表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第6話
31/62

乙女の決意 5

予定を前倒しにせざるを得ない状態にあるとはいえ、一泊二日の東京デートが実行されたことはりんごにとっても嬉しい事だった。ホテルも明日斗の母親の計らいでグレードも上がり、天気も良くていいこと尽くし、のはずだった。そう、ここ、浅草に立つまでは。


「・・・・なんなの?」


夏だからか、それともこれが特別なイベントだからか、やや胸を露出気味の服装にミニスカートという格好のりんごは腰に手を当てて眉間に皺を寄せて前に立つ2人を睨むようにする。そんなりんごに対して赤いポロシャツにジーンズ姿の祐奈はにこやかに、オレンジのTシャツにこちらもジーンズ姿のサクラはどこか気まずそうにしてりんごを見つめている。明日斗は苦笑するしかなく、午前10時なのにきつい日差しのせいで額ににじむ汗を拭った。


「偶然ね、私たちも東京観光」

「嘘つけ!」

「・・・・で、でもね、ほら、昨日、紗々音ちゃんが持ち帰った情報で、おじさんとおばさんも忙しいだろうから、それで・・・」

「だからって、なんでここ?」

「偶然」


しどろもどろなサクラと違い、祐奈には余裕がある。りんごに対して一歩リードしているという余裕からか、それとも別の思惑があるのか。りんごはしばらくの間2人を睨み、それから明日斗の手を引いて歩き出す。もう無視を決め込んだのだ。あとを追うような2人だが、声を掛け合うこともない。


「先生・・・これ、なんか、心が・・・」

「痛い?でもさ、チャンスでしょ?ライバルをけん制するのは恋の常套手段。家にはいられないからこうなった。たまたまホテルも同じなだけ」

「たまたまという名の狙い撃ち、ですけどね」


苦笑すら出ないサクラに対し、祐奈は会話を楽しみながら浅草寺に向かう2人を見つめていた。結局、明日斗の気持ちが誰に向いているかはわからない。基本的にそういうものが薄いのか、優位に立っていると思う祐奈にてもそこは気が抜けない。逆にマイペースなサクラにしてみれば、なるようにしかならないという思いと、今はここにいない瀬音という大きな壁の存在が心に歯止めをかけていた。そう、祐奈もりんごも忘れている。このままでは明日斗は瀬音と結婚となるのだから。


「瀬音さん・・・2週間後に帰国みたいですね」

「そうね、でもは今は目先のことを、ね」

「はぁ」


やはり危機感はないようだ。サクラだけなのかもしれないが、瀬音の動きが不気味でならない。何かこう、彼女の手に平で踊らされているように感じる。早々とイギリスに渡り、明日斗ともそうこまめに連絡を取っていないことも気になっていた。何より、ピタリと止んだ全王治家の動きも同じだ。


「しかし、暑いわね」


今の祐奈に言っても同じだろう。だからサクラは決意した。来週から避難所に移動となり、そこでちゃんと全員に伝えようと。この不安を。



「すごいね・・・・ずっと、地平線までビルとか、家とか・・・」

「まぁ、な。これだけの建物の中に人がいる、それもすごいよ」


スカイツリーから見える絶景をスマホに収めつつ、明日斗はそう口にした。そしてその言葉はりんごにとっても予想通りのものだった。


「その数えきれない人の中から私たちは幼馴染になった。それって運命感じない?」


にこやかにそう言うことも計算通り。明日斗にあざとさは通じない。あくまで自然に。


「それはそうだなぁ。ま、あ運命かどうかはわかんないけど、出会ったことは奇跡かも」


前半は予想通り、後半は予想以上の言葉だ。だからにこやかに放たれた明日斗の言葉に激しく赤面したりんごはあわてて景色に目を戻す。ここから華麗なる攻めの言葉が続くはずだったのだが、それは全て吹っ飛んだ。明日斗はそんなりんごを不思議そうに見つつ、同じように景色を見た。雄大だと思う。


「もしも、運命ってのがあるとしたら、多分、今が分岐点だと思う」

「分岐点?」

「瀬音さんからの突然のご指名、お前からの告白、先生からの告白、サクラちゃんからの告白」


そして、誰を選ぶかの分岐点。


「で、誰を選ぶのかな?」


不安な気持ちを押し殺し、努めて明るくりんごはそう言った。だから明日斗は自然に笑みを返す。幼馴染だからこそ分かり合った上の受け答え。


「それが決まってれば苦労しないし、今はまだ決められない」

「このままいけば結婚なのに?」

「・・・・・彼女の計画が、それがこちらの思う通りなら、俺は全てを拒否する」

「全て?」

「瀬音さんを、お前らの告白を」

「な、なんで?」


何故自分たちの告白まで拒否されなくてはならないのか。つまりそれは、振られるということなのか。


「ちょっと!なんで拒否なのよ!」


いつの間にか真後ろにいた祐奈が明日斗の肩を掴んで鬼の形相を見せる。そのすぐ後ろにいたサクラもまた顔面蒼白だ。3人に睨まれた明日斗は苦笑を濃くしてから行こうかと告げ、エレベーターへと向かうのだった。



暑さから逃げるため、そしてお昼時とあって蕎麦屋に入った4人は席に着き、各々注文するが、冷たい視線を明日斗に浴びせることを忘れない。スカイツリーを出てから無言で睨む4人を無視していたが、さすがにこれではそうもいかない。仕方なく明日斗は水を一口飲み、それからさっきの言葉の真意を口にした。


「拒否ってのはさ」


その一言に対し、隣に座るりんごは大きな胸を強調させつつ明日斗に寄り、祐奈とサクラもテーブルに乗るようにして前のめりになった。


「一度全部リセットしたいってこと」

「リセットぉ?」


3人の声が綺麗に揃い、明日斗は苦笑を濃くした。


「瀬音さんが本当に俺を巻き込んで色々企んでいるなら、石垣家、全王治家と決着をつけた後で全部リセットして、俺の、自分の気持ちに向き合いたい」

「要するに、流されている自分を変えたいってこと」

「簡単じゃないのはわかってる。でも、そこから始めないと・・・」

「でも、多分、それは正解です」


恋をしてから強くなったのか、サクラは頷いてそう言った。


「だって、全部、私たちも含めて瀬音さんに踊らされているのかもしれない。だったら、この気持ちも本当なのかなって、私もリセットして考えたい」

「私はずっと前からあっくんを好きだから、関係ないけどね」


勝ち誇ってそう言うりんごを睨む祐奈だが、自分もこの恋は本物だと信じている。いや、きっとサクラもそうなのだろう。以前から明日斗を好いていたのは事実だ。だからこそ、ここまで急速に発展した仲をもう一度考えようという提案だ。


「でも・・・・本当に石垣瀬音とそのお兄さんが敵であるなら・・・勝ち目はないね」

「だよね」


日本有数の権力を持つ系譜に勝てる見込みはない。だが、祐奈もりんごもサクラも、そして明日斗自身もまだ知らない。それに匹敵できる系譜を持つのが木戸家なのだと。


「とにかく、決着をつけてから、だけどね」


そう言い、明日斗は再度水を飲んだ。自分が勝てるか、戦えるかどうかもわからない。避けるべき戦いは避けてきた自分が大きな敵に立ち向かえるのか疑問だからだ。だが、そうしなければいけない。瀬音が自分を婚約者に指名したあの日から、きっと、運命は動き出したのだから。



お昼を食べ、何故か4人での行動になった一行が向かった先は東京タワーだった。行く先々で写真を撮ったり買い食いしたりと中々予定通りに行かず、タワーに着いたのはもう夕方5時だ。さすがに気をきかせた祐奈がりんごと明日斗を2人きりにし、自分とサクラは反対側を見て回る。


「いいんですか?2人きりにして」

「まぁね」

「キスしちゃうかも」

「彼にその度胸があれば、ね」

「あぁ」


さすがにこの観光客の多さの中でそれはないとサクラも思う。そんな2人は仲良く自撮りをし、タワーを楽しんだ。一方で明日斗とりんごはそこから見える景色を堪能する。さすがに先にスカイツリーに行ったせいか、景色は劣るがこれはこれで見事なものだ。りんごはそっと、だが自然に明日斗の手を握った。一瞬驚いた明日斗だがそのままそっと握り返す。


「小さい頃はよくこうしたよね」

「そうだな」

「あっくんを好きなのはその頃からずっと変わらない」

「うん」

「だから、全部終わってちゃんと考えて、答えを出して」

「出るかどうかわかんないぞ」

「出せるよ、あっくんなら」

「言い切るなぁ」

「だって、あっくんだもの」


純粋な笑顔がそこにあった。よく知る、いつもの可愛い笑顔だ。だからか、明日斗はときめきを感じない。慣れすぎたせいだろう。


「あっくん、私ね、多分、あっくんは・・・・」


そこで言葉が止まる。明日斗はりんごを見やるが、りんごは景色を見たままだ。可愛い、素直にそう思える横顔がそこにある。


「あっくんはさ、きっと、瀬音さんを選ぶと思う」

「裏切られてるかも、なのに?」

「だからこそ、だよ」


わけがわからない、そんな顔をする明日斗見て小さく微笑むりんごを見つめるが、それはないと思う。


「ないよ」

「だといいなって、思ってる」

「根拠は?」

「女の勘」

「なんだよ、そりゃ」


笑う明日斗に微笑みを返すりんごはいつものりんごだった。



りんごの父親がおすすめとして予約したレストランで食事をする。何故か同行者であるサクラと祐奈はおらず、どうやら別の店に入ったようだ。気を使ったのか、それとも予算の都合か、どちらにしても2人きりで食事ができる喜びを噛みしめるりんごは雰囲気のいいお店をチョイスしてくれた父親に感謝をした。ステーキがメインディッシュのコースを楽しむ。


「こういう雰囲気の店でご飯食べるの、あこがれてた」

「写真、撮りまくるのかと思ってた」

「冷める前に食べるでしょ、普通」


来た品来た品一品ずつ1枚写真を撮るだけですぐに食べるりんごが実にりんごらしい。懐かしい昔の話が弾む中で食事は進んでいった。


「普通にあっくんの奥さんになるんだって思ってたのになぁ」

「流れ的には、まぁ、そうだよな」

「それなのに、あの女狐が・・・」

「転機だったんだよな、アレ」

「流されてばっかりのあっくんに、神様が怒ったのかもね」

「俺が原因か?」

「あなたが婚約者ですって言われた時に、なんだそれ、嫌です、それで済んでた話でしょうに」

「彼女がそれで引っ込むわけないって」


それはそうだと思いながらステーキを口に運ぶ。話題が話題だが、肉は美味しかった。


「でも、なんであっくんだったのかな?」

「それなりに強くて、従順そうなヤツが理想だったんだろうな」

「婚約の儀で負けない程度の強さ?」

「全王治の刺客に対抗できるって条件付きでな」


ということは、やはりある程度の情報は掴んでいたということだろうか。だが、母親からの情報では、全王治無指が大崎閃光に代理人を依頼したのは明日斗を婚約者に指名した後だという。つまり、それを見越していたか、あるいは明日斗の実力が瀬音の予想を大きく超えていたのか。


「でも、来週からが本番だよ」

「避難所ってどんなかな?なんかわくわくする」

「お前の持ち味だよな、そのお気楽さ」


褒めてないのにまんざらでもない顔をするりんごにため息をつき、明日斗も最後の肉を口に運んだ。そうして瀬音とのことや全王治のことを話し、食後のアイスコーヒーとアイスレモンティーが運ばれてくる。


「そういや、あの2人、ホテルは取ってるのかな?」

「さすがに帰るんじゃない?」

「甘いかもな」

「シロップ入れすぎた?」


時折挟む天然に閉口し、明日斗はそこで話題を切った。この後、2人は同じ部屋に宿泊するのだ。肉体的な関係は持たない、そう約束したが不安でしかない。だが自分がしっかりしていればいいだけ。祐奈の時もどうにか回避できた、危なかったが。だから多少の自信はあった。そうして店を出れば、目の前に祐奈とサクラが立っていた。


「あれ?まだ帰らないの?」

「泊まって、明日、お台場ね」

「・・・とことん追跡するんだ?」


あきれるりんごに微笑む祐奈、困り顔のサクラを見つつ、なんだかんだで仲がいい3人に自然と笑みがこぼれる明日斗だった。



結構大きなホテルだ。街の中にこんなホテルがある、それだけで都会に染まった気がするのは不思議だ。明日斗と祐奈がチェックインを済ませる。


「よくこんな高そうなホテルに泊まれたね」

「ボーナスもあったし、独り身だとお金は貯まるのよ」

「そうなんだ」


記帳を終えて2人が同時に振り返ると、荷物を持ったりんごとサクラが近づいてくる。そのままエレベーター前に揃い、それに乗り込んだ。


「明日の朝は8時にロビーで。朝食を一緒しよ」

「わかった」

「じゃぁ、私たち4階だから」

「おやすみなさい」


そう言い、祐奈とサクラが先に降りた。手を振る2人に見送られ、残った2人は同時にため息をついた。


「なんか疲れたな」

「うん」


理由を言わず、ただ疲れたことだけを共有する。その頃、祐奈はカードキーでドアを開け、中に飛び込んで目を輝かせた。値段に見合う綺麗な内装だ。はしゃぐ祐奈を横に荷物を置いてベッドに腰かけたサクラはため息をついてから祐奈に顔を向けた。


「いいんですか?」

「なーにが?」

「あの2人は同じ部屋ですよ?」

「いいんじゃない?こんなに広いし」


ベッドにダイブした祐奈の動きがそこでピタリと止まった。そう、あの2人もまた同じ部屋に泊まるのだ。すなわち、それは。


「あああああああああああああああああああ!!!!」

「な、なんですか?」

「あいつら、どこの部屋?何階?」

「聞いてません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっちまった」


後悔とは、後で悔やむこと、それを知った高校教師であった。



先にシャワーを浴びた明日斗は荷物の整理をしていた。明日着る服、着替えた下着をまとめていると、急に部屋の電気が消えた。何事かと振り返れば、そこに立っているのはりんごだ。だが明日斗はすごい勢いで顔を背けた。何故ならば、りんごは全裸だったからだ。下着もつけず、バスタオルを頭に巻いた状態のりんごがゆっくりと近づいてくる。


「お、お前・・・着替え持って行かなかったのか?」


わざとそう言った。全裸の理由がそうではないことをわかっていたからだ。予想はしていたが、これはその予想の斜め上を行く事態だった。迫ってくるのは練る直前だと思っていた自分を殴りたい。


「あっくん・・・・私ね、今日はそういう覚悟で、決意できた」

「無しって言ったろ?」

「無理だよ・・・・だって、このままじゃあっくんは瀬音さんに取られる。それは嫌だし、私はあっくんとだけそうなりたいから」


駆け寄るりんごを回避できない明日斗は正面から抱き着かれてキスをされた。柔らかい女性の体を感じつつ、床にゆっくりと落ちていくバスタオルを見つめる明日斗はもう、欲望に負けかけている理性に加担できない状態にあるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ