最終話 『解体ハッピーエンド!』
「ハーッハッハッハ!」
――任命式の時と同じように、城の中の自分に与えられた大きな部屋の中で大きく笑った。
俺にはもう、惨めな人生なんてやってこない!
最高、最高だ……。
ただ、その一言に尽きる。
宴が終わった次の日、7人を俺の部屋に集めた。
皆、それぞれの個性に合わせた可愛らしいフリルのドレスを着ていた。
赤、青、緑、黄、桃、紅、紫……。
化粧をしていて、本当に皆綺麗だった。
今日は結婚式。
国全体が、この世界全体が俺を祝福する。
結婚式は城の中にある巨大な空間に作られた協会施設で執り行われた。まず、俺が入場し、その次に、一人ずつ式場へと入場していく。
普通に考えたら超カオス状態だが、そんなことは知りやしない。そして、新婦が例の如く誓いの言葉を発する。
「タロウ殿、あなたはここにいる7人の女性を妻とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
俺は頷く。
「ああ、誓う」
続けて、7人に向けて誓いの言葉発する。
「エンヴィさん、ジャルジーさん、アイファズフトさん、テナシテさん、ベゼッセンハイトさん、セーロスさん、ジェロシーアさん。あなた方はタロウ殿を夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしています。汝健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り、心を尽くすことを誓いますか?」
皆頷いた。
「それでは、誓いのキスを」
俺は左から順に接吻をしていった。
最後のジェロシーアに接吻し終え、俺はジェロシーアの顔を見つめた。
教会内でその様子を見つめていた人々の誰かが拍手をしはじめ、その拍手が伝染して城外からも俺たちを祝福する拍手が聞こえ、その音が場内に鳴り響いた。
結婚式は無事終わり、俺は一人部屋に戻った。
これで、これから俺は幸せな生活を送り続けることができる。
なんて素晴らしい人生なんだ……。
異世界転生、この世界で死ぬことになったら、次の人生で、またこうやって最高の人生を送りたいものだ――。
◆
一か月後、7人のうち、魔族以外の5人が子どもを授かった。もちろん俺の子どもだ。
魔族と人間の交配はできず、エンヴィとセーロスは悲しんでいた。
俺はその二人をどうにか励ましたが、その2人に構うばかりになってしまい、他の5人にあまり話を掛けることができなくなった。
全ての嫁を平等に愛す事が難しいとその時に悟った。だが、俺は諦めず、自分の時間を削ってまで一日一回は全員と話した。
皆、俺の前では笑顔でいる。
おそらく大丈夫だろう。
■
――それからまた一か月が経ち、雪の降る季節になってきたある日の朝、7人を探して城中を歩き回ったが……
――何処にもいない。
いつもいる場所にいない。
噴水の前、中庭のベンチ、妃の部屋、中央のベランダ、俺の部屋の隣にある個室、風呂場……。どこを探しても、誰の姿も見つからなかった。
それどころか、いつも廊下で槍を構えて警備をしている王国の兵士すら見当たらない。
城下町は活気あふれているというのに、まるでこの城だけ外界と切り離されたような……。
不自然にほんの少しだけ開いた会議室の扉を見つけた。隙間をそっと覗くと、7人が机を並べて椅子に座り、何かを話し合いながら紅茶を飲んでいた。
「―――では、――――ということで決定です。また夜にお会いしましょう」
途中うまく聞き取れなかったが、そう言って両掌を叩いて、話し合いを終わらせたのはジェロシーアだった。
椅子から立ち上が入り会議室の扉へと向かってくる。
俺は近くの倉庫の中に身を隠し全員が出て行くのを待った。そして、全員が出て行ったことを確認し、俺は倉庫の扉を少しずつ開けすぐに出る。
「あら? あなた、どうなさいました?」
ジェロシーアの声だった。
「い、いいや、ちょっと探し物でな」
「そうですか」
7つのティーカップと受け皿、それに白いティーポットを乗せたトレイを持っているジェロシーアはにっこりと微笑み、俺に手を振って自分の部屋へと戻って行った。
俺も自分の部屋に戻り、一人ベッドの上に横たわって考え事をする。
一体、あの7人は何を話し合っていたのだろう。
決定? また夜? 会う? 一体何の話だ?
考えている睡魔に襲われ、俺は眠りについてしまった。
●
深夜、身体に違和感を覚えて目覚める。
目を開けると、俺のベッドの上には昼間に会議室で話あっていた7人がいて、俺の顔を見つめていた。
ジェロシーアは俺の首元に何かを尖ったものを刺し、その何かから液体を注入させた。
「な――!」
俺は思わず声をあげる。
俺の目覚めに気づいたジェロシーアの手が一瞬止まったが、必死に抵抗する俺を他の6人が無理やり押さえつけて、ジェロシーアは止まった手をまた動かし、謎の液体を首から注入する。
ジェロシーアが液体を注入し終える頃には、俺の身体は殆ど動かなくなっていた。
「ジェ……ロ……」
もう、まともに声も出せなくなっていた。
「……私たちは、〝あなた〟が片時も離れず、傍にいてくれれば他は何でもいいんです」
そう言い、7人はそれぞれ腰に付けていた大きな出刃包丁や剣を取り出した。
「皆待って、あと数十秒で完全に回るはずだから」
ジェロシーア以外の6人は皆そわそわしている。
そして、宣言通り数十秒が経ち、ジェロシーアは真正面から俺の左腕の近くへ寄ってきた。
【思い馳せ、勇敢な左手、左腕――。ジェロシーア】
次に、ジャルジーが枕をどけ、膝枕で俺の頭をふとももの腕に乗せた。
【いつ見てもカッコいい顔――。ジャルジー】
アイファズフトは俺の右脚を持ち優しく撫でる。
【私を助けてくれた脚――。アイファズフト】
テナシテが俺の隣に来て、剣を片手に俺の胸部に顔をくっつける。
【私を運んでくれた身体――。テナシテ】
ベゼッセンハイトは俺の左脚にしがみ付いた。
【最高の右脚っす――! ベゼッセンハイト!】
次に、セーロスが俺の股関節を撫でる。
【子どもなんていらないから――。セーロス】
最後に、エンヴィが右腕の近くに来た。
【私に差し伸べてくれた優しい右手、右腕――。エンヴィ】
7人は刃物を振り上げる。
『『『永遠の愛を、我らに――!』』』
7人は一斉に同じ言葉を叫ぶ。
――――せーのっ!
ジェロシーアの掛け声を合図に、俺の両腕や両脚、腰から上の上半身に脚を除いた下半身、首にまで、何度も何度も、7人は包丁や剣を振り下ろし始めた。
俺の身体に刺さり、血が激しく飛び散っているものの、そんなことはお構いなしに、7人が必死に俺の身体の部位を切断しようとして刃物や剣を振り下ろしていた。
『ザク、ザク、ザク、ザク』
骨を砕く音が聞こえる。
ジャルジーが思い切り包丁を振り下ろして首が斬られた時、俺の視界は黒く染まった。
その時既に、首以外の部位は切り取られていた。
その後、微かにジェロシーアの声が正面から聞こえた気がしたが、何を言っていたか聞き取ることができなかった。
オマケもあります! そちらもよしなに! オマケは三人称視点です!