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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第7話
34/62

帝王の帰還 3

その白い建物の1階は広い食堂と休憩所になっているようで、多くの研究員や職員で賑わっていた。担当者の説明によると、ここの食堂は24時間利用可能であり、時間も自由だ。それに、今日から明日斗たちもここを利用することが出来るとのことだった。それぞれ、両親が準備したカードが配られる。


「お金は後払い。あまり利用すぎないように」


母親に釘をさされたのは紗々音と、何故かりんごだった。1階を見て回り、次に2階へと移動する。遠回りして専用のエレベーターに向かった一行に、担当者が説明をしていく。


「あなた方が利用できるのは3階と5階のみに止まる反対側のエレベーターのみになります。IDカードをかざす仕組みですので、そのエレベーター以外は使用不能」

「他の階は秘密ってことですか?」

「この施設は国の機密、そこはお察しください」


紗々音の問いにも丁寧に答え、エレベーター脇の黒い四角にIDをかざすと扉が開いた。奥行きのある奇妙な形状のエレベーターだ。全員乗り込み、扉が閉まる。


「2階は研究施設、4階は職員施設です。降りればわかりますが・・・」


エレベーターはすぐに2階に到着する。扉が開けば、そこには警備員がいた。


「ここでチェックが入ります」

「ほえぇ~」


感嘆の声をあげるりんごに微笑むと、担当者はそのまま扉を閉めて4階のボタンを押す。4階も同じように警備員がそこにいる。勝手に乗っても追い返されるということを認識した一行はそのまま6階へ運ばれる。


「6階は管理棟です。警備員は2人。7階と8階は処理室。こちらはさらに警備が厳重ですよ」


6階で扉が開き、屈強な警備員が2人立ちふさがった。驚くりんごたちに人懐っこい笑みを見せ、警備員は軽く手を振ってくれた。エレベーターはその後1階へ戻る。そうして逆方向に向かい、今度は自分たちが乗ることを許されたエレベーターに乗り込んだ。


「3階はあなた方だけの居住区、5階は会議室です。まぁ、会議することなどないので完全に無人ですがね。さて、部屋を・・・」


言いかけたと同時にエレベーターが到着を告げた。開いた先には長い廊下があり、白い壁があるのみだ。その長いまっすぐな廊下を進むと、突き当たりはT字路になっていた。担当者は右側を進む。


「左の先には娯楽室があります。まぁ、自販機やポット、テーブルなどがある程度ですが」


軽くそこに触れ、そして立ち止まった。突き当たりには大きな窓がある。そこまでの長い廊下の両側にドアが並んでいた。ドアノブがない簡素な扉が。扉の脇のベージュの四角い出っ張りにカードをかざせば開くようだ。


「部屋の扉にプレートが掲げてあります、それぞれの部屋はこちらで準備していますので」

「決まってるんだ?」


言いながら祐奈が興味ありげに進む。同時にりんごとサクラ、紗々音も歩き出す。ため息をついた明日斗が後ろを振り返れば、どうにも病院のようなこの場所になじめそうもない自分を認識していた。そんな明日斗は担当者に顔を向ける。


「出入りの制限は理解しましたけど、外出とかは?」

「それは・・・」


担当者の言葉を遮ったのは悲鳴か、歓喜か。明日斗と担当者が声のした方を見やれば、女性3人が睨みあっているところだった。


「明日斗君!お隣だよ!よろしくねぇ!」


嬉々としてそう言う祐奈に対し、りんごは頬を膨らませてその祐奈を睨んでいる。サクラはにこやかで、紗々音はさっさと自分のカードをかざして部屋に入っていった。


「なんで私が端っこなの?」

「お向かいさんですね」


担当者に食って掛かるりんごに対し、サクラは明日斗に笑顔を見せた。どうやら部屋は、廊下の左側に手前から父親、明日斗、祐奈となり、その向かい側に母親、サクラ、紗々音、りんごとなっている。


「どういう考えで部屋を決めたんですか?」

「あ、いや・・・それは・・・」

「母さん、どうする?」

「まぁ、寝るのは一緒でもいいんじゃない?」


りんごと担当者が揉める中、夫婦はのん気な会話をしている。カオスだ、そう思う明日斗は自分の部屋の前に立つ。扉はどれも同じで、ネームプレートだけが違うようになっている。


「時々遊びにいくね」


嬉しそうな祐奈に反射的に頷く。それをあざとく見ていたりんごが明日斗の右腕を掴む。


「ぬけがけなし!」

「お隣なんだし、コンコンってやるの、合図にしよっか?」

「聞いてないし!聞いて!」

「寂しくなったらコンコンしてね?私もするから」

「聞けよ!」

「いつでも行くよ、呼んでね」

「裸で迫るとか絶対になしだから!」


お前がそれを言うのかと思う明日斗はため息しか出ない。全てを聞いていた担当者は苦笑を禁じえなかった。これが噂の木戸家かと疑いたくなる。伝説の数々を残す一族にしてはどうにもお気楽すぎるからだ。


「呆れるでしょう?」

「いえ、なんと申しますか、あの木戸家の面々と聞いて緊張していましたが、仲良くやれそうで安心しました、不謹慎ですけれども」

「うちは分家みたいな位置だし、そこまで強い権力はないですけど」

「あの『ゴッド』の一味と戦った方々です、それはないかと」

「戦ったのは兄ですよ、私はどっちかというと負けた方」


苦笑する母親に苦笑を返す。担当者は2時間後に休憩室でと言い残し、一礼して去っていった。母親は全員にそれを告げると自分の部屋に入った。



部屋の中は簡素ながらも色々整っていた。ホテルのバスルームではないちゃんとした浴室、広めの洗面所、そしてベッドルームとリビングは分かれている。そこそこの広さを持つ部屋に満足しつつ荷物を床に置いてテレビを点けた。BSにCSまで映るとは快適すぎる。Wi-Fiも繋がる快適さ。ベランダはないが大きめの窓から外を見れば、壁と、その向こうにある景色が見えるのみだ。


「まぁ、慣れる、かな」


落ち着かないのは今だけだと思う明日斗がベッドルームに入り、荷物も開かずにベッドに座った。その時、壁がコンコン、ではなく、ドンドンと鳴る。ため息をついてコンコンと鳴らしてみせるが、音は止まない。ドンドンと叩かないと伝わらないようだ。


「これだけ鳴らすと、あちこちに筒抜けだな」


それは安心だとホッとし、ベッドに横になった。ここなら安心だと思うものの、出入りの制限はどうなるのか疑問は絶えない。


「決着がつくまで、これ、かな」


決着、それは石垣家とか、それとも全王治とか。それとも別のものか。


「戦う気はあれど、怖いんだよな」


独りで本音を口にする。こうまでしてくれた両親のため、危険な目に遭わせることになったりんごたちのために自分がどうにかしないといけないのに逃げたくて仕方がない。弱い自分をどうしていいかわからず、明日斗はそれを振り払うようにベッドから起き上がった。


「俺は木戸の成り損ないじゃない・・・・人間の出来損ないだ」


沈む気持ちをなんとか奮い立たせて荷物を開放する。それしか、今は出来なかった。



休憩所に集まった一同の前に、担当者が姿を見せた。鈴木と名乗ったその担当者は施設利用の注意事項を再度告げ、それから質問を受け付けた。まず挙がったのは施設の出入りについてだ。


「基本的にここから出るのは不可能です。と言っても、正面からは、ですが」

「外には見張りがいる・・・全王治のね」


母親の言葉に、それは理解している。ならばどうするのか。


「ここは古い通信施設の改築、というのが表向きの話。ですが、実際はそうではありません。ここはその昔、国が裏から治安を維持するための組織に向けて造った施設です」


そう言い、鈴木は明日斗の両親を見やった。父親は小さく微笑み、母親は苦笑する。


「ここはかつて、『ゴッド』と呼ばれた者たちの使用する施設になるはずでした」

「ゴッド・・・・って、まさか、あの?」


明日斗はその名を知っている。木戸家と因縁のあるその名を。りんごたちがポカーンとする中、鈴木は説明を続けた。


「今でこそ、その役割は警察が引き継いでいます。が、以前は特殊な能力を持った者たちがそれを担っていた。それらを統率していたのが『ゴッド』こと、木戸左右千きどそうせん

「木戸って・・・?」


祐奈の言葉に、母親が立ち上がった。


「木戸左右千、彼はその昔、裏社会を統率していた木戸百零きどびゃくれいのクローン・・・その木戸百零こそ、遠い昔に2つに分かれた木戸流の分家、木戸無双流の継承者。彼らは日本を守る役目を担いながらも国を乗っ取る計画を立てた・・・けど、木戸無明流の継承者たちに倒された」

「その継承者は木戸周人、明日斗たちの祖父・・・政府は倒されて廃人になった百零からクローンを作って再び統率者とした、それが左右千だ」

「だが、本当か嘘かは不明だが、左右千は百零の自我を残していた。それが暴走して、復讐に突き動かされた・・・・その矛先が・・・」


母親、父親、そして鈴木がそう告げ、それから母親が座る。


「私と、私の双子の兄、天都あまと

「天都は左右千を倒し、政府はようやく重い腰を上げてその役目を警察に引き継がせた」


クローンという現実味のない話に祐奈もサクラも混乱している。りんごは分かっていたのか、それとも理解が追い付かないのか無表情だ。


「こういった施設は全国に12か所造られるはずだった・・・が、左右千の反乱で、既に着手していたここだけが残った、というわけです」

「でも、なんでその施設を私たちが?その左右千って人を木戸の人間が倒したから?」


祐奈の質問はもっともだ。こういう極秘施設を使用できる権限をもつのが木戸ならば、真っ向から全王治や石垣と戦えるはずだ。


「それはね、それもあるんだけど・・・俺がその左右千の試作品、つまりは木戸百零のクローンだからだ」


穏やかにそう言う父親の言葉に全員が息を飲んだ。現実にクローン人間が目の前にいる。それは唐突で、衝撃的で、現実的だった。


「俺の身体を研究に使う代わりにここの使用を要求した・・・っても、俺の父親の研究資料の提供、そして母さんのお父さんの口利きがあったからだ」


驚きがすぎると言葉が出ない。だが、明日斗は違った。


「そんなのはともかく、出入りはどうすんの?」


途端に空気が変わる。苦笑する両親を見ず、明日斗の目は鈴木に向けられていた。


「張り巡らされた地下に道路、通路があります。用があれば都度対応します」


にこやかにそう告げる鈴木を満足そうに見つめる明日斗だが、ただ、今の空気を変えたかっただけだ。クローンだろうがなんだろうが自分の父親には変わりがない。だからそういう目で見て欲しくなかっただけだ。


「じゃぁ、行きますか、その道路を見に」


母親の言葉に全員が立ち上がった。明るい紗々音のおかげか、女性陣の緊張は解け始めている。そんな状況を見つつ、父親は明日斗の頭に手を置いた。


「お見事」

「なにが?」

「機転」


短い会話に親子の愛がそこにあった。偽りではない、本物の愛が。だから明日斗はそっぽを向いた。照れ隠しのその仕草に、両親は見つめあって微笑むのだった。

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