表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第10話
49/62

ターンオーバー 3

午後2時、約束の時間まであと1時間と迫る中、大崎は待ち合わせの場所に既にいた。現場を細かく観察し、不測の事態に備えるのはもう習慣となっている。明日斗が仙人と会うのが午後6時、なれば、ここで情報を仕入れてどう動こうとも駆け付けられるはずだ。それに向こうには最強のボディガードがついている。とはいえ、全王治のゴタゴタで発覚した拳銃の懸念があるためになるべく早く駆け付ける必要があると考えていた。いまだ大刀の動向は不明のまま、仙人の真の意図も読めていない。仕方がないとはいえ、ここまで後手に回らされたのは仙人の計画が綿密すぎるからに他ならない。切れ者というよりは臆病で、慎重に慎重を重ねるタイプなのだろう。


「あいつの手のひらで転がされるのはゴメンだが、それも仕方がない、か」


独りでそうこぼし、快晴の空を見上げる。この騒動が落ち着いたらのんびりしたいと思う一方、まだまだごたつきそうな気もしている。そんなことを考えていると時間が来たのか、遠くから車がやって来るのが見える。田舎の砂利だらけの道を砂埃を舞い上がらせて迫るこの場所もまた田舎特有の広々とした空き地だ。そうそう人も来ないここを指定したのも、周囲に何もないからこそ狙撃や襲撃の心配が少ないという配慮だろう。だが油断はしない。ゆっくりと目の前に止まる車から降りてきた滝澤は一礼すると固い表情で歩み寄って来る。見た限り、服装的にも武器の所持はないようだ。


「ご足労をかけます」

「いえ。で、全王治は全てを放棄、ですか?」


率直にそう聞くのはさっさと用事を終わらせるためと、不穏な動きをすぐにでも察知するためだ。だから閃光はいつでも戦えるよう、気を練っている。


「それが・・・大刀は続行を望んでいます。木戸明日斗を倒し、真の婚約者になることを」

「でも、石垣家は?」

「当主と無指様が亡くなった以上、こういった不測の事態の際の決まりとして延期か、もしくは権利の放棄を主張しています。ですが、朝妃様も続行を望んでおられて」

「こんな時だからこそ、か」


その言葉に頷く滝澤はふぅと小さく息を吐いて俯いた。もう疲れた、そんな風に。


「無指様は全王治を再び浮上させようとしていました。石垣家と親戚関係を築くことでそれを成し遂げようとしておられました。だが、大刀様は違います」

「もっと上を目指している、と?」


頷く滝澤の後ろで、白い車のドアが不意に開く。驚き、身構える閃光だが、そこに気を取られた一瞬の隙をつかれてしまった。車から姿を現した朝妃を見て驚く閃光の額に穴が開く。同時に鳴り響いた銃声。血を引きながら倒れる閃光が見た最期の光景は硝煙を吐く銃口を向けている滝澤と、その後方で不敵に微笑む朝妃の姿だった。どうやら腰のベルトに銃を仕込んでいたのだろう。土煙を舞い上がらせながら砂利の上に倒れ込む閃光の頭部付近に血だまりが広がっていく。それを見やる滝澤は虚ろな目をしたまま、今度は手にしていた銃を自身のこめかみに向けた。


「車のドアの開閉音が大崎の銃殺、そして・・・」


そう言い、朝妃は冷たい笑みを浮かべたまま手をパンと叩いた。同時に響く銃声。右のこめかみから左のこめかみを貫通した弾丸によって滝澤もまた砂利の上に崩れ落ちた。理由はどうあれ、もめた後の銃撃と自殺。警察の処理はどうとでなろう、目撃者である自分の証言があれば。だから朝妃はすぐに警察に電話をした。全王治の件で大崎に呼び出され、口論の末に滝澤が彼を射殺、その後に自殺した。それだけで十分なのだ。血の溜まるそこを見つつ、取り乱した演技をする朝妃はこれで計画の半分が達成されたことを喜んだ。あとは息子がその手で決着をつけるだけなのだから。



高価な腕時計を見やり、仙人はニヤリとした笑みを浮かべた。それと同時にスマホに着信が鳴る。朝妃から、無事完了したとの報告の電話だ。警察にはこういった事件が起きたと仙人に報告した、と証言するだけで口裏は合わせられる。これで邪魔者はあと5人。そのうち3人はあと少しで消え去る運命だ。


「さて、そろそろか」


その言葉と同時に父親が叫ぶように自分の名前を呼ぶ声がする。ここまで予想通りだと笑いがこみあげてくるが、そこは自分を押し殺して慌てて部屋を出て広いリビングへと向かった。


「今、朝妃さんから連絡があった・・・あの婚約の儀に代理人として出ていた大崎さんが殺された!しかも犯人は無指さんの秘書で、拳銃で殺害後自殺したそうだ・・・・全王治の件で呼び出されたらしく、朝妃さんも同行していたのだが・・・まさか、こんな」

「で、朝妃さんは?無事なんですか?」


取り乱した風にそう言う自分を笑いそうになるが、そこはもちろん表には出さない。完璧に進行しているシナリオがさらに笑いを誘うものの、そこは自分の役目を演じる必要がある。


「ああ・・・でもかなり取り乱しているようで、ちょっと出てくる。瀬音と一緒に家にいなさい。食事は適当に」

「わかりました」


そこで瀬音も駆けつける。支度をする両親に替わって仙人が説明をし、瀬音は顔を真っ白にしつつ小刻みに震えていた。胸の前でぎゅっと拳を握るそれをそっと包みこむように手を乗せ、優しい笑みを浮かべた仙人はなんともいえない表情で頷いた。


「頼んだぞ」


父親がそう言い、仙人は瀬音にここにいるよう告げて見送りに出る。瀬音はあわててスマホを手に取り、今聞いたことを明日斗に知らせるべく電話をかけた。仙人はそんな瀬音を見つつリビングを後にする。不敵な笑みを消さずに。


「滝澤、頼むぞ」

「はい」

「隣町の警察署に向かってくれ、最短ルートだ。15分もあれば着く」

「はい」


その言葉を聞いて滝澤は慌てた風に車を取りに向かう。不安そうな妻を支える父を見つつ、仙人は冷たい目を逸らせた。本当の両親ではない。だからこれから起こる悲劇に何の感情もない。自分は常に独りだった。独りでここまでを計画し、実行してきた。イレギュラーはあったものの、フィナーレに向かって確実に進んでいる。だから、仙人は車に乗り込む両親をよそに、運転席の滝澤に近づいた。開けられた窓からそっと顔を寄せる。


「空を飛べ・・・・お前の兄が待っている」

「飛ぶ・・・大空へ・・・」


滝澤は夢を見ているかのような表情でそうつぶやくと、仙人がぱんぱんと軽くドアを叩き、発進を促した。そして進み行く車の中の義理の両親に笑みを浮かべた。


「さよなら、父さん、母さん。石垣の正当な血を継ぐ者よ・・・・あの世でも仲良くな」


つぶやく仙人は門を出ていく白い車を見送ると、そのまま急ぎ足でリビングに戻った。まだ瀬音は電話中であり、これも計画通りだ。だから仙人は瀬音に電話を替わるよう告げ、瀬音もそれに従う。


「明日斗君、私だ、仙人だ。まさかの事態に戸惑っている。この先どうなるかわからないが、予定通り会って話がしたい。待ち合わせ場所は告げた通りでいこう。あそこなら何かあっても開いた場所だし、隠れる場所もある」


指定した場所は都心の大企業の工場建設予定地だったが、不景気のあおりでその計画もとん挫したままの何もない場所だ。だから近づく車などがあればすぐにわかる場所となっていた。スマホを瀬音に返すと支度してくると告げる。瀬音はそのまま少し明日斗と会話し、電話を切って兄の部屋に向かった。


「兄さま!ここにいた方が、彼もあそこにいた方が安全なのでは?」

「確かにな・・・でも、だからこそ会う必要がある」

「え?」

「彼らのいる施設に避難させてもらう・・・今、一番危険なのはお前だ。そして木戸君も。だから一緒に避難させてもらう。あそこは彼と一緒でなければ入れないし、何よりここの方が危険だ」


そう言われてはそうだと思う。全王治の当主、無指、その秘書と大崎が死んだ今、大刀の動向も不明なままだというし、不安材料は多い。屋敷に銃器を持って来られても困るため、瀬音は兄の言うことに従った。


「車ですぐに向かう」

「はい」

「心配ない、全部終わるよ」


そう、全部、綺麗に、そう心の中で呟く仙人は歩きながらスマホを操作するのだった。



「大崎さんが殺された」


母親は冷静にそう告げ、2人の子供を見やった。明日斗は既に瀬音からそれを聞いており、今しがた話のあった仙人からの内容を母親に話す。母親は曇った顔をしつつもどうするかを思案している。罠だ、そうとしか思えない。


「行くよ」

「100%罠だよ」

「だからこそだよ・・・・彼女も危ない」

「そこまでやる男かどうか別にして、あなたもかなり危険だよ?」


全部が全部仙人のシナリオ通りであるならば、明日斗もまた邪魔な存在だ。考えすぎかもしれないが、瀬音も。いくら木戸無双流を扱えるといっても、銃器には及ばない。


「だから行かないと」

「こんな時のための大崎さんだったんだけど・・・・巻き込んじゃった責任もある。だから行かせたくない。でも、行くのね?」


流されるままに生きてきた息子のこの意志は尊重したい。たとえその先に死が待っていたとしても。いや、死なない、そんな予感がある。


「いいわ。その代わり死なないこと、そして全部きっちりと終わらせること」

「ああ」

「紗々音はバックアップ」

「りょーかい!」


留守番なのかとひやひやしていただけに、その声は嬉々としている。


「危ないと思うけど?」

「仙人と大刀を相手に、あんたが勝てるとは思えない」

「どういうこと?」

「私の勘が確かなら、ね」


詳しくは言わないが、母親の勘は信じている。それはいつも正しい方向へ導いてきたからだ。


「紗々音、あんた、大刀の相手をしなさい」

「えー、なんであのデブの?」

「もうデブじゃないし、人間でもない。木戸の神髄をもって戦いなさい。あなたは木戸無双流を名乗る女なんだから」


なんだかよくわからないが、母親の言葉が本当ならば面白そうだと思う。そんな娘の表情を見つつ血の成せる業かと微笑む母親だが、今度は明日斗を見やった。


「戦うべき時が来たら戦いなさい。逃げるが得策だと判断した時は逃げなさい。でも、何度も言うけど、あなたは練習だと紗々音や晴人君にも勝てる。その意味をよく理解しておいて」

「本気の実戦を前に、何を?」

「だからこそ、よ」


そう言い、母親はそっと明日斗を抱きしめ、紗々音も引き寄せて抱擁した。


「あなたたち2人は木戸の人間。おじいちゃんが、伯父さんが悪と戦ったように、あなたたちも戦うの」


死ぬかもしれない戦いに送り出す母親の心境を理解し、明日斗は頷いた。


「守ってあげるのよ?彼女を、たとえ偽りの婚約者でも」

「うん」


力強く頷く息子を見て微笑む母親は再度2人をぎゅっと抱きしめるのだった。



車は快調に進み、最後の峠に差し掛かる。朝妃は隣町の大きな警察署にいるとのことで、言われた通り最短ルートでそこに向かっている。殺害現場は騒然としたままだが、遺体も既に運ばれた後だ。小さな町を震撼させる拳銃による殺人事件は2件もあって、大きな話題となって駆け抜けていた。時計を見つつ、あと5分ほどかと父親が小さく息を吐いた時だった。


「この大空に、翼を広げ、飛んでいきたいよ・・・・」


呟くような歌声がかすかに聞こえてくる。耳を澄ませば運転手である滝澤が口ずさんでいるようだ。訝しがる夫婦が顔を見合わせると同時に車が急速に加速を始めた。そのまま急な登り坂を猛スピードで駆けていく。


「おい、スピードを出しすぎだ!」


その叫びと、急カーブでハンドルをほとんど切らない滝澤の絶叫が重なった。


「ほら!兄ちゃん!僕は飛べるよ!」


嬉々としてそう叫んだ矢先、ガードレールを突き破った車は空中を舞う。50メートルはあろう崖下目掛けて落下を始める中、両親は恐怖に絶叫し、滝澤はさらに大声で叫んだ。


「ああ!そうか!これが!飛ぶってことなんだぁ!」


その後、すさまじい衝撃が車体を襲い、激しく形状を変化させながら岩肌にぶつかり、転がるようにして下まで堕ちた後で爆発、炎上した。夕闇に迫る中で黒い煙が舞い上がるが、車の通りが少ない山道だけに、発見まではあと数分は要するだろうことは確かだった。



自ら運転をしつつ、そろそろ頃合いかと笑みが浮かぶ。隣では不安そうな瀬音が前を向いたまま黙っている状態が続いていた。これで残る邪魔者はあと2人。いや3人か、そう訂正する。木戸紗々音、彼女もきっと来るはずだ。


「さぁ、もうすぐだよ」


頷く瀬音はそれが目的に着くという意味だと受け取っていた。だが、実際は違う。もうすぐ全てが終わるという意味だ。瀬音が、明日斗が、紗々音が死ぬことで終わるのだ。全ては計画通りに。だから仙人は笑った。もう我慢することなどない。声に出して、それこそ大声で笑う兄を茫然と見つめる瀬音は、こっちを向いた兄の顔を見て背筋が凍るという言葉の意味を初めて知ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ