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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
最終話
58/62

明日の音 2

今日は瀬音のお見舞いを紗々音に任せ、明日斗は仙人が拘置されている場所に向かっていた。会う理由はたった1つ、今後のことを聞くためだ。特安によって仙人が関わったという証拠が発見され、彼の罪状は殺人未遂に加えて殺人教唆も上乗せだ。その上、朝妃がベラベラと話をしていることもあって、かなり追い込まれた状態にある。だからこそ、はっきりさせる必要がある。今後、石垣家にどのような関りを持とうとしているのかを。明日斗はもう覚悟を決めている。最後までこの件に関わり、全てを終わらせる覚悟を。だから面会室で待っている間も実に穏やかであり、恐怖も何も感じない。そう、目の前に不敵な笑みを浮かべた仙人が現れても。


「君が面会とは、ね」

「予想外でしたか?」

「いや、想定の範囲内だ・・・・でも、君は俺の想定を上回る嫌な存在だ」

「誉め言葉、ですよね?」


無表情の明日斗のその言葉にニヤリと微笑んだ仙人は鋭い視線を浴びせてくる。それでも平然とした明日斗はあの夜に戦ったまま、仙人の脳裏に焼き付いたあの明日斗のままだった。だからこそ仙人は恐怖を表に出さず、余裕のある表情を崩さない。


「石垣家を追い出されることになった。まぁ、当然だろう?こうしたのは全て俺なんだ」

「分家の方々が動いている、だから、ですか?」

「そういうことだよ、瀬音もまた全てを失う」


ここで明日斗は片眉を上げた。理解している、そういう風に。きっと石垣家はいいように分家の面々によってもみくちゃにされ、結局は全てを失うだろう。有り余る権力を手にした者が辿る末路はそう決まっている。だからこそ、明日斗は瀬音のそばにいると決めたのだ。どんな結果になろうとも、守り続けると決めたのだから。


「あなたは2つ、失敗を犯した」

「ほう?」


明日斗の言葉に興味を惹かれたようだ。1つは分かっている、そういう顔をした仙人をまっすぐに見据えてから、明日斗はその内容を口にする。


「1つは、瀬音さんの心を完全に掴み切れなかったこと」

「ああ、そうだ・・・・貴様のようなくだらない男に本気になった、それは誤算だ。だが、計画をゆがめるほどではなかった」

「もう1つは、あなた自身が計画の中心にならなかったこと」

「はぁ?」


予想を遥かに超えた言葉に心底驚いた声をあげた。どういうことか理解に苦しむ。失敗はただ1つ、木戸明日斗という人間を過小評価していたことだ。脅威かもしれないと考慮し、その筋書きを用意しなかったことのはず。


「あなたがもっと中心になって改革を進めればよかった・・・・すべて周囲を動かすことで手にしようとした傲慢さが呼んだ破綻」

「・・・・・俺が叫んで、何が変わった?どう変えられる?」

「あなたほどの人間なら、真正面から徐々に変えられたはず。なのに、あなたは自分は隠れて、周囲を動かし、漁夫の利を得ようとした」

「それが得策だった」

「結果、あなたは今、ここにいる」


その鋭い言葉に対し、仙人は立ち上がって明日斗を睨みつけた。


「あなたは僕に負けた・・・・敗因はたった1つだけ、あなたが僕より弱かった、それだけです」


そう言い、明日斗は立ち上がり、仙人に背を向けた。


「負けた理由は、そんな些細なことです」


ふり返った明日斗の目はあの夜、最後の一撃を放つ寸前のそれだった。だから仙人は後ずさり、恐怖にまみれた顔をしてみせる。


「あなたが石垣家に関わろうとしても、俺が阻止します。命に代えても」


そう言い残して明日斗は部屋を出た。仙人の絶叫が響き渡る部屋を。



病室に顔を出した明日斗は紗々音と談笑している瀬音を見てホッとしていた。両親を失い、兄は逮捕され、そして周囲の親戚に不穏な動きがある今、彼女の精神状態が心配だったからだ。だからこそ、裏から手を回さないようにと仙人に会って釘をさしたのだから。かといって今の自分にはそこまでしか出来ない。


「明日斗、あなた、あんなに強いだから紗々音ちゃんとしっかり試合してあげなさいよ」

「・・・またその話?」


うんざりした顔をする明日斗に対し、紗々音は侮蔑の視線を浴びせてくる。


「無駄無駄、このヘタレは期間限定、しかも人生で一回きりのあの状態だもの」

「その通りだよ」


あれは奇跡の一回だ、それこそ、人生に1度きりの。だからか、明日斗は微笑んでいる。満足している、そういう笑みで。


「2人には感謝しかない」

「だったら、退院したらさ、とびきり高級で美味しいものをごちそうしてほしい」


紗々音のその提案に苦笑しつつ、瀬音はうなずいていた。その程度でいいなら安いものだ。2人には命を救われ、こうして毎日通ってくれることで精神的にも安らいでいる。この状況で明日斗を好きになっていなければと思うと恐怖でしかない。それほど、今の明日斗に依存している。


「でも、家の方はどうなるの?大丈夫なの?」


紗々音の言葉に一瞬表情を曇らせたが、瀬音は小さく微笑みを浮かべた。


「今は叔父さんたちに任せてるけど・・・もう、ダメかもね。家もどうなるか・・・・」


その笑顔が儚く、壊れそうに見える。だからか、紗々音はとびきりの笑顔を見せて瀬音の両手を握りしめた。驚く瀬音を無視し、紗々音はその手に力を込める。


「だったらさ、マジでおにぃのお嫁になりなよ!正直、そんなくっだらない権力争いするような家より、ウチの方が強いし、権力あるよ!2人でさ、乗っ取られた石垣家を乗っ取り返そう!」


嬉々としてそう言う紗々音に小さな笑みを返す。こういう発想がありがたい。石垣家がどうなるかの瀬戸際にある中、この提案は瀬音の中の不安を少し減らしてくれるのだから。


「それはそれで構わないけれど、水梨さんたちはどうするのかな?」


そう言い、じとっと明日斗を見やった。そんな明日斗は知らん顔をして窓の外に目を向ける。


「あっちはあっちで何か色々やりあってるよ。もう面白い事だらけ」


心底楽しそうにそう言う紗々音に苦笑し、それから同じような顔をしている明日斗見て優しく微笑んだ。はっきりした答えを出していないのがわかるだけに、紗々音同様楽しんでいることを自覚出来ている。かといって、他の誰かに渡してもいいという感覚はない。今は明日斗に依存しているのだから。


「そういえば、そろそろ?施設の退所は」

「明日だよ。今は簡単な荷物の整理中」

「その忙しい中、いつもありがとう」

「いいよ、片づけ遅れる口実になってるから」


にこやかにそう言う紗々音の頭を軽く叩き、明日斗はため息をついた。そんな兄妹を見てくすくすと笑う瀬音を見た明日斗はまだもう少しの間はこうして直接瀬音の傍にいて支えようと心に決めたのだった。



いよいよというか、ようやくというか、遺伝子研究所を去る時がやってきた。とはいえ、ここに避難したことで安全性が格段に上がり、色々な対策がとれたことはかなり大きい。それがわかっているからか、全員が見送りに来てくれた職員や元所長であるウラヌスに深く頭を下げた。


「本当にありがとうございました」


母親はそう頭を下げ、ウラヌスが差し出した手をしっかり握って握手をした。あいにくと父親は仕事で来れなかったが、かといってウラヌスは何も思わない。


「借りが返せて嬉しかった」

「本音言うと、ずいぶん前にチャラになったと思ってるけどね」

「私を自由にしてくれたんだ、その借りは今回でもまだ少し残ってると思っているぞ」

「自由にしたのは天都だよ」

「みんなだよ、みんなに救われた」


その言葉に母親はにこやかに微笑むと強く手を握り返した。だからウラヌスは小さく微笑む。


「木戸の娘も、頑張れ」

「世界で一番強くなるから、見てて」

「冗談に聞こえないところが凄い」


ウラヌスの近くにいた阪田が苦笑してそう言い、紗々音はそんな阪田に向き直った。


「またお手合わせしに来るね?」

「せめて半年は期間が欲しいですけどね」

「そりゃ、また差が開くね、その期間じゃ」


紗々音の言葉に笑みを濃くし、阪田は紗々音とがっちり握手を交わす。なんだかんだで大勢に囲まれる紗々音はここでのマスコットキャラ的に愛されていたのだろう。


「木戸の息子も頑張れ」

「何をどう頑張るかはこれからですけど」

「それでいい」


そう言い、2人は固い握手を交わした。


「女子高生たちも、元気で」

「はい!」

「ありがとうございました」

「ちょっと聞いた?私もJK扱い!」

「童顔だし、精神年齢幼いし」

「・・・先生をバカにしない!」


わいわい騒ぐ面々を制し、母親の号令で車に乗り込む。名残惜しそうにしてくれる職員たちに手を振ると、それぞれ2台の車がゆっくりと走り出した。


「楽しかった」


誰ともなく職員がそう言い、全員が頷く。当初は部外者の入所を嫌った者も多かったものの、今では全員が寂しさを感じている。特に誰彼構わず接してきた紗々音のおかげだろう。涙ぐむ者もいる中で明日斗たちは施設を後にするのだった。



今日は全員が久々に家路につく。だが、独り暮らしの祐奈だけが寂しいと木戸家に泊まることになっていた。それもりんごやサクラには内緒で。かといって何かを仕掛けようという気はない。瀬音のゴタゴタが片付くまではどうすることも出来ないことを自覚している。こんな結末になるのは予想外だったこともある。それに明日斗はそんな瀬音を心配しているし、今の状況で先手を打とうと動いてもそれは逆効果になることは目に見えている。


「先生、お風呂どうぞだって」


客間にいろ祐奈にそう声をかけた明日斗は手招きする祐奈にため息をついてから近づく。どうにもここ最近はあの反石垣同盟が大人しいため、警戒ばかりしている。


「石垣さん、大丈夫?」


そっちかと思いホッとする。


「気丈には振舞っているけど、どこか不安定です・・・どうしても」


正直にそう言う。笑顔もみせてくれているが、全体的にはどこか危うい気がしている。全てを失った、その喪失感をどうにかごまかしているようにしか見えないからだ。


「だったら、傍にいてあげて」


意外な言葉に驚きつつ、明日斗は頷いて返す。祐奈は祐奈で心配していたのだ。いや、祐奈だけでなくりんごもサクラもだ。悲惨な結末だっただけに、やはりそこは心配だ。


「俺が傍にいて何ができるかわからないですけど、ま、もう少し落ち着くまでは」

「彼女がちゃんと回復したら、全部に結論出して。一旦リセットして、ね」


覚えていたのかと苦笑しつつ頷く。だから祐奈も笑顔になった。悔しいが、今の瀬音の支えになれるのは明日斗だけなのだ。婚約者として、そして全てに決着をつけた明日斗だけが出来ることなのだから。


「このまま瀬音さんを選んじゃうかもね」

「その前に私が子供つくるけどね」

「祐奈らしい」


そう言い、明日斗は笑いながら部屋を出た。だから祐奈も笑顔をみせる。きっと明日斗は瀬音を選ぶのだろう、そう思う。だからといって何もしない自分ではない。だからこそ、ごく近い未来で明日斗が選ぶ道を予想し、動くことに決めた。そのためにりんごとサクラにラインをするのだった。



真剣な顔をして病室に入って来た叔父夫婦はそのまま無言で椅子に腰かけた。来るべき時が来たかと覚悟を決めた瀬音だが、やはり心のどこかで揺らめきを感じる。


「親戚一同、本家だけが所有している不動産や株式、その他の財を振り分ける方向で動いている・・・それに本家のあの屋敷も売りに出し、石垣家の今回の不祥事をそれで終わらせようと」

「それで・・・そんなので本当にどうにかると?ただお金が欲しいだけじゃない!私には何も言わず!勝手に進めて、結果だけ!」


絶叫する瀬音を諫めることなく、夫婦は俯いてしまった。実の息子だった仙人のしでかしたことに責任を感じてここまで色々動いたが、権力よりも財力を欲した親戚の勢いは止められない。正当な相続人を差し置いて、欲にまみれた者どもはもう動き始めている。


「あなたが未成年だから、それを理由にね」


叔母の言葉に怒りが湧いてくる。かといって今の自分に何が出来るのかはわからない。


「好きにはさせない・・・」


そうつぶやく瀬音だが、何をどうしていいか分からない状況に頭に浮かんだのは明日斗の姿だった。

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