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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第10話
47/62

ターンオーバー 1

権力というものは、時に事実を捻じ曲げることも可能とする。それが全王治の力なのか、石垣の力なのかはわからない。だが、あの親子の拳銃による死は単なる不幸な事故死として処理されることが濃厚になった。地方の警察の力が中央にまで及ばなかった、ではなく、その逆、中央から地方へのいわば命令によって捜査はもう終ろうとしている。釈然としないのは瀬音も、そして明日斗も同じだった。こんなことになっても、婚約の儀に向けての動きはそのままだったからだ。当初のシナリオではこういった不測の事態が起こった場合、婚約の儀を延期して、それこそ、その家に起こった不祥事を徹底的に追求し、有耶無耶にせず終局させて、結局のところ婚約自体を白紙に戻して自由を得る、はずだった。なのに、そのシナリオを描いた兄でさえ、続行を望んでいる。だから、瀬音は速足で兄の部屋に向かっていた。今の状況を利用すれば、婚約の儀を行うことなく計画通り明日斗が婚約者になり、しかるべきタイミングでそれを破棄すればいいだけのこと。あの大刀に全王治を統べる力などないに等しいのに。


「お兄様!」


ドアを開けるなりそう声を荒げる瀬音に視線をやり、やれやれといった顔つきになった仙人はスマホを手にしたまま椅子から立ち上がった。どうやら妹の訪問の意図を見抜いていたようだ。しかし、瀬音はそんな義兄あにの思惑など知らず、嬉々として全王治のゴタゴタを話し始めてその真意を口にする。これで無駄な争いはなくなり、計画はゆがむことなくまっすぐに進むはずだと。そうか、この女も所詮は小物か、そう思う仙人の心は決まった。計画の全容は変更しない。自分がこの国の王となることは変わりなく、細かい修正は見込み済みで、そこに大刀の変わりようは予想外とはいえ組み込まれて既に瀬音は用済みだ。仙人にとって、瀬音は自分の野望を叶える駒でしかない。その駒が自我を持つ、それは許せない。


「瀬音、お前はこの家の開放を本気で望んでいるのか?」


優しい口調でそう問う仙人の目が人でないものに変貌していることに気付かない。だから瀬音は頷いた。


「私はお兄様に賛同した。この家を開放し、真に権威を取り戻す。今までのようなしきたりに縛られずに」

「そうだ、その通りだ」


正しい答えを口にする瀬音に、仙人は最後の質問を投げることにする。その返事によっては彼女の生死を左右することになるだろう。いや、結果はもう決まっているのだが。


「瀬音、開放のための犠牲はいとわない・・・その気持ちに変化はないか?」


そう、いかなる犠牲を払おうとも、どんなに痛い目に遭っても必ずやり遂げる、その意志があったはずだ。なのにここ最近の瀬音は明日斗とのデートも楽しんでいる上に、嫌に馴れ合っている。そして、何より自分より明日斗に気持ちが動いているのを理解している。現にここ一か月、肉体的つながりはなく、拒絶されているのだから。本気で明日斗を好いている、ならば、瀬音はもう邪魔者だ。


「それは・・・でも、できるだけそういう犠牲は少ない方がいい」

「結果、それがイレギュラーになりうるとしても?」


瀬音は頷く。この瞬間、彼女の運命は決まった。死、である。


「そうか、そうだな」


にこやかに微笑む仙人は瀬音の肩をポンと叩いた。


「ちょうど一週間後、全てを決する。大刀には私から話をしよう。お前は指定された時間と場所を木戸君に伝え、動けばいい。それで全て、終わる」


瀬音は大きく頷き、微笑んだ。だから仙人も微笑んだ。その冷たい笑みに気付かず、瀬音は全てに決着がつくことを嬉しく思うのだった。



「あと6日で全てが終わる。お前は予定通りに行動をしろ。兄上にもそう伝えておくように」

「はい」

「瀬音は私が処理する」


処理という言葉を聞いても何も感じない瀧澤はもう壊れている。薬物と言葉による洗脳だ。だから仙人は笑った。声も高らかに。だが、それを不思議とも思わない滝澤はただじっと主を見つめている。


「全王治も変革し、我が家も変革だ・・・・そしてそれはこの国を変化させる」


目に光を戻す滝澤を見て、仙人は笑みを濃くした。


「かつての日本は整っていた・・・全て、国の力が強かったからだ。『キング』という存在が裏から日本を支え、猪狩という老人が首相を従えて君臨していたからだ。表の力より裏からの力だ、必要なのは」


それを知ったのは父と祖父が話をしていた他愛のない話題。『魔獣』と『キング』の死闘。だから調べたのだ、その全容を。豊かで、強く、確かだった日本という国の存在を。今のこの国はもうだめだ。諸外国にも弱く、腰の引けた政府の国内外の政策。マスコミに左右されるダメさ加減。最後の強い首相はあの『ゼロ』を倒した木戸周人を一目見ようと、すぐに行動を起こした大沼だろう。それ以降の首相はどこか頼りない。だからこの国を戻すのだ。本来は自分が『キング』と猪狩を兼ねる予定だった。だが、『キング』は全王治大刀が担う。裏からではなく表から、猪狩となった自分が裏からそれを従えて。


「『ゴッド』、『ゼロ』、『キング』・・・・木戸の一族はそれら全てを粉砕した。今度は私がそれらを粉砕する。上手く、気づかれず、そして確実に」


政府が最も恐れるのが木戸の一族だ。だが、それらを上手く黙らせればいい。分家の、継承者ではない男の不慮の死をもって。木戸天音は喰えない女だ、そしてその娘である紗々音もまた同じ。全ての元凶である周人は衰え、しかしその息子である天都は今でもその強さは健在で、さらにその息子は父を凌ぐ天才だ。だから手を出さないし、出させない。


「さぁ、準備を終わらせよう」


そう言い、滝澤の肩をポンポンと叩く。すると彼はスマホを手に部屋を出て行った。仕掛けを施し、実行するために。


「大崎閃光、お前の相手は彼に任そう・・・私は全てを終わらせる。石垣家を終わらせる」


そう独りで呟き、蒔いた種の回収をすべく、何度も実行してきたシミュレートを行うのだった。



瀬音は明日斗を見つけ、微笑みながら小走りで近寄る。それは、もう恋する乙女のそれだ。だから明日斗は苦笑する。ここ最近の瀬音は可愛い仕草を自然に見せてくれている。だからこそ、好きにならないよう気を付けている。自分は婚約者候補であり、婚約者になってフラれるただの道化だ。それを受け入れているからこそ、気を付けているというのに。


「あと6日後に全部終わるよ」


嬉しそうにそう言う瀬音に苦笑を返せば、それが不満な瀬音は頬を膨らませた。


「全部?全王治はどうなるの?」


並んで歩きながらそう問う明日斗に何故か得意げな顔をする瀬音は明日斗の顔の前で指を振ってみせた。


「大刀は戦いかたがっているし、お兄様もそれを受け入れる気だった聞いたけど、あのゴタゴタでしょ?父も母もそれをよしとしなかったの」

「まぁ、そりゃそうか」

「だから、あなたが正式な婚約者になるの」


嬉しそうにそう言う瀬音だが、その後のことを理解しているのだろうかと不安になる。


「で、どのタイミングで婚約者になって、いつフラれるの?」

「・・・婚約の儀はなしで、婚約の式を行うのは来月かな」

「で、再来月にはフラれる?」


インスタで人気のカフェが見えてくる。最近、瀬音はこういった有名な店に行きたがる。田舎の町を離れて、少し大きめの街に出たがるのだ。りんごたちの追跡はないというのに。


「どうだろ・・・さすがにすぐってわけには、ね」

「じゃぁ、式から3か月ってとこかな」

「・・・・半年かも」

「その頃になると結婚に関する具体的な話になるんじゃ?だとしたら別れにくいよね?」

「ま、まぁ、その時はその時」

「いやいや、マズイっしょ」


苦笑する明日斗に微笑みを返すとそのまま腕を絡ませる。もうどういう意図をもって自分に接しているのかわからない明日斗はため息をつくしかなかった。


「最悪、結婚してもいいかもね」

「古いしきたりを破壊するんでしょ?」

「まぁ、それはそれ」

「意味わかんねぇし」


混乱する明日斗をよそに瀬音は組んだ腕を引くようにしてカフェへと向かう。今はもう、明日斗と別れるという選択肢が消えかかっている。兄を説得する自信もあるし、その後の計画も練ってある。


「まぁ、今は今を楽しみましょ」


微笑む瀬音を見て不安しかない。どういう計画なんだと思うも、仙人の真の計画は恐らく瀬音にも明かしていないだろう。かといって妹を危険に晒すとは思えない。危険なのは全王治大刀だ。


「あと6日」


心の中でそう呟く明日斗の胸の中で、危険を知らせるシグナルのようなものが大きくなってくるのを感じるのだった。



全王治は変わる。いや、自分が変えるのだ。だから、自らの肉体を捨てて機械の身体を選んだのだ。骨を、筋肉を、内臓を機械化した彼はサイボーグといえる存在だ。かつてその昔、同様の手術をした先駆け、アイスキューブ・ゴッドワルドというアメリカ人が衰えた肉体を若返らせるために行ったその技術を応用させた。大刀の要望により、快感を残すために性器は半機械化としているため、脳と内臓の一部以外は機械となっている。だからそれを操るコツも必要であるし、元の肉体にはない強大な力をコントロールする必要もある。そのせいでこうまで時間がかかってしまったのだ。


「あと6日、ようやく好きにできる・・・・初めてだよ、この手で人を殺すのは」


嬉々としてそう笑う大刀を見つめる瀧澤の目は虚ろだ。こちらも弟同様、薬物による洗脳を受けているのだ。今は大刀と仙人の言う通りに動く忠実なマシーンだ。


「お前は大崎閃光を殺し、自殺しろ・・・・6日後、お前はその死をもって未来の首相に貢献するのだ」


芝居がかった口調ながら滝澤は微動だにしない。もう既に彼は6日後に動くだけのただの機械だ。必ず明日斗を陰から守ろうとする大崎を抑えるために生きているだけ。


「全王治も、石垣も犠牲を払って新生する」


全王治は当主と次期当主を失った。だから石垣家も同様になる必要がある。犠牲の上に改革があるのだから。人類の歴史とはそういうものだ、そう考える大刀は新時代の改革者となる自分を夢見て生きている。


「さぁ、あと6日、俺は俺にできることをしよう。お前は抜かりないよう、支度を」


その言葉に頷き、滝澤は近くの椅子に腰かけた。その目の前にあるテーブルの上にある拳銃を見つめ、そしてそれに手を伸ばすのだった。



夢の実現には犠牲が必要だ。観衆を魅了するのは悲劇であり、そこから立ち上がる主人公の姿。勝つのは自分と、全王治大刀。大刀は単純で、見返りさえ潤沢に用意すれば操るのは容易だ。そして犠牲は両親と妹。血の繋がらない者。それに加えて政府が危険視し、恐れる木戸の末裔。


「さぁ、落ち度は許されない」


月を見つめる仙人に油断はない。ありとあらゆる事態を想定した結果の6日後だ。雲に隠れ行く月を見やる冷たい目は、この国を、家柄を変えたいという確固たる信念が宿っている。それは純粋で、身勝手な欲望であった。

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