けた。本来は立ち入り禁止であるが、国が運営する懸賞で一等を引くと夏休みの期間での沖縄旅行がプレゼントされていた。それを内田一家が見事に当選し、旅行に来ているというわけだった。
時間はあっという間に過ぎ去り、日が傾き始めてきた頃、浜辺で見守っていた母親が大きな声を上げて二人を呼んだ。
「そろそろ時間よぉ」
夕方を過ぎると満ち潮になる。浜辺はほとんど海水に埋まってしまい、足場を失うので長いは禁物だった。母親はそれを確かめるためという名目でも、浜辺にいた。この浜辺も実は天然ではない。海の水かさが急激に増した昨今、砂浜というのはほとんど存在していない。浜辺は観光用に作られた人工の足場だった。水音をじゃぶじゃぶ立てながら戻ってきた二人は、適当なタオルで身体を拭いて服を着替えた。
「どうだ、楽しかったかナハタロウ?」
「うん! また来たいね」
楽しげに言う声の内容は残酷で、父は苦笑いでそれをやり過ごした。
帰りは国の用意したジェット機である。散り散りになっていた約十組ほどの観光者たちが同様にジェット機に乗り込んでいく。皆、背にした沖縄の風景を名残惜しそうにしていた。
内田一家が席に着くと、タイミングを見計らったように着ないアナウンスが流れた。楽しい時間の、終わりの合図だ。ほどなくしてジェット機は発進し、空高くに浮上した。
ハナタロウは魅入られたようにじっと窓の外を見つめている。光景は、一面の青だった。
「なあ母さん、ニホンが海に沈んでしまったのはいつのことだったか」
「十年も前の昔のことではなかったしら。あの時は本当に残念だったわ」
「地球温暖化、大気汚染、地質汚染と色々騒がれてきたが、本当にこうして形になってしまうと後悔しかないな」
「本当ね」
しばらく我慢していたが、父も耐え切れなくなってナハタロウの顔の横から外の光景を覗いた。見渡す限りの青。既に無き島。もう一度ここに来ることはあるのだろうかと考えて、父は物寂しくなった。
「なあナハタロウ」
「何?」
「地球は、青いな」
「うん……」
火星政府が地球を世界遺産に登録して、もう何年も経った日のことだった。