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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第6話
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乙女の決意 1

目を覚ました祐奈は見慣れない天井に急速に意識を覚醒させた。がばっと身を起こし、きょろきょろするが、ここはどこかがわからない。こうなった経緯を思い出そうとするものの、そこも曖昧だ。


「え、と・・・・校長先生と・・・」


それしか思い出せずに困惑しているとドアが開いたために身構えた。


「あ、起きた?」


やってきたのは紗々音であり、祐奈はホッとしつつもここが木戸の家であることを認識した。ラフな格好の紗々音と、その後ろから姿を見せた母親のせいだ。軽く頭を下げる祐奈ににこやかな笑みを浮かべつつ脇に座った母親はこうなった経緯を話し始めた。その経緯を聞いた祐奈は自身の身に起こった出来事に驚愕しつつ、もはや大きな波に投げ出されている現実を受け止める。石垣家と全王治、そして木戸家の戦いに巻き込まれている現実を。


「本当は石垣家に経緯を話して隔離してもらうつもりだったけど、ちょっと事情が変わったの」

「事情?」

「今日、紗々音が仕入れてきた情報が確かなら、本当の敵は、全王治じゃない」

「え?って、どういう・・・」

「とにかく、今後をどうするか早急に決めるけど、それまではウチで居候して」


母親の言葉に戸惑いつつも無意識的に頷いていた。それほどまでに母親の言葉に力があったからだ。


「4、5日は泊まれる準備をしてきてくれる?」

「え?今すぐですか?」

「そ。紗々音を同行させる。明日斗にはちょっとおつかいに行ってもらってるし、紗々音の方がボディガードには向いてる」

「任せてよ!」


あまりない胸を叩く紗々音にどうしていいかわからない祐奈だが、とにかく動くしかないと立ち上がった。クラクラしないことを確認し、紗々音と共に家を出た。それを確認した母親がスマホを取り出そうとした時、そっと肩に手を置かれる。振り向けば夫が優しい笑みをたたえてそこにいた。


「紗々音が得た情報が真実なら、やっかいになるぞ」

「そうね、楽しみ」

「高校時代を思い出すってか?」

「それ以上かも」

「・・・・・・・・で、どうする?」

「お嫁さん候補は保護する。あとは・・・・明日斗と紗々音とでどうにかさせるわ」

「わかった・・・・お義父さんがいい場所を提供してくれるみたいだけど?」

「あなたには、ちょっといい気がしない場所かもね」

「ん?」

「かつて木戸百零が用意してた場所だから」

「なるほど」


苦笑する夫に対し、母親はにんまりと笑う。こういう顔をする時は頼もしい反面、危険な気配もする。しかし、それを混みで結婚したのだから仕方がない。


「それはそうと、明日斗は?」


家にいないことは知っている。行き先を知らないだけだ。


「サクラちゃんとりんごちゃんを誘いに行かせた。敵が来ても、影から天狗様が守ってくれるし」

「明日斗、大丈夫なのか?」

「五分五分かなぁ・・・紗々音に言わせればダメらしいけどね」


その言葉の意味を理解するが、父親としては複雑ながらも、ある期待が込み上げてくる。


「あいつもそうだったけど、本当に大事な場面じゃ、覚醒するかもよ?」

「どうだかね」


あいつというのが双子の兄を指すと理解した母親は苦笑するしかない。残念ながら明日斗は覚醒しそうにないからだ。だが、万が一という期待は確かにあった。


「援軍は望めない・・・巻き込むにはあまりに相手が大きすぎるからね」


そういう母親に夫は微笑み、そして頷いた。



「あの、さ」


横を歩く紗々音は暗い田舎道を鼻歌混じりに軽快に歩いている。危機感などない。拉致されかけた祐奈にしてみれば、恐怖心しかないというのに。


「大丈夫、だよね?」

「多分ね」


多分、これほど曖昧で怖い言葉はない。今ここで誰かに襲われても、絶対に大丈夫ということではないのだから。


「多分って・・・・大人数で襲われたら・・・」

「あ、今?今は大丈夫だよ、私がいるからさ」


満面の笑みを浮かべる紗々音が怖い。その絶対的な自信はどこからくるのだろう。ほんの少しでもそれが欲しいと思う祐奈であったが、恐怖心がそれをすぐに覆い隠してしまう。暗い夜道、女性が2人、敵は未知数。ごくりと唾を飲む祐奈を見ることもなく歩く紗々音の足取りに変化はない。


「紗々音ちゃんって・・・・どれくらい強いの?」

「んー・・・多分ね、この世で3番目ぐらいかな」


それはいくらなんでも言い過ぎだと思う。


「まぁ、おにぃよりは遥かに強いよ」


にっこり笑うその表情は自信に満ち満ちていた。だからもう祐奈は詮索するのを止めた。


「さて、さっさと行って帰ろう?お腹空いてきちゃったよ」


笑う紗々音に引きつった笑みしか返せず、祐奈は深いため息をつくのだった。



明日斗の言葉にサクラも、サクラの両親も目を丸くするしかない。突然、りんごを伴ってやって来た明日斗の説明はショックしかない。だが、石垣家と全王治家とのことは町中に知れ渡っている。そしてその両方に絡む明日斗のことも。


「娘さんはウチできちんと保護します。狙われるのはきっと、彼女です・・・・ご両親を人質に取って大事になるのは避けたいはずですし」

「そうかもしれないけど・・・・サクラを狙っても大事になるんじゃ?」

「2つの家は強大です。そこは彼女の気持ちを利用すれば、どうとでもなります」


そう言われてはどうすることもできない。うろたえる母親とは違い、腕組みをして何かを考えていたサクラの父親は穏やかな目でまっすぐに明日斗見やった。


「本当なんだね?敵は、全王治と、石垣、両方だというのは」

「全王治は確実です。でも石垣は・・・・瀬音さんが敵だと思いたくはないです。でも、その可能性は高い。石垣仙人はキレ者・・・なら、多分・・・」


確かにそうだと思う。石垣の跡取りは相当な男だと知っている。そう、この町にいる者ならば皆が知っている。だからこそ信じられない。それでも、父親は決断をした。


「娘を預けます。ただ、約束してもらいたい、絶対に危険にさらさないと」

「約束はできません。でも、努力します」

「君はバカだな、バカ正直だ」


父親は微笑み、そして妻を見る。そちらも決意を固めたようだ。今回の騒動、裏があるとは分かっている。あまりに不穏な空気が町中に漂っているからだ。


「サクラをお願いします」


頭を下げる両親に、明日斗もまた深々と頭を下げるのだった。



「よく了承してくれたよね」


あきれ顔で歩くりんごを横目に見やる明日斗もまた同じ心境だった。母親に言われてりんごとサクラをウチで預かるよう家族を説得してこいと言われて困り果てたが、上手くいったことにホッとしている。よく知ったるりんごの両親はいざ知らず、サクラの両親の説得は不可能だと思っていたからだ。


「石垣の家に不満を持つ人も多いって聞いてました」

「そうなんだ?」

「瀬音さんのご両親がかなりイメージを変えてきたらしいですけど、瀬音さんのお祖父さんはいい面も悪い面もあったって・・・・」

「その悪い面の遺産がコレ、か」


ため息をつく明日斗は大きなトランクを引く2人を引き連れつつ周囲の警戒も怠らない。10分ほどの距離が長く感じられて仕方がない。ここで襲われては2人を守り切ることなど出来ないからだ。連れて逃げるのも難しいせいか、明日斗はドキドキしっぱなしだった。


「でも本当なの?瀬音さんも敵だって」

「お前的には前から敵だろ?」

「いや、だって・・・・そういう意味の敵って・・・」

「紗々音の聞いた話も怪しいけど、実際に高垣先生は危険な目に遭ってる。そっちは全王治のせいだけど、そう仕向けているのが想像した通りなら・・・・かなり不利な位置にいるんだと、俺たちは」


いつになく真剣な明日斗にりんごはぶるっと身を震わせた。


「どんな戦いでも必ず勝つのが木戸家らしいから、これは勝つための手段」


そう言われて来たのか思うサクラだが、まだイマイチよくわかっていない。今の状況も、これからのことも。だからこそ不安だった。明日斗とのデートも流れてしまうのではないかと。


「明日斗さん・・・・あの、イベントも行けないんじゃ?」


だからサクラはそれを口にする。そのせいか、りんごもハッとなった。東京デートもピンチなのだと悟ったからだ。だが明日斗はにこやかに微笑んだ。


「それは大丈夫だよ。ただ、鉄壁の防御力を誇る場所に避難するだけ。学校も休学、あと、移動の際に用心棒もつくし」


そう言い、明日斗は左側を見やった。暗闇の向こうにあるあぜ道を歩く黒い服に身を包んだ誰かの気配を感じつつ。母親のいう守護者がそこにいる。ギリギリ認識できない距離を保って同じ速度で歩くその気配を。


「でも、あっくんと同棲・・・・・こ、これは、チャンス!」


色々と妄想が捗るりんごに対し、サクラは冷静に生活のことを考えていた。さっき聞いた話では自分にりんご、祐奈を入れた面々で共同生活を送るというものだ。


「明日斗さん」

「ん?」

「本当に、無事に全部終わりますか?」


両親にそう誓った明日斗だが、とてもそうは思っていない。母親や紗々音と違い、自分はそこまでの力はないからだ。だからこそサクラは確認したのだ。紗々音からずっと聞かされている。明日斗は弱く、すぐに逃げると。


「終わるさ・・・・・終わらせる。これは、ウチの戦争だから」


力強いその言葉に安心したサクラと違い、りんごはその上っ面だけの言葉を見抜いていた。だが、これが明日斗なのだ。だからもう覚悟を決めた。明日斗は必ず自分たちを守ってくれる、そういう覚悟を。もし何があっても後悔しないと。


「頼りにしてる」


りんごの言葉に頷くサクラも見た明日斗は苦笑し、それから少し困った顔を浮かべるのだった。

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