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おまけ 『それは7つの愛のカタチ』

三人称です!(適当)

 それはある日の早朝、城内のとある部屋。


 冬の寒さで冷えた部屋の中、桃色の髪をした一人の女性が、高級木で作られた立派なテーブルを二つ、直列に並べた。角砂糖の入った瓶が二つあるテーブルを並べ終えた後、部屋の隅の薪置き場から一つの薪束をおもむろに持ち上げる。そうして慎重に、煉瓦で作られた暖炉の中に薪を放り込んだ。


 暖炉の中の灰が舞い、目に入らないように手を振る。


 指先に小さな炎を作り出し、暖炉の中に放り込んだ薪にその火を点けた。乾燥しきった一つの薪に火が点く。その火は他の薪にも燃え移った。


 それを確認し、薪置き場とは対称の位置に積み重なっている赤い椅子。それの金箔が張られた両肘を掴んで持ち、椅子の台座をテーブルの下に潜らせて二つずつ、計六つを対称的に並べた後、テーブルの直列の先端部分に一つだけ同じ椅子を潜らせる。


 女性は一息つき、上に身体を伸ばし、その部屋から出て行った。


 部屋は薪の焼ける音だけが鳴っている。


 パチ――パチ――


 パチ――パチ――


 パチ――――


 音が鳴る。


 音が鳴る度、部屋の温度が高まる。


 森の木こりの家のような閑寂かんじゃくの中、桃色の髪の女性が木製のトレイの上にティーカップを7つ乗せて帰ってきた。


 純白のティーカップにはティーバッグが一つずつ掛けられていた。

 木製のトレイをテーブルに置き、その部屋の隅の小さな机の上に置かれていたティーポットを手に取る。その蓋を開けて指先から水を出して注ぎ込んだ。


 女性はティーポットの蓋を閉じ、それに向かって蝋燭ろうそくの火を消すように優しく息を吹きかけた。また蓋を開けると、雲のように白い水蒸気がモクモクと上がる。


 テーブルに置かれたトレイからティーカップと受け皿を手に取り、それぞれの椅子の前に一つずつ置き、全てにティーポットからお湯を注ぎ入れた。

 テーブルの先端に潜り込ませた椅子を引いて座り、その女性は誰かを来るのを、窓から見える町の景色を眺め、膨らんだ腹部を擦りながら待っていた。


 部屋に入るための扉が、トン、トン、トン、と鳴き、桃色髪の女性は椅子から立ち上がった。


「どうぞ、お入りくださいませ」


 扉が開き、個性的な衣服を身に着けた女性が6人、新たに部屋に入ってきて、自然に席へ着いた。

 桃色髪の女性も席に着き、その6人と視線を交わす。


 桃色髪の女性から見て左側にいるのは、前から、桃色の髪に紫が混じったような髪をし、尖がった帽子を被った女性。

 次に、紅色の髪の女性。

 最後に髪を結った茶髪の女性が座っていた。

 右側には、手前から、赤くサラサラとした髪を生やした女性。

 次に金髪の気が強そうな女性。

 最後に、耳が横に尖がっている薄い緑色の髪をした女性が座っている。


 赤い髪の女性と紅色の女性以外の5人は腹部が膨らんでいて、時折腹部をさわる仕草をしていた。

 桃色髪の女性は深呼吸をして話し始める。


「皆さん、集まっていただいたのは他でもありません、タロウのことについてです」


 桃色髪の女性が話すと、他の6人は静かに点頭てんとうした。

 続けざまに、



【――傍で、自分だけが永遠に愛したい、愛されたいと思いませんか?】



 と質問する。

 6人の女性は黙り込み俯いた。


 雲が太陽光を隠し、窓から差し込む光が消え、部屋の中がほんの少しだけ暗くなる。

 桃色髪の女性は、テーブルの下の隙間から一つの注射器を取り出した。

 注射器の中にはどろどろとした赤い液体が少量入っていた。


「お父様から預かったものです。私たちが永遠に生き、幸福を得るために使えと仰ってくださった、【永遠の血】です」


 とんがり帽をかぶった女性は、その注射器を桃色髪の女性から受け取りじっくりと眺めた。


「永遠の血……っすか」


 小さな声で呟き、注射器を左右に揺らし、中の液体をじっくり見つめる。

 桃色髪の女性が、テーブル下から他に7つの注射器を取り出した。


「えぇ、そうです。これを皆さんに一つずつ差し上げます」


 そう言い、赤い液体が少量入った注射器を一人一人に回して配る。桃色髪の女性の前には、赤い液体が少量入った注射器と、それが半分以上入った注射器が残されていた。


「この注射器はタロウさん用です」


 容器の半分以上に液体の入った注射器を指さし、その注射器に蓋をして、自分の胸に挟んだ。


「何故、タロウさん用のものは多量なんですか?」


 髪を結った茶髪の女性が首を傾げた。

 桃色の女性は目の色を変え、頭を横に傾けにっこりと笑った。



【――皆さん、きっと愛している部位があるはずです。あの人の、部位を】



 その言葉を聞き、6人の女性は硬直する。



【――なら分け合いましょう? あの人は一人しかいないのですから】



 桃色髪の女性は、少量の赤い液体が入った注射器の針を首に刺し、その液体を自ら体内に注入した。



【――そして、永遠に彼を愛し、愛され続けましょう】



 桃色髪の女性は6人の女性にも同じことをするように言い、その指示に従って、6人の女性は桃色髪の女性と同じように、首元から赤い液体を注入した。

 全員が液体を注入したのを確認し、桃色髪の女性は手をパンと叩いた。


「これで私たちは永遠の命を手に入れました。それでは、これからどのようにするかをお伝えします」


 嬉しそうにする女性は、一枚の紙と鉛筆を取り出して机の上に置き、簡易的な人間の身体を描いた。


「それでは、皆さま一斉に、愛する部位を指し示しましょう!」


 ――――せーの!


 掛け声に合わせ、一人ずつ体の部位を指さした。


「一回で……決まりましたね」


 桃色髪の女性は記号をつけて、誰が何処の部位を指で示したかを記録した。


「理由を教えていただけますか、ジャルジーさん」


 桃色髪の女性が、髪を結った茶髪の女性に訊いた。


「初めてみた時から……、一目惚れでした」

「……素敵です。十分な愛ですよ」


 人間の身体が描かれている紙の頭の部分に、赤鉛筆で丸を描いた。


「アイファズフトさんは」


 金髪の女性に訊いた。


「私が人質に取られていた時、右脚が助けてくれました」

「……カッコよかったのですね。ええ、愛です」


 金髪の女性は顔を赤らめて頷いた。


「それでは、テナシテさん」


 薄い緑色の髪の女性の目を桃色髪の女性が見つめる。


「……私を乗せてくれた大きな背中」

「そっちね……。いいえ、良いと思います。愛しているのですから」


 次に、尖がった帽子を被った女性の顔を見た。


「ベゼッセンハイトさんは?」

「……あの宝石っす」

「左脚の脛に埋まっている、あの?」


 とんがり帽子がコクリと動く。


「うんうん、愛を感じます。セーロスさんは?」


 赤い髪の女性は俯いて、もじもじして耳を赤くした。


「……快感」

「……それも一つの愛です」


 桃色髪の女性は紅色髪の女性に目を向ける。


「エンヴィさんは?」

「……差し伸べてくれたんです、手を」

「……深い愛ですね」


 桃色髪の女性は二回頷き、自分の胸に手を押し当てた。


「私は左手。ずっと待っていました。想いをせて」


 桃色髪の女性は赤鉛筆で、紙に描かれた記号全てに丸を付ける。


「今夜、あの人の部屋に忍び込み、7つの愛を取りましょう。その際、なるべく切れ味の良い刃物を持ってきてください」


 6人は頷く。


「私があの人の首に注射器を刺して液体を注入します。それが終わり次第、愛を分け合いましょう。液体が注入された後、自分が欲しい愛のカタチの傍に行き、宣言をするのです――――」



 ――その部位を愛する理由を。



 部屋は静寂に包まれる。

 今まで雲が遮っていた太陽光が、再び窓から差し込んできて、部屋全体を明るくする。

 桃色髪の女性は笑顔になり、手をパンと一回叩いた。


「それでは、7つに愛を分けるということで決定です。また夜にお会いしましょう」


 そう言い、全員が一斉に紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がった。

 桃色髪の女性以外の6人は部屋からぞろぞろと出て行った。

 1人、部屋に残った女性はテーブルや椅子を片付け、暖炉の火を消す。

 飲み干されたティーカップをトレイに乗せ、それを持って部屋を出た。




 深海のような月光が窓から差し込んでいる夜、一つの扉の前に包丁や剣を持った女性7人が集合した。


「……行きましょう」


 桃色髪の女性は、静かに扉を開ける。


 ――――ギイィィィ――――


 きしむような音が鳴る。


 7人は足音を立てないように慎重に歩き、男性が大の字で寝ているベッドの上に一人ずつ乗っていき、その男性を囲んだ。

 桃色髪の女性は男性の顔の横に左手を置き、首に注射器を刺し、赤い液体を注入する。


「な――!」


 男性は思わず声をあげた。

 抵抗しようとする男性を、他の6人の女性が押さえつけ、引き続き桃色髪の女性は赤い液体を男性に注入する。

 注入し終えた後、男性はピクリとも動かなくなった。


「……私たちは、〝あなた〟が片時も離れず、傍にいてくれれば他は何でもいいんです」


 桃色髪の女性と他の6人は隠し持っていた包丁や剣を表に出す。


「皆待って、あと数十秒で完全に回るはずだから」


 そう言われ、刃物を出した6人の女性は身体をそわそわとさせた。

 それから数重病が経ち、女性たちは顔を見合わせ、今いる位置を移動する。


 桃色髪の女性は男性の左腕の傍へ。


 髪を結った茶髪の女性は、男性の頭を自分の太腿の上に乗せる。


 金髪の女性は男性の右脚を持ち、優しく撫でる。


 薄い緑色の髪をした女性は男性の胸元に顔を擦り付ける。


 桃色髪の中にほんの少しだけ紫色を混ぜた髪の女性は男性の左脚にしがみ付く。


 赤い髪の女性は男性の股間節に優しく触れる。


 最後に、紅色の髪をした女性が男性の右腕の傍へ。


 そして、一人ずつその場で宣言をしていく。


【思いせ、勇敢な左手、左腕――。ジェロシーア】


【いつ見てもカッコいい顔――。ジャルジー】


【私を助けてくれた脚――。アイファズフト】


【私を運んでくれた身体――。テナシテ】


【最高の右脚っす――! ベゼッセンハイト!】


【子どもなんていらないから――。セーロス】


【私に差し伸べてくれた優しい右手、右腕――。エンヴィ】


 7人の女性は刃物を振り上げた。



『『『永遠の愛を、我らに――――!』』』



 7人は同じ言葉を発した。



「――――せーのっ!」



 桃色髪の女性の掛け声を合図に、7人の女性は男性の身体を切断しようと、刃物を何度も何度も振り上げ、力強く振り下ろした。


 血液がベッドに散乱。所々に血だまりができた。


 髪を結った茶髪の女性が、皮一枚でつながった首を斬り終える。

 切断した部位を、一人ずつ自分の胸に寄せ、皆優しく撫でていた。

 時折、その切断された部位はうねうねと動いた。


 桃色髪の女性は、髪を結った茶髪の女性が持っている男性の頭部の目を見て、頬をゆっくりと優しく撫で下ろす。

 そして、その耳元で呟く。



『7人を平等に愛することはできません。でも、永遠の命さえ手に入ればそれができるんです。これからあなたは皆を平等に愛せます。そして愛されます。どうですか、嬉しいでしょう? 永遠に愛せる気持ち。永遠に愛される気持ち。その全てが手に入るんです。快感も、幸福も、永遠に手中に収めることが出来ます。さぁ、これから私たちと一緒に永遠の愛を分かち合いましょうね。最初にも言いましたが、それでは――――』



 ――――良きハッピーエンドを。

簡潔です完結です!

ありがとうございました!

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