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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第11話
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最強の遺伝子 2

紗々音の目つぶしによって視界を封じられた大刀はただ焦りだけを募らせていく。声は正面からするものの、その殺気じみた気配は四方八方から押し寄せてきている。機械の身体はあれど、その精神は人間だ。絶対的自信を持っていたその肉体も、こうも精神的に追い詰められては十分な能力を発揮することは出来ない。そもそも、格闘技に関しては素人であり、喧嘩の経験すらないのだから。


「あんたは殺さない、壊すだけだよ!」


紗々音が駆ける。情けない悲鳴をあげて両腕をふるうものの、何も当たらずに空を切るだけだ。当然だろう、紗々音は背後に回っているのだから。膝裏を蹴られ、あわてて振り返るがそこにはもういない。見えていれば、ある程度は機械が処理して反応も出来よう。いや、見えなくても聴力と反射神経の反応を上げることで対応できるはずだった。しかし、所詮は大刀なのだ、そんなことが出来るはずもない。か弱い女性を拘束して自分の欲を押し付けることしか出来なかった人間には不可能なことである。


「来るなぁ!」


絶叫しつつ、身体を動かして拳を繰り出して蹴りを見舞う。紗々音はそんな踊りのような動きを見つつ、機械として脆い部分を探してただじっとたたずんでいるだけだった。手首、足首、細く脆そうな部分はあれど、致命傷にはなりそうもない。だから、狙いを定めた。紗々音は駆けた。正面から迫り、拳をかいくぐってその肩の上に立つと強烈な蹴りを首に叩きつける。何度も何度も。足の裏を叩きつけつつ、自分を捕まえようと手を伸ばすそれをかいくぐるように、肩の上を行ったり来たりして。


「ここも、かったいなぁ」


ガシガシと蹴りつけるが、一向に手ごたえがない。それでも舞いながら蹴りを叩きつけ続けた。


「このぉっ!クソ女ぁぁぁ!」


絶叫と同時に身体を激しく動かした大刀のその身体を駆け、一旦地面に降りた紗々音だったが、再度懐に飛び込んで胸に打撃を与える。


「そこかぁ!」


正面に腕を伸ばして捕まえにくるが、やはり目が見えないことで反応が遅れる。だから余裕をもって離れた紗々音が少しだけ息をついて、それから飛び蹴りを背中に見舞った。びくともしないが、注意を反らせることには成功だ。


「く、くそぉ!卑怯だぞ!」


たまらず腕を振り回し、身体をせわしなく動かして四方からの攻撃に備えるだけだ。


「卑怯?そんな身体でよく言うよ」

「お前だって、木戸なんとか流を使うくせに!」

「論外な言葉だよ・・・・あほだね」


そう言い、隙をついてこめかみに蹴りを見舞った。やはり硬く、放った紗々音の足の甲にダメージを受けるだけだ。ここはやはり元通り首を狙うしかないと、紗々音はまたも大刀の肩に乗って蹴りの連打を再開させた。


「このこのこのこのこのこのこのっ!」


右から左から、前から後ろから蹴りつけつつ、その手ごたえのなさにイラ立ってたまに頭を殴りつける。


「この、小娘がぁっ!」


両腕を振り上げた拍子に紗々音の右足に触れるが、つかめずに終わった。苛立ちがますます募る中、打撃を首と頭部に受け続ける。


「無駄なんだよ!この身体は無敵なんだ!」


肩に乗る紗々音を振りほどこうとしつつ絶叫する大刀だが、自分にそう言い聞かせているにすぎない。実際、痛みも何も感じないが、その圧倒的な恐怖はドンドン増している。


「どこが無敵よ!見えなくなってるくせに」

「うるさい!うるさい!」

「ほれほれぇ!」


暴れ狂う大刀から落ちないように、器用に打撃を与え続ける。足も痺れ、手のひらもじんじんとするが構わない。壊れない機械などないと信じてただ打撃を与えることに集中した。


「無駄だって!言ってる!だろ!」


なおも暴れる大刀のせいで一瞬バランスを崩した紗々音だったが、一旦肩から降りると踏ん張っている大刀の左足を利用してその目の前にまで飛び上がった。同時に右ひざを下から顎に直撃させ、同時に右ひじを脳天に叩きつけた。大刀はここでようやく紗々音の体を捕まえることに成功したが、紗々音は構わずすぐさま両の拳を左右同時にそのこめかみに叩きつけた。打撃は完ぺきに入ったが、振り回された体は空中を舞い、肩から地面に叩きつけらるも、さすがの木戸無双流継承者、瞬時に立ち上がった。


「くそぉ!」


せっかく捕まえたが、身体の芯を揺さぶるほどの4つ同時の打撃に身体が反応しすぎて振りほどいたのは失敗だと思う。捕まえたまま抱きしめ殺すことが出来たのにと歯がゆむしかなかった。


「うーん・・・・点結波でもダメ、か」


奥義ですらダメージにならないのなら仕方がない、また地味に行こうと駆けた。その音に敏感に反応するものの、やはり恐怖のせいで一瞬反応が遅れてしまう。紗々音は軽いローキックを見舞って注意を逸らせ、背後に回って肩に乗る。


「またか!」

「何度でも、だよ!」


蹴りを再開する紗々音、捕まえようとする大刀、さっきと同じ光景がそこにあった。いや、少し違う。大刀の反応がどうも少し鈍いようだ。


「どうした・・・腕が、重い?」


実際に重さに変わりはない。疲労など感じないし、文字通りないのだから。なのに、どうも自分の感覚と腕の動きがマッチしない。いや、身体全ての動きが少しおかしい気がする。


「このこのっ!いい加減にぃ!こわれぇぇぇろぉぉぉ!」


連打をさらに加速させ、蹴りの回数を上げた紗々音はここで気付いた。大刀は腕を上げているが、その腕が困っているかのように手首をくねくね動かしているだけだ。大刀が対応できなくなっているのか、それとも機械が誤作動を起こしているのか、しかしこれはチャンスだ。だから紗々音は肩の上で左足を踏ん張り、全員のバネをそこに集中させた。その上で、体の内部の筋肉を引き絞るように最小限の動きを見せた。他の流派、しかも暗殺術のそれを応用したものだ。振り上げた右足にそれが伝わり、紗々音はその渾身の一撃を首の、やや顎よりの部分に叩きつけた。すさまじい衝撃が襲ったのは紗々音の方か、大刀の方か。紗々音は勢いよく大刀から飛び降り、無茶な攻撃をした反動からくる痛みに耐えつつ様子を伺う。


「が・・・ぐ・・・ご・・・」


その壊れた機械の発する言葉ににんまりとする。大刀はぎこちない動きでその場で奇妙な動きを見せていた。言葉も上手く発せられないようで、指だけがすべてバラバラの動きを見せているのが不気味だ。


「なんだ・・・身体がいうことをきかない・・・・声も出せない・・・・動け!動け!」


心の中で、頭の中でそう叫んでも身体は不調なものだ。しかし、耳はいいようで、紗々音が近づく音だけははっきりと聞こえてくる。それが恐怖をさらに増大させていく。汗など出ない身体なのに、汗が噴き出してくる感覚があるほどに。


「壊れない機械なんてないんだね・・・・まぁ、あんたの敗因はその身体を活かすだけの度量も、器用さも、運動能力もなかったことだよ」


声のする方を見ているつもりだが、体はやはり動かない。


「でもね、最大の敗因はね・・・・」


言いながら紗々音は大きく右足を踏み込んだ。地面にめり込む勢いのそれに対し、左足からバネを活かした体の全部の筋肉を必要最小限の動きで引き絞っていく。同時に右腕を下から背中に向かって振り上げていった。


「あんたの相手が」


鬼気が爆発的に膨れ上がり、大刀を襲った。まるで台風のようなその気は大刀の恐怖を最大にし、声には出なかったものの激しく絶叫していた。


「私だったことだよ!」


言葉と同時にその右拳が大刀の顔面に炸裂した。本来であればみぞおちに叩きこむその拳も、機械の顔面なら死ぬことはないとの判断からだった。すさまじい衝撃が顔面を打ち貫き、一瞬顔が上を向く。ダメージを受け続けたせいか、首は緩くなり、今度は下を向いたままで元に戻らなくなった。


「なんだ・・・・どうなった・・・・・何も動いている気配がない・・・・腕も足も、何も」


確かに動けと脳が指令を出している。なのにその通りに動いている気配がない。あるのはただ、暗闇の中ではっきりした意識だけ。


「じゃぁ、そうやってそこで寝てて・・・・おにぃが気になるからね」


その言葉に、ようやく自分が倒れ込んでいるのだと理解できた。だが、起き上がろうとするものの、体は全く反応しない。壊れたのだ、完ぺきに。意識はあっても身体は動かない。いや、動いているのかどうかもわからない恐怖が今ある恐怖をさらに増幅させていく。


「助けてくれ!頼む!なんでもする!なんでもやる!金も、名誉も!だから助けてくれ!」


絶叫するその声は誰にも聞こえない。身体はうつぶせに倒れ込み、土にめりこんでいるのだから。指だけが不規則に動くその不気味さを見つつ、紗々音は破れたタンクトップを拾おうとした右腕に痛みが走るために苦悶の表情を浮かべた。右の拳も硬い顔面を殴りつけたせいで血が出ている。


「やっぱ、天龍昇にアレを重ねたのはまずかった、かな」


奥義は体に負担がかかる。ただでさえ負担がかかるその技に、他の流派の、最小限の動きで最大限の威力を発揮するおぼろという筋肉を酷使する技を重ねたのだ、無理もない。明日斗のことが気になるが、この状態でもおそらく自分が連戦することになるだろうと思う。


「まぁ、いいハンデかもね」


そう言い、破れたタンクトップを拾い上げた。そうして走ろうとした時に足が止まった。


「人の胸をけなした分、だよ」


そう言い、倒れ込んでいる大刀の後頭部を5回強く踏みしめ、それから明日斗の方へと駆けだす紗々音だった。



自分の拳は宙を舞い、相手の拳が腹部にヒットする。まるでボクシングのようなフットワークとパンチの連打に明日斗は苦戦していた。血を流す瀬音が視界に入るたびに焦りが募り、思うような動きが出来ないのもその原因になっている。猛攻の中に蹴りを混ぜ、かわす明日斗の腕を掴んでは投げ技も披露する。そこは明日斗、木戸無双流を習ったおかげで体が勝手に反応して対応はしている。だが、攻撃に関してはまるでダメだった。


「なるほど、妹に継承者の座を明け渡すわけだ」


あざ笑う仙人の言葉に苛立ちもない。事実であるし、あるのはただ焦りのみ。


「さぁ、早く俺を倒さないと瀬音が死ぬぞ」


とことん戦いを引き延ばして瀬音を失血死させるつもりなのだろう。だから明日斗はさらに焦り、攻撃に出るが全てカウンターを喰らい、鼻血を流して地面を転がった。肩を息をしつつ、もう逃げたいと考え始めていた。


「あ、すと・・・もういいから・・・・逃げて・・・・」


血を流す腹部を押さえる瀬音を見て、立ち上がった明日斗は悔しくて涙を流す。何故自分はこの状況でも逃げたいと思うのか、何故この時でも満足に戦えないのか。


「泣くほど悔しいか?しかし、それが君の限界だ」


違う、限界などではない。限界もなにも、まだ何も出来ていないのだから。


『練習なら、あんたは最強。紗々音も、晴人君もあんたには勝てない』


練習で勝てても、実戦でこれでは何の意味もない。だいたい、木戸の神髄は誰かのために、大切な人を守るために技を振るうものだ。それでは何か、瀬音は自分にとって大切ではないのか。りんごも、サクラも、祐奈も、そして瀬音も大切なはずだ。なのに、何故だ。


「俺はぁ!」


叫んで拳を見舞うが、簡単にかわされて逆に右頬に仙人の拳がぶち当たる。よろめく明日斗の胸を蹴りつけた仙人は憐れむような表情を倒れ込んだ明日斗に向けた。


「弱い・・・・弱すぎる。大崎閃光を一瞬で倒したというから期待していたのになぁ」


心底呆れた口調を耳にしつつ、明日斗は地面の土を握りしめる。


「どうしろっての、母さん!」


心でそう叫ぶ。練習で最強でも実戦で最弱では無意味だ。自分は今、最強でありたい。目の前の悪に対し、圧倒的な勝利をおさめて瀬音をすぐに病院へ運ぶ、それが出来ない自分はクズだ。明日斗は何度も地面を叩き、情けない自分を嘆く。


「あす・・と・・・・・もう・・いい」


かすれた声でそう言う瀬音も泣いていた。だから明日斗は顔を上げる。


「ごめ・・・ん・・ね?こんな・・はずじゃ・・なかった・・・わたし・・・は・・ただ、自由を・・・・そこに・・・・いる・・・兄との・・・・・愛を・・・・」


ぽろぽろと涙を流す瀬音を見て、明日斗は絶叫と共に立ち上がった。


「その意気や良し」


小さく微笑み、仙人はそれから瀬音を見やった。侮蔑の表情で。


「所詮は捨て駒・・・最初からお前に対して愛などない。ただ性欲のはけ口であり、人形だった。愛?それは美味しいのか?役立つのか?馬鹿なたわごとを真に受けて、それでお前は死ぬんだ」


瀬音は大きく涙を流した。仙人は実の兄でない。だからこそ、自分を救ってくれると信じていた。家のしがらみから開放し、自由と、真実の愛を与えてくれると信じていた。その結果がこれなのか。


「死なせない」


明日斗は血に染めた顔を仙人に向けた。怒りの表情をそのままに。


「いや、死ぬ。お前も」


余裕の笑みを浮かべる仙人は、そこで背後を見やった。土を踏む音だけでない、近づく人の気配にとっくに気付いていたからだ。


「瀬音さん!」


血まみれの瀬音を見て絶叫する紗々音を見つめる仙人の目が細く、そして冷たい光を放ったのに気づいたのは今ここにやって来た紗々音だけでなく、明日斗もだった。

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