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2話 『ジャルジー』

 寂れた村を歩くと、少し不審がられた。

 突然訪問した俺を避けているように見えた。

 そこで、鍬を振り下ろしながら農作業をしているじいさんに話をかけた。


「なぁじいさん、困ったことはねぇか?」


 じいさんはくわを地面に置き、村の近くの山の巨大な空洞を指さした。


「あぁ、旅の人かね。そうさなぁ……。時折、あの空洞から何かの生物の唸り声が聞こえるんじゃ。村の住人はそれに、怯えていて、夜も眠れん。旅人よ、もしよければ、あれを解決してはくれんかの」


 俺はグッドサインを送り、すぐさまその空洞に向かって走って行く。

 その際、髪を結ったとても可愛らしい村娘が野菜の入った籠を背負って歩いているのが見えた。胸は少し控えめだが、何より顔が可愛らしい。


 よし、この村ではあの女をどう落とすかを考えるとするか!!


 ヒャッホーーーーーーイ!


 あー、だがその前に……。


「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 俺は村の中を駆け抜け、全力疾走でその山に向かった。

 割と近くにあった山の空洞に着き、光を一定時間放つ魔法を使い、暗い空洞を明るく照らす。


『ウウゥゥ、グゥゥウウ』


 空洞と言うか、洞窟の奥から獣のような唸り声がして、空洞の壁に波があたり反響しているみたいだ。


 ふっ、だが……。

 伝説の防具に身を包んだ俺に、ダメージを与えられる奴などいない。

 俺は巨大な洞窟の最深部を目指し走り出す。


 途中に出てきた魔物は蹴りで全て薙ぎ倒し、道中の表面にむき出しにいなっていた高価な鉱石にも目もくれなかったため、あっさりと最深部に着いた。するとそこには、俺の身長よりも遥かに大きい狼のような獣がぐっすりと眠っていて、その周りにはそいつの子どもが何匹もいた。


 俺の足音に気づいたのか、一匹の子ども狼が眼を覚まし雄叫びを上げた。それに反応した他の狼たちも鳴き出し、親狼を起こした。

 親狼の魔物は俺を見るなり、洞窟全体どころかあの村にまで響き渡るような咆哮ほうこうを出した。


 俺は紋章のついた剣を鞘から取り出し、剣先を魔物の群れに向ける。


「残念だったな、俺が相手で」


 剣を横に振ると、先ほどまで威嚇していた魔物は光と共に全て消えた。


「ふっ、やはり弱いな」


 剣を鞘にしまい、俺は洞窟を後にした。



 村に戻ると、洞窟からの咆哮を聞きつけた村の住人たちが俺に群がってくる。


「大丈夫じゃったか!?」


 先ほどのじいさんが俺に近寄り心配そうにこちらを見つめてきた。


「ああ、中にいた魔物は倒した。これで怯えることなく暮らせるぜ。それに、あの洞窟には高価な鉱石が埋まっていた。恐らく何かしらの鉱脈だろう。それで村の生計を立てるのもいい」


 じいさんやばあさんは手を擦り合わせ、俺を拝んだ。

 俺が目を付けていた女もその場にいた。その女は俺と目が合うと、果物の入ったバスケットを両手で持ち赤面させながら大きな木造りの家に入って行ってしまった。


「そうじゃ!」


 依頼をしたじいさんが手をポンと叩く。


「こういう者にあの娘をやろう!」

「それがいいですね! 村長!」


 俺に群がっていた住人はそのじいさんに賛同して、皆で拍手をした。


「さぁ、話をつけますので、あの家でお待ちください、勇者様」


 俺はあの顔の良い女の入って行った、他の家と比べて大きめの家に案内された。そこで待っていてくれと言われ、リビングの椅子に座らされ、温かいお茶をテーブルに出された。



 数分後、階段からじいさんとさっきの女が降りてきた。

 その女は恥ずかしそうにこちらを見たが、すぐ手で顔を隠した。

 じいさんとその顔の良い女は俺の前に座る。当然、女は俺の目の前に座らせられる。


「……こら、挨拶なさい」


 赤面した顔で、足の親指の爪先を合わせ、太腿の間に両手をはさみもじもじとする女に、俺は心を奪われそうになる。


「ど、どどどどどうも、ジャルジーですっ……!」

「……俺はタロウだ」


 顔に両手を当てて、左右に振りながら、恥ずかしそうにしていた。


「このは捨て子でな……。身寄りもなく儂が引き取ったのじゃが、どうもこの村とは合わないらしくて……」

「というと?」


 俺は違和感を覚えて聞き返す。


「このを連れて行ってほしいのじゃ。それで、さっき聞いたのじゃが、お主は魔王を討伐すべく任された王国最強の勇士らしいな。それならこれからの生活も安泰じゃろうし、きっとその方がジャルジーも幸せじゃろう」


 で、ジャルジーを連れ、俺は村の大きな問題を解決して出て行った。

 村の皆はジャルジーに手を振り、ジャルジーも手を振り返した。


 しばらく歩いたものの、どうも会話が弾まない。

 ジャルジーが内気な性格だから。というわけでなく、俺みたいな若い男と話したことがないため話慣れていない、そんな様子だった。


 会話はそこまで広がらないうちに、次の町に辿り着いた。

次話もよろしくお願いいたします!

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