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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第5話
26/62

王者の資格 5

予想以上の大きな屋敷に、紗々音とサクラは茫然としてしまった。ここは町の外れに位置するため、あまり訪れる機会がない。それだけに大迫の家がこんなお屋敷だとは知らなかったのだ。元々、この地が村であった時から建てられ、住んでいるだけにこうなっていても不思議ではない。大迫は2人を促して玄関を開けた。広い玄関は昔は土間だったらしく、20年前に改築した際に現代風にしたのだという。とはいえ、1階部分だけを洋風に改築したらしく、2階は昔のままの和室で構成されているのとのことだ。外観とはまるで違う中身に圧倒されつつ、2人はお邪魔しますと声をかけてあがった。瀬音の家は別格だが、それでもこんな大きな家は旅館ぐらいしか知らない。廊下も綺麗で、そのまま一番奥の部屋に案内された。


「じいちゃん、お客さん」

「ほぉ」


それが返事なのか、大迫はためらいなくドアを開いた。広い部屋はフローリングと畳の2つある部屋となっていた。また正面には庭に出られる大きなガラス戸も存在している。祖父はその庭にある盆栽から孫と、2人の少女へと顔を向けてにっこりと微笑んだ。


「可愛い子だな・・・・お前の彼女ではなさそうじゃ」


にかッと笑う顔はどこか幼さを感じる。89歳には見えないその容姿は、腰はしゃんとしており、腕も筋肉質に見えた。そのまま縁側に腰かけ、そこに置いてあった水を口にする。


「石垣の家のことを知りたいんだってさ・・・こっちの兄貴が石垣先輩の婚約者だから」


そう言い、大迫は飲み物を取りに部屋を出て行った。紗々音とサクラは一礼して縁側に向かうと、祖父に促されてそこに座る。


「あんたぁ、すごいな・・・・戦いの女神か?」

「わかるんですか?」

「気が見える・・・赤い炎の気が。女でその気は異常じゃ。が、綺麗な色をしとる」


人懐っこい笑みに、紗々音も自然と笑顔になった。サクラはどこかうさん臭さを感じつつも紗々音の隣で気配を殺すようにして座っている。


「婚約の儀は終えた、のかい?」

「相手の代理人は倒しました。あとは本人同士が戦うだけ」

「ほうぅ、全王治の代理人をな・・・・あんたが?」

「兄です」

「鬼の兄は鬼か?」

「いえ、ただの人間です」


きっぱりとそう言い切る紗々音に大声で笑う。


「そうかそうか・・・鬼の兄は人間だが、普通ではないのだろうな・・・・で、何を知りたい?」

「婚約のこと、全王治のこと、全部」

「欲張りな子じゃなぁ・・・だが嫌いじゃない」


ここで鋭い目をした祖父にサクラは気圧された。だが紗々音は平然としている。一瞬鋭い風を感じたはずのサクラだが、紗々音はそれを受け止めた上で微笑んだのだ。だから祖父は再度大声で笑った。


「よかろう。だが、心しなさい。今回の婚約にはいろいろと裏がある、じゃろうしな」

「裏?」

「石垣の兄妹、全王治の父子、それぞれの、な」


祖父はそう言い、青く澄んだ空を見上げた。鋭い目で。



車が止まる。いや、止められたのだ。ゆっくりと田舎道を進んでいたその車を止めたのは、着物姿に天狗の仮面を付けた男だ。狭い田舎道の真ん中に立つその男は、仮面の下の口もとを吊り上げた。予想通りすぎる、そう思う笑みだ。車から3人の男が飛び出した。そのまま、暑い夏の日差しの下で仮面の男に構えを取る。一人は懐から拳銃を取り出す。さすがにこれはいざという時の保険だ。


「女を、返してもらう」


助手席の滝澤が聞いていれば、どこかで聞いた声だと思えただろう。だが、助手席の窓を閉め切っているためにそれは出来ない。舌打ちをし、最悪は天狗をひき殺してでも進むよう運転手に告げた。それと同時に男たちが駆けた。着物の下はブーツだった。アンマッチなその靴のつま先が男のこめかみに炸裂する。同時に一瞬かがんで腹部に拳をめり込ませた。そのまま飛んで一旦下がり、加速して前に出る。もう1人の男の拳をかわして下から蹴りを見舞い、だが躱される。しかしそれは計算通り。そのまま足を振り下ろし、肩口を直撃させた。さらに体を捻って軸足を跳ね上げて頭部を蹴りぬいた。着地を決めた天狗に銃口が向く。安全装置を解除したそれが火を噴く寸前だった。飛来した何かが引き金に添えていた人差し指に直撃した。それが500円玉だとも気づかずにひるんだその一瞬を天狗は逃さない。拳銃を持った右腕を掴んで捻り上げ、そのまま両足を跳ね上げて首を挟むように蹴りつけ、身体を捻りつつ地面に男の背中を叩きつけ、同時に右腕を折った。


「出せ」


滝澤が冷徹な声でそう運転手に告げるが、車は動かない。舌打ちして横を見れば、開かれた窓から女性が運転手の首を掴んでいた。そのままもう片方の腕を伸ばしてエンジンを切るようにキーを回してから引き抜き、すぐ後ろに田んぼへ放り投げた。


「応戦できるように窓を開けててくれて助かった」


女性はそう言い、男の首から手を離した。


「先生は返してもらうよ」


解除したロックのせいか、たやすく後部座席を開けると眠っている祐奈を抱きかかえる。滝澤はただ忌々しそうに見つめることしかせず、指示もしなければ動こうともしない。何故ならば、目の前では天狗が拳銃を滝澤に向けているからだ。祐奈を背負った女性、明日斗の母親はにんまりと笑うと天狗の方に歩いて行った。


「何故わかった?」


車から降りた滝澤は母親にそう問いかける。天狗は拳銃を田んぼに捨て、それから滝澤に背を向けた。


「天狗様にお願いしたの。あんたらが不穏な動きを見せるだろうからって。ウチの娘と息子の幼馴染を襲って失敗、だったら、次は想像できるよね?」


ニヤリと笑うその顔に戦慄が走る。何故か恐怖を感じてしまった滝澤はグッと拳を握ることしか出来なかった。戦っても勝ち目はない、そう判断したからだ。


「一応、先生は息子の花嫁候補、ここで傷物にされたら困る」

「この件、石垣に知らせても無駄だ」

「知らぬ存ぜぬで終わりだものね・・・・いずれ決着はつけるよ。あぁ、息子同士のそれじゃなく、木戸と全王治との決着をね」

「覚えておくぞ、『魔獣』の娘、木戸天音」

「よろしく」


笑みを残して母親は天狗と共に田舎道を去っていった。少し先の開けた場所で祐奈を下ろし、それから天狗を見上げた。


「車を」

「着替えてから、でもいいですか?」

「ダァメ、まずは安全の確保」

「ですね」


そう言い、仮面を外した大崎閃光は苦笑をそのままにそこに止めていたバイクに跨った。車は数百メートル先の水車小屋の中だ。再度仮面をつけてバイクを走らせそこに向かう。母親は祐奈を木陰に寝かせ、それから滝澤の動向を確認すべく道に出るが、車はバックで去っていくところだ。


「賢明」


追ってこないことを確認して笑みを浮かべた母親はポケットからスマホを取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。


「木戸です。高垣先生は無事保護しました。甥っ子さんは逃げました・・・・えぇ、戦ってませんよ」


電話の向こうの校長は、最後の言葉を聞いてホッとした様子だった。何より、祐奈も無事と聞いてからの安堵のため、より大きい。苦笑のまま電話を切り、そして眠る祐奈を見やった。


「どうやら、相当切羽詰まってるのね」


全王治の動きからそう判断した母親は今回のことを受けてあらゆる計画の前倒しを決めたのだった。



東京でのスケジュールを確認し、まったりとした時間が流れていく。いつも通りの2人だけの時間。りんごとしては激しいスキンシップで心の距離はおろか身体の距離も詰めようと乗り込んできたのだが、身に付いた習慣というものは恐ろしい。それぞれがそれぞれ漫画を読み、お菓子を食べる。そうしていると夕方になってりんごは帰っていった。自室に入ってから結局何も出来ていないことを嘆くのだが、後の祭りである。明日斗は明日斗で、普段通りでいられたことにホッとしていた。昨日のあの出来事があってから、妙に女性を意識していまう。現にいつも通りの自分を演じていたわけで、ちらちらとりんごの胸元や、太ももの絶対領域を見ていたのは気づかれずに済んでいただけのことだ。


「このままじゃ、いつか間違いを・・・・」


それはそれで仕方がないと思う自分を諫め、ため息をついた。結局性欲が前に出ているだけの話だ。それではいけないと気合を入れ直した時だった、玄関から母親が呼ぶ声がする。紗々音はいないのかと下に降りれば、何故か母親が祐奈を背負っているではないか。慌てて駆け寄れば、祐奈は眠っているだけのようだった。とにかくリビングに運び、ソファの上に寝かせる。ふぅと一息ついた母親がお茶を飲んでから事の顛末を話して聞かせた。とはいえ、肝心な部分ははぐらかしたのだが。通りすがりに拉致されそうになっている祐奈を保護した、そんな風に。紗々音から聞いた大崎閃光の存在は切り札だ、明日斗にも明かせない。とにかく祐奈が無事なことにほっとした明日斗だが、全王治のやり方にここにきて初めて怒りが湧くのだった。


「これで、向こうもしばらくは大人しいでしょ」

「だといいけど」

「紗々音とりんごちゃん、先生、全部失敗してるんだからね。練り直しでしょう、作戦を」

「けど、また・・・」

「だったら、石垣さんに告げ口するだけ」


それはそれで実行しないことに疑問が浮かぶ。


「さっさと瀬音さんに知らせて、どうにかすればいいじゃないか!」

「証拠がない。疑惑はあってもそれじゃだめ。まぁ、全王治だって馬鹿じゃない」

「でも!」

「石垣の中にも、全王治との婚姻を望む者がいないとも限らないでしょ?」

「それは・・・」

「手は打つ」


ニヤリと笑う母親を頼もしく、そして怖く思う。きっと自分の知らないところで色々動いているのだろう。今日のように。


「先生は泊めるけど、あんたは接近禁止」

「はいはい」


ため息しか出ないが、一緒にいればどうするかわからない。祐奈が、自分が。だからそこは納得し、隣の部屋に布団を敷く母親を尻目に眠っている祐奈を見つめた。自分のせいで危険な目に遭わせた、その負い目から心が苦しくなる。


「大丈夫」


そんな心を見抜いた母親の言葉に苦笑し、明日斗は祐奈を布団まで運んだ。


「花嫁候補、大切にしてあげなさい」

「なんだよ、それ」


悪態をつくが、否定はしなかった。したくなかったのが本心か。とにかく、眠っている祐奈の傍に座り、その可愛い寝顔を見つめる明日斗は彼女たちを守れる力が欲しいと、この時、生まれて初めて強く思うのだった。



母親の朝妃と一緒にいた大刀は、目の前で跪く滝澤からの報告を受けても薄ら笑いを消さなかった。いつもであれば半狂乱になって怒り狂い、暴れまわるはずなのに。大きなソファにその巨体を埋めながら、祐奈の写真を投げ捨てた。


「まぁ、この身体の間にあいつに好意を持つ女を食ってやろうと思ってたけど、ま、いいか。出来ればこの巨乳ちゃんの方が好みだったけど」


そう言い、りんごの写真も投げ捨てた。残るサクラの写真を見て、こちらも捨てる。もう興味を失ったようだ。結局は木戸明日斗への嫌がらせをしたかっただけの器の小さな男だ。そう思う滝澤は一礼してから部屋を出た。大刀は薄ら笑いを消さず、寄りそうように座る母親に頬ずりするようにして抱きしめてもらう。


「どうするの?他の女を探す?」

「もういいよ。2週間後には手術だし、それからでいい」

「2か月は満足に動けないのに?」


母親の言葉には愛情が込められている。しかし、それは親としてのそれではない、恋人としてのそれだ。


「うーん・・・・そうだなぁ・・・・・」

「だったら、お母さんが相手をしてあげる」

「ホント!?」


とんでもない申し出を嬉々として受け入れる異常さ。2人は見つめあったまま、お互いにとろけるような表情になっていた。


「お母さんがあなたの子供を産むわ・・・あの石垣の小娘より先に。お母さんの夢は誰よりも先にあなたの子供を産むことだったから」

「嬉しいよ!弟であり、息子がいいなぁ」

「そうね、その子があなたの次の全王治を継ぐの・・・・あの女の子供じゃなく、ね」

「お母さん」


ぎゅっと抱き着き、その豊満な胸を顔で撫でまわす。母親は至福の表情を浮かべ、息子の頭を撫で続けた。


「あなたにどんな女をあてがっても、絶対に妊娠させないようにしてきた。それもこれも、私が一番に妊娠するため・・・・大刀・・・・あなたの一番なのはこの私よ」

「わかってるよ、母さん・・・・さぁ、今からしよう?親父もいないし、朝までずっと・・・」

「うん」


母子とは思えぬ異常なキスを繰り返す2人。ずっと甘やかしてきたのは息子だからではない、恋人だからだ。お腹に命が宿ったその瞬間から、朝妃はその子に恋をしていた。それがどんなに異常なことかもわからず、生まれてからもずっと愛し続けてきた。


「あなたと私が未来を作るのよ・・・・この国の統治者に相応しいあなたの子を作る」

「俺はこの国を裏から支配する王になる。母さんと一緒に」


微笑み、キスを繰り返す。そんな様子を隠しカメラの映像をモニターを通して見ている人物がいた。


「そうだ大刀、欲望に忠実であれ。理性などいらぬ、欲望を本能のままにむさぼればいい。それこそが権力を意のままに操れる王の資格を持つ者としてくれる。欲望なき者に未来はない」


電動の車椅子に乗った皺だらけの老人は母子の交わりを見つめつつ絶頂に近い快感を得ていた。これこそが全王治が望んだ者、未来を造りし理想像。高らかに笑う老人は久しぶりに熱くなる下半身を感じていた。生きている証拠、生きている感覚、それを実感している。


「さぁ!祝福あれ!天と地を治める支配者の誕生は、すぐそこまで来ている!見ておれ石垣め!喰い尽くしてやる!貴様らを喰らい、全王治は復活するのだぁ!」


天に向かって手を広げる老人の目は血走っていた。その目をモニターに向ける。交わりあう母子のそれを凝視しつつ、高らかに笑う老人は勝利を確信したその衝動に体を震えさせるのだった。

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