5話『テナシテ / セーロス』
特に女の収穫もなく、トラブル解決を繰り返し他の町や村でも行いそこで称賛の声が俺たちに浴びせられた。広い地域を回った為、既に俺の名は世界に轟いていた。
そのうち、ベゼッセンハイトすらも俺の魅力に気が付いたらしく、定期的に四人のどろどろした喧嘩が起こるようになったが、それと同時に友情が深まっていった。
喧嘩するほど仲がいいとはこのことだな。
テナシテは相変わらず俺の背中にくっついているが、初期よりは話をするようになり、ジャルジーも、今じゃ料理上手な良い女になった。
アイファズフトはというと、時々俺に甘えてくるようになり昔よりかは素直になった。
ベゼッセンハイトは、最初のころは俺に爆発系魔法を撃って終わった後に心配の一言もかけてくれなかったが、最近では「大丈夫っすか? 怪我はないっすか?」と、眉を顰めて、爆発後に声をかけてくれるようになったし、それに加えて、爆発魔法の研究内容のことだけでなく、日常の会話も普通にできるようにもなって親交はより深まった。
――――一か月後。
俺らは魔王を打倒しに行くべく、魔界への扉があるという山に登っていた。
途中、俺は魔物と人間が共存するという村に立ち寄った。
表面上は人間と魔物が夫婦になり、共に人生を歩んでいる絵面だが妙な違和感を感じた。
――そうだ、人間の女がおらず、人間の女のような見た目をした魔物である≪サキュバス≫と、人間の男しかいない。それに、何故かサキュバスは全員、地表が熱い地帯だというのにも関わらず、皮膚を隠すように様々な衣服を着こんでいる。
村は一見幸せそうに見えたが、俺たちが少し出かけてくると言って出て行き、村の様子を窺ってみると、俺たちが出て行くのを確認した村の男は、サキュバスの首に首輪のようなものを取り付けて鞭でサキュバスの体を叩き始めた。
「しっかりやれ! このバカメスが!」
他の男も同じように首輪をサキュバスに取り付け鎖でつなぎ、衣服を脱がせて身体を殴ったり蹴ったりしている。
なるほど……。
人間が悪魔だったというわけか。
俺はこっそりと村の出入り口ではない場所から戻り、少し離れた場所にいた人間の男を斬った。人間の男は音もなく黒い灰となって崩れ去り、その場には、下着だけを身に着け皮膚に鞭の赤い跡がくっきりと残っているサキュバスだけが残った。
「……?」
サキュバスは徐に振り向き、俺の顔を見た。そして、俺の下半身に抱き着いてきて思い切り泣きじゃくった。
俺はしゃがみ込んで、そのサキュバスのほんのり赤い髪の毛が生えた頭を優しく撫でる。そのサキュバスに他のやつらも倒してくると伝え、ジャルジーやアイファズフトのいる物陰に行くように指示をした。そのサキュバスは走り、その物陰へ姿を消した。
村の中心に行くと、光景を見られた男たちが、目を光らせてこちらに向かってきた。
『グアァァァアアアアア!!!!』
刀や包丁を持って襲ってくる男たちの攻撃を華麗に避け、俺は一人ずつ斬りかかり、最後の一人になるまで無駄な動きは一切見せずに全てを灰にした。
最後の一人が恐怖に怯え逃げ出そうとしたので、俺はその男目掛けて剣を一振りする。
男は叫び声をあげ、その場で灰となって風と共に消え去った。
周りにいたサキュバスたちが、ボロボロの身体で俺の近くにやってきてお礼を言った。
その後、物陰に隠していたサキュバス含め全てのサキュバスを、ジャルジーやテナシテの回復魔法で直して俺らは村を出た。
村から去ろうとしたとき、一匹のサキュバスが俺についてきた。
……最初に助けたやつか。
そのサキュバスは、仲間になりたそうな目でこちらを見ていた。
「お前、名前は?」
俺は優しく語り掛ける。
「せ、せーろす」
片言だったが名前は聞き取れた。
俺は仲間を顔を合わせ、そのサキュバスを仲間に加えることにした。そして山頂にあると言われている魔界への扉に向かった。
山頂に着き、本当にあった魔界への扉を開く。
紫色の靄が渦を巻いている。
俺たちは手を合わせ、掛け声をあげ、恐る恐るその扉の中へと入って行った。
扉を抜けると、まどろんだ空の下、不気味に聳え立つ巨大な城が目の前に佇んでいた。
どうやら、その城へと続く大橋にワープしてしまったらしい。
俺たちは顔を合わせ、その城向けて走った。
城に住まう魔物たちを蹴散らし、俺は最上階の大きな赤い扉の前に立つ。紫色の炎が靉靆たる城をより一層不気味なものへと変貌させる。
「よし、行くぞ!」
その扉を開けた。
次話もよろしくお願いいたします!