結婚しました
蹴りを見舞い、拳が舞う。舞うようなその動きは見惚れるほどだが、縁側でそれを見つめている天音にしてみれば武術というよりは武芸だ。優雅で目を留めさせるものの、実戦向きではない。だからこそ鍛え甲斐があるとも思える。
「鍛えるの?」
横に座ってスイカを頬張りながらスマホを操作していた紗々音がそう聞くが、今やおばあちゃんになった天音はにんまりと笑うだけだ。
「そういたいんだけどねぇ、ここまでが限界」
「すじはいいと思うんだけどね」
「才能的には普通・・・・」
「真、かわいそう」
6歳になり、もう本格的に鍛えていい年頃とはいえ、父親である明日斗がそれを拒否している以上、もうどうしようもない。母親である祐奈が基礎だけでも叩きこんで欲しいと申し出て、今に至っているだけだ。
「石垣無双流、にはならないか・・・」
「真にしても、焔にしても茜にしても、基礎だけって話だしね」
焔はりんごが産んだ男の子で、茜はサクラが産んだ女の子だ。天音は世間的に嫁とはいえない彼女たちも皆平等に嫁として扱っている。だからこそ、2人目を産んで間もない祐奈の代わりにここに来ているのだから。
「孫は何人いてもいいわぁ」
「私も来年結婚だし、また増えるね」
「もっと早くに結婚してほしかったけどね」
遊びに仕事にと忙しい紗々音がようやく結婚となったことは嬉しい。だが今や6人の孫に恵まれ、その上近々7人目が増える。だからか、天音は縁側からリビングに移動する。大型の壁掛けテレビの傍にある棚の上には数多くの写真が飾られている。その中で一番大きな写真盾を手にし、微笑みを浮かべた。写真の下には『結婚しました』の文字が印字されている。純白のウェディングドレスに身を包んだ瀬音と、それに寄り添う明日斗の写真だ。他の子たちとも似た感じの写真はあるが、天音はこの写真をとても気に入っている。
「ばーちゃん!」
そう言われて振り返った天音に抱き着いてくる男の子がいる。3歳になったばかりのその子は純真な目で祖母である天音に微笑みかけた。
「来たな、天才!明日斗が許してくれるなら、あんたを鍛えたいよ。あんたは今いる孫の中で明日斗の強さを引き継いでいる唯一の子だから」
そう言うと男の子を抱っこした。そして2人で写真を見つめる。男の子にとって父と母の結婚式の写真を。
「さて、スイカ、食べようね?」
「ばーちゃん、あした、プールね」
「そうだね」
そう言い、リビングを後にする。いつの間にか焔と茜も真の傍にいる。天音は笑みを濃くして空を見上げた。夏の暑い空を。
「明日、晴れるといいね」
その言葉に頷いた男の子に幼い日の明日斗を重ねた天音はその子を降ろすと、追加のスイカを準備すべくキッチンへと向かうのだった。
木戸明日斗は石垣明日斗になり、このまま一生瀬音を支え続けるだろう。りんごとサクラ、祐奈へも愛情を注ぎつつ、数多くなった自分の子供たちにも同様に。
幸せの形は人それぞれ、だから、これでいい。これは、彼らの物語なのだから。




