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3話 『アイファズフト』

 大きな門の前に構えていた兵士が、俺たちの姿を見るなり槍を構えて足を止めさせる。ジャルジーはすぐにマントを掴み、俺の後ろに隠れた。


「ここは今立ち入り禁止だ」


 何故か、そう訊くと、強大な賢い魔物が一人の女性を人質に町中で暴れまわっているからだと言っていた。


「俺が倒そう」


 そう言い、剣を取り出し、勇者の証である紋章をみせた。その直後、慌てたように俺たちに敬礼をして、町の中に入ることを許可した。


「あれです」


 兵士が指す方向を見ると、一軒家より大きな全身が紫色の蛙が、下に人間を巻き付けて暴れまわっていた。


「た、たすけなさーい! 誰でもいいからわたくしをたすけなさーい!」


 女性と言っていたが、声から判断するとするなら俺よりも若そうな女だ。


 俺はジャルジーにその場で待っているように言い、全力疾走で町の大通りを通り、崩れた瓦礫を跳んで避け、巨大蛙の構える中央の広場に辿り着いた。

 巨大な蛙は奇妙な鳴き声をあげる。


「そ、そ、そこのあなた! 私を助けなさい!」


 俺は近くにあった宿屋の屋根の上に一回のジャンプで上がり、捕まえられている金髪ロールの女に言った。


「おい、人に物事を頼むときは他の言い方があるんじゃないか?」


 その金髪ロールのドレスを着た女は足をばたつかせた。


「お、お願いいたしますわ! た、た、た、助けて、助けてくださいませんか! 助けてくれたらなんでもするからー!」


 こういう女はこうやって扱うのが一番やりやすい。

 口角を上げ、剣を取り出した。

 基本的に剣を振れば魔物は倒せるが、人質をとられているとなると話は別だ。単純に剣を振るって倒したらどんな被害があるか分からん。とりあえず、あのべろべろに伸び切った舌をぶった切ってから考えることに――


 蛙は手のひらから泡を飛ばして俺に直接攻撃をしてきた。


「あっぶねぇ!」


 俺は間一髪のところで避け、泡がぶつかった屋根を見る。すると、屋根は溶けだし白い煙を出していた。


 なるほど、溶解液か……。

 だがしかし、そんなものに俺は負けない。何故なら――


 素早さが最高値になる靴を履いているからだ。


 屋根から一瞬で消えた俺を見つけられないまま、蛙はきょろきょろとあたりを見回す。


 残念。もう既にお前の舌の下にいる。お前はもう、死んでいるッッッッッ!!!!!


 俺は剣で舌をぶった切り、蛙の顔を思いっきり蹴り、その反動で舌に包まれた金髪ロールの女を抱きかかえ、地に足をつけた。


「……、か、かっこいい……」


 その女は俺の顔をまじまじと見つめ、何かを呟いた。いやもう、全部聞こえた。


「なんだ?」


 わざと聞こえなかったフリをして聞き返す。

 背が小さめの金髪ロールの女は目を逸らし、手を合わせてもじもじしはじめ、顔を赤らめた。


「な、何でもいいでしょう……!」


 巨大な蛙は俺の蹴り一発で倒されてしまったらしく、町の住民の歓声が少しずつ聞こえ始めた。


「や、やったぞ!」

「勇者よ! 勇者が来たわ!」


 ジャルジーが走ってやってきて、俺の傍まで来ると、膝に手を当てて休憩し呼吸を整えた。


「そ、その方は……?」


 息を荒げながら、金髪ロールの女を見た。


「あー、こいつは……」

「……こいつ、じゃないわ! 私は〝アイファズフト〟。この町を支える貴族の娘よ。これでも18歳なんだから!」


 完全なお嬢様だったらしい。


「その……、今日はこの町に泊まっていくことにしなさい」


 そのまま勝手に話は進み、壊れた街の修復作業を町人がする中、俺は夕焼けでオレンジ色に染まる町を、アイファズフトに案内され、ジャルジーと3人で歩いた。


 夜。何故かアイファズフトも俺と同じ部屋に泊まることになった。風呂に入ってパジャマ姿になった2人は、テーブルに置いてあった牛乳を、腰に手を当てて一気に飲み干した。

 その後、2つのベッドがある部屋で1つのベッドをジャルジーが使い、色々あって疲れたのかすぐに眠りについてしまった。

 アイファズフトはというと、俺を椅子に座らせて腕を組み、耳を少し赤らめながらじっと俺の顔を見つめていた。


「…………」

「おいおい、何の真似だ」


 アイファズフトは不意をつかれたかのように驚き、「えっ」と小さく声を発した。


「えっと……、あなたに伝えたいことがあるわ」


 アイファズフトは俺の頬を掴み、俺とくっつきそうになるくらいまで顔を近づける。昼間の金髪ロールとは違い、髪が全て降ろされていて、赤い眼をしていたアイファズフトは、子どもというより、大人の女の雰囲気を醸し出していた。


「私を連れて行きなさい」

「……は?」


 その提案に俺は疑問を投げかける。全く意味が分からない。


「……もう嫌なの、この町で過ごすのは。親からは習い事ばかりをさせらるし、パパやママは私に構ってくれやしない。それに、親のすねかじっている子どもだって陰で言われて、もうこんな生活うんざり。だから明日の夜、人気がなくなった時、ジャルジーを連れて抜け出しましょう? ね、いいでしょう? タロウ……」


 そう言って、めそめそしながら俺の身体にしがみ付いてくる。確かに、こいつの親には何のお礼も言われていないし、町の住人が俺を祝福する中、こいつに対しては「助かってよかった」なんて言葉は殆どかけられていなかったな。


 それはそうと、これは……。


 チャーンス!!!


 これは絶好の堕としチャンス! ここで俺が優しさをみせれば、こいつは完全に俺に惚れこむ。間違いねぇ、絶対だ。

 俺は腕を回り込ませ、アイファズフト優しく抱擁ほうようした。アイファズフトは俺の胸の中で嬉しそうに笑う。


「……ありがとう」


 それから、アイファズフトは俺の寝るベッドに俺と一緒に横たわり、俺を抱き枕のようにして抱きつき、そのまますぐに眠ってしまった。

 チョロいもんだ。よし、こいつの言う通り明日の夜にこの町から出て行くことにするか。

 くるくるロールはそこまでじゃないが、大人びたこいつの顔は今まで感じたことのない衝撃を俺に与えた。

 町に住んでいる他の女よりも顔立ちは綺麗だしな。

 俺は目を閉じ、明日に備えて寝ることにした。



 ――――翌朝。



「「ちょ、ちょちょちょちょちょ、何してるんですかーーーー!!」」



 ジャルジーの五月蠅うるさい声で起こされた俺は、自分の右脚に纏わりつく何かを見た。

 どうやら、アイファズフトが俺の右脚をしっかりとホールドして寝ているらしい。

 よだれまで口から流して寝てやがる。今日抜け出そうってのに呑気な奴だ。

 俺が足を揺らすと、アイファズフトは目を覚まし、今の状況を見て顔を真っ赤にしてすぐに跳び上がった。


「ち、ちち、違いますのよ! 勘違いなされないで! ジャルジー!」


 それから、顔を赤くして怒っていたジャルジーに、アイファズフトが一時間くらいで事情を説明した。ジャルジーは渋々だが、何とか納得した。

 今日の夜に抜け出すために荷物を纏めてからまたくると言い、先に宿から出て行き自分の家へと帰って行った。俺とジャルジーは部屋に取り残され、とても気まずい雰囲気になる。


「タ、タロウさん……」


 唐突にジャルジーが口を開く。


「わ、私の方が上ですからね!」


 そう言い、部屋から出て行った。


 私の方が上? ああ、俺を好きな度合いってことか?

 はっはっは! モテる男は辛いぜ。


 それから俺らは宿で一日を過ごしその日の夜、荷物を纏め、昨日の服装ではないアイファズフトがやってきた。

 短剣を腰に携え、頭に白いキャップを被り茶色いコートの中にワンピース、そしてスポーツシューズという奇抜なファッションセンスで、俺たちがいる部屋にノックを3回してから入り、サングラスを取った。


「ふぅ」

「いやそうはならんだろ」


 軽く突っ込みを入れたが完全に無視された。ベッドの上で並んで座る俺たちの目の前に立った。

 どうやら金髪ロールをやめ、髪を全て下げてきたらしい。それはそれで大人びていて可愛いがな。


「あと数時間後に行きましょう」


 その時、時計は夜9時を回っていた。3人で雑談を交わし、数時間があっという間に過ぎると、町の明かりはもう消えていて、通りに人は誰一人いなかった。


「いきましょう、今ならいけるわ」


 俺らは宿屋を出て、見張りが誰もいない町外へと続く小さい扉を目指し、外灯すらない真っ暗な道を歩く。その間、ジャルジーとアイファズフトは俺の腕を掴み、目を瞑りながら離れないように付いてきていた。

 怖いのか。

 扉に辿り着いた俺たちは、周りに誰もいないことを確認して扉を出て行った。




 ――――脱出成功だ。

次話もよろしくお願いいたします!

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