【B】三ツ木高校オカルト研究部
この小説は【対戦カードB】の組み合わせです。
対戦相手は『なんでも貯金箱』『沖縄旅行』の二つとなります。
以下企画ルールの項目から抜粋。
もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。
【投票方法】……必読!
・ルールを守らない書き込みは企画ルールを知らないものとして、集計から除外します。
・投票は特設掲示板から行います。
移動は小説トップにある「投票・感想用掲示板」からお願いします。
・あらかじめ各SSタイトルのスレッドを立てておきますので、そこへ書き込みをしてください。
・投票する際は本文の最初に【投票】と書き込みを行ってください。
(もちろん投票だけでも構いませんが、感想なども作者の方も喜ぶと思います)
・また投票はしなけど一点入れたい、
という場合はやはり冒頭に【ナシ】という書き込みを行ってください。
(加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)
・基本的に『小説家になろう』のサイトにある感想欄は使用いたしません。
「夏休みといえば、肝試し! 我等が三ツ木高校オカルト研究部としては、この機会を逃さぬ手はない! 故に今宵、この校舎で肝試しを行いたいと思う!」
と提案したのは、部長の桜田くんだった。その童顔は、本人はコンプレックスに感じているようだけれど、私はとても魅力的だと思っている。い、いや、だからと言って好きとかそういうことじゃないよ? 本当だよ?
ぱちぱちと私は手を鳴らしたが、残りの二人はやる気なさそうに、
「どうでもいいけど桜田先輩ぃー、この部屋のエアコン、いつになったら直るんですかぁー?」
恥ずかしげもなくバタバタとスカートを扇ぐ女の子、一年生の水野さん。女の私でさえはっとなるような綺麗な顔立ちをしているのだから、もう少し女の子らしくすればいいのにと常々思う。
「同感だぜ……肝試しなんかよりも、この暑さをいかにして凌ぐかを話し合うべきだ」
桜田くんと同じ二年生、眼鏡を掛けて知的な氷川くん。背が高くてモデルみたいなオカルト研究部副部長。桜田くんとは昔からの腐れ縁なんだって。
「私は肝試しがしたいなぁ……」
そしてこの私、二年生の緑山夢子でオカルト研究部全員というわけだ。
「お前らなぁ……」
桜田くんは会議机を叩いた。
「そのエアコンを直す為の会議をしてんじゃねぇか! 何か活動して報告しないと、エアコンどころかこの部室まで取り上げるって言ってきてんだぞ、あの生徒会は!」
そうなのだ。オカルト研究部は今、ピンチな状況にあるのだった。
夏休みに突入してから、暇な時は毎日四人でこの部室に集まって雑談したり、テレビゲームを持ち込んだりして遊んでいたのだが、つい先日、私達に快適な環境を提供してくれていたエアコンがうんともすんとも言わなくなってしまった。そこで桜田くんは生徒会にエアコンの修理を願い出たのだが、オカルト研究部は前々から生徒会とはあまり仲が良くなかった為、話はこじれにこじれ、決裂。夏休み明けまでにちゃんとした活動報告をしなければ、部室の使用権を剥奪されるという事態に発展してしまったというわけだ。
「だけど桜田先輩。肝試しって言ったって具体的に何を調べるんですか?」
水野さんが今度は下敷きでスカートの中に風を送り込みながら言う。
「あっ、言われてみれば確かに……」
そんな悪い幽霊、この学校にいただろうか……?
桜田くんは人差し指を立てた。
「あるだろ一つ。ほら、聞いたことないか? 十年くらい前、この学校のトイレで死んでしまったという女子生徒の話」
「ああ、花子さん的なアレな」
氷川くんが眼鏡の位置を直す。
「そうだ。ともかく今夜の肝試しではその話の真偽を確かめる。いたらいたで今後詳しく調査、いなかったら噂の起源を辿って生徒会に報告する。異論はないな?」
「はーい」
「おう」
「うん!」
その後、水野さんは「そんなのいるわけないけどねー」と呟いていたけれど、私は内心とてもワクワクしていた。
こういうのって何だか高校生っぽい!
一度解散し、私達が再び校門前に集合したのは深夜の零時を回った頃だった。
「よし、全員揃ったな。懐中電灯はちゃんと一人一本準備して来てるな?」
桜田くんが懐中電灯を持った手を軽く挙げる。
「私は問題ないよ」
「オーケーでーす」
「俺も持って来てるぜ」
私が桜田くんに頷くと、水野さんと氷川くんも明かりを付けて見せる。
「それじゃあまずは部室に移動しよう。窓の鍵を開けておいたから、そこから校舎内に入るぞ」
オカルト研究部の部室はたまたま校舎の一階にあった。校内で肝試しするには打って付けの進入場所と言える。
移動する三人の背中を追いながら、私は昼間から続いているワクワクが自分の中でどんどんと大きくなって行くのを感じていた。これぞ青春!
「うふふっ、楽しみになって来たぞ〜」
「え?」
水野さんがこちらを振り向く。
「何でもないよ、何でも。ふふっ」
水野さんは怪訝そうな顔をしたが、肩を竦めて、再び前を向いた。
部室から屋内に入って廊下に出ると、真っ暗な闇が広がっていた。星や月の明かりが遮られているから、外よりも暗い。確かに何かが出そうな雰囲気である。
桜田くんが懐中電灯の明かりを付けて、先頭に立った。
「場所は二年の女子トイレだ。三階に上がるぞ」
「お、おう」
見ると、氷川くんがしきりに眼鏡の位置を直している。一体どうしたのだろうか?
水野さんも氷川くんの異変に気付いたようで、
「ははーん? さては氷川先輩、ビビってますねー?」
「ば、馬鹿か、仮にもオカルト研究部だぜ!? ビビるわけねぇだろ!」
「あはは、そういえば氷川くんは怖がりだったね」
氷川くんはそっぽを向いて「と、とにかく行くぞ!」と昇降口の方へ歩いて行く。私達は苦笑しながらそれに続いた。
やがて、二年生の女子トイレに辿り着く。
入口のところで桜田くんが足を止めた。
「さて、問題の場所まで来たが……皆、覚悟はいいか?」
「どうせ何もいやしませんよ」
「そ、そうだな。さっさと確かめてさっさと撤収しようぜ」
「よし。行こう、桜田くん!」
この時には既に私のテンションは頂点に達しようとしていた。ワクワクが止まらないとはこういうことを言うに違いない。
四人で女子トイレへと足を踏み入れる。
桜田くんの懐中電灯がトイレの奥を照らす。特に変わった様子はない。
個室は四つ。桜田くんが一つ目のドアに手を掛ける。
開ける。誰もいない。
二つ目のドア。開ける。誰もいない。
三つ目のドア。開ける。誰もいない。
そして四つ目、一番奥のドア――
私のテンションゲージが最大になると同時に、ドアが開け放たれる。
ゴボゴボゴボゴボッ!!!
その瞬間、トイレの水が噴水のように溢れ出した。
「おわっ!?」
「嘘っ!?」
「ぎゃー、出たぁあああ――ッ!!!」
氷川くんが絶叫して、一人全力で逃走する。
「きゃー! きゃー!」
テンションの上がり切った私はとにかく叫び、その場でぴょんぴょん跳ね回る。
「とにかくここは一旦逃げるぞ!」
桜田くんが水野さんの手を取って、トイレを飛び出す。
「あーん、桜田くん酷いー! 私も女の子なのにー!」
何となく名残り惜しい気持ちになったが、私も二人の後を追った。
「十年前、この学校に隣接した家屋に、一人の女子生徒が住んでいた。不治の病を患っていて、ろくに学校に通えないどころか立つのも辛い状況だったんだそうだ。彼女は二階の自室の窓から学校に通う生徒達をいつも羨ましげに見つめていた。
そんなある日、彼女に一度だけ学校に通っていいという許可が下りた。彼女は嬉々として学校に登校したらしい。ところが、学園生活を楽しむ間もなく具合が悪くなってしまう。
彼女は思った。もしもここで具合が悪いことを言えば、すぐに家に連れ戻されてしまう。そんなのは嫌だ。
彼女は満身創痍で人目を避け、女子トイレに向かった。奥の個室に入り、鍵を掛けた。
少し休めば具合が良くなる。そうすればもっと学校にいられる。
そう信じて彼女は目を閉じた。そして、そのまま……」
校舎を出て校門へと向かいながら、桜田くんがそんなことを話した。
水野さんは「へぇ……」と頷き、氷川君は魂の抜け殻状態だった。
「――ま、いずれにしても今夜はもう解散だな」
「あはは、氷川くんも参っちゃってるしね」
私は校門の前で足を止めた。皆とは帰り道が正反対なので、ここでお別れだ。
「じゃあね、皆。また明日!」
見えない手を振る。
水野さんは振り返らずに口を開いた。
「それにしても、本当にいたんですね。トイレの夢子さん」