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離れていても

作者: ArmoniaProject

「かずおねーちゃん、急に掃除しだしてどうしたの? この前もしてたよね?」

 掃除機を引っ張り出して自分の部屋に運んでいると、すずに声をかけられました。

「同好会のみんなとリモートミーティングをすることになったから、少しでも綺麗にしておきたくて」

 昨日の夜、チャットアプリKreisの合唱同好会のグループで、一ノ瀬先輩が提案してくれました。外出自粛で学校も長い間休校になってしまっているので、お互いの近況報告も兼ねて、とのことでした。初めはリモートミーティングがどういうものなのか分かりませんでしたが、若菜ちゃんがビデオ通話だと思えばいいと教えてくれました。それと、やり方も個人の方のチャットで教えてくれて、ありがたく思うのと同時に、機械音痴であることを改めて申し訳なく思うのでした。

「そっか。頑張ってねー」

「うん、ありがと」

 特に頑張ることはないような気がしますが、頑張ってと言われて悪い気はしません。

 掃除の後は軽く髪の毛を整えて、イヤホンをスマホに差し込んで準備完了です。約束の時間まであと五分くらい。もう二週間くらいみんなと会っていないので、初めてのビデオ通話にドキドキはしますが、それ以上に楽しみです。

「あっ、来た!」

 軽快なメロディーが着信を教えてくれます。若菜ちゃんに教わった通りに操作して通話を始めます。

「もしもし!」

 四分割された画面にみんなが映っています。

『あ、かずねちゃん、無事に繋がったのね』

 菫先輩のほんわかした温かい声を聞くとやっぱり安心します。

「お久しぶりです!」

『……元気そうで安心したわ』

『紗耶香先輩も元気そうですね』

 紗耶香先輩と若菜ちゃん。二人とも少し声が弾んでいるような感じがします。

『皆さんちゃんと練習してるですか?』

 休みになる前に心春ちゃんから伝えられたこと。筋トレや発声練習など、家で一人でできるものを毎日やるように言われました。

「うん、やってるよー。って、心春ちゃん今どこに居るの?!」

 心春ちゃんを除いた全員はそれぞれ自分の部屋らしい場所に居るのですが、心春ちゃんだけは薄暗い牢屋みたいな場所に居ます。

『私たちが目を離したばっかりに……』

『……いつかやるんじゃないかと心配してたけど』

『どんなことになってもこはるちゃんはこはるちゃんだからね……!』

 みんなも驚いています。まさか本当に捕まっちゃったのでしょうか……。

「心春ちゃん……」

『やはり和音さんだけ本気にしてますね。それにしても、皆さん冗談とはいえ失礼ですね……。バーチャル背景ですよ』

 ニュースで聞いたことがある単語が心春ちゃんの口から飛び出しました。

「えーっと……どういうこと?」

『簡単に言えば合成だな。背景に好きな画像を使える機能があるんだよ』

『これはポルソナ5というゲームのモルモットルームという場所の背景です。他にも色々……』

 心春ちゃんは解説しながらコロコロと背景を替えていきます。喫茶店、ライブハウス、芸能事務所、などなど。解説はよくわからなくてあまり頭に入ってきませんでしたが。

『……そろそろ普通の背景に戻したらどうかしら?』

『そうね。心春ちゃんの部屋が見たいわ』

 先輩方に言われると、心春ちゃんの表情が固まりました。

『まさか、汚くて見せられない、なんてことはないよな?』

『そ、そんな訳ないじゃないですか。そこまで言うのなら見せるですよ』

 心春ちゃんが何かをガサゴソと動かす音がした後、背景が切り替わって心春ちゃんの部屋が見えました。綺麗に見えますが……。

『どうです。ちゃんと綺麗にしてるですよ』

『ふーん、じゃあ画面の端にあるゴミは何だ?』

 ゴミなんて見当たりませんが、若菜ちゃんには見えているのでしょうか?

『まさか慌てて片付けたせいで見落として——。やってくれましたね、若菜さん』

『やっぱり思った通りだ』

 悔しそうな顔の心春ちゃんと呆れ顔の若菜ちゃん。ああ、いつも通りって感じがします。

『仕方ないじゃないですか。私だって忙しいんですよ』

『……大方、アニメばっかり見てそうだけど』

『アニメ以外にも、多くの声優さんが動画配信を始めているのでそれを見たり、自粛の影響でソシャゲのイベントのボーダーが上がっているので、今までよりも頑張って走る必要があるですし、他にも——」

『うふふっ』

 菫先輩がとっても楽しそうに笑いました。

「菫先輩どうしたんですか?」

『こはるちゃん成分を久しぶりに補給できて嬉しくて』

『……昨日の夜、いきなり電話かけてきたのよ。急にどうしたのって聞いたら、助けてって言うから心配したのに、こはるちゃん成分が足りなくて限界なのって』

 それで、このリモートミーティングを企画したのと言ってため息をつく紗耶香先輩。確かに急に助けてなんて言われたらびっくりしてしまいますね。

『流石に気持ち悪いです』

『こればっかりは擁護できないです……』

『そんなあ、わかなちゃんまで……』

 がっくりと項垂れる菫先輩。どうにかして励まさないと……!

「あ、あの! 私もみんなと会えなくて寂しかったので、気持ちはわかると思います。多分……」

『やっぱりかずねちゃんはいい子ねぇ。ありがとう……』

「いえ、でも、本当に久しぶりにみんなの顔が見れて、声が聴けて、元気が出ました。紗耶香先輩、ありがとうございます!」

『……別にいいわよ。私もほっとした部分はあるし』

 紗耶香先輩は俯いてしまったので表情はわかりませんが、とても穏やかな声です。

『早くまたみんなで集まって話したいですね』

『話すのもいいですが、歌うことを忘れられては困るですよ』

「うん! 私楽しみにしてるよ!」

『いい返事です。それでは、また会う日まで心身共に元気に過ごすですよ』

『ええ』

『……そうね』

『ああ』

「うん!」

 離れていても繋がれる。離れていても心は繋がっている。だから私たちは乗り越えられる。きっと元通りに、ううん、前よりも素敵な日が待っているから。その時を信じて。

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