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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第5話
25/62

王者の資格 4

どこにお出かけするんだというような恰好の美少女が目の前にいる。キャミソールの上にレースの上着を軽く着こなし、下は白いミニスカートにニーハイときている。大きな胸を強調したそのスタイルに、明日斗は赤面を隠せなかった。つい昨日、祐奈とそういう場所にいってかなりハードなキスをしたせいもあって、妙に意識をしてしまうのだ。対するりんごも、これは作戦のうちだ。反石垣同盟は石垣瀬音と木戸明日斗との婚約解消を目指した同盟であると同時に、そのメンバー自体が個々にライバルなのだから。昨日、明日斗と祐奈がデートをしたのはりんごもサクラも知っている。明後日にはそのサクラと明日斗がデートをし、来週には自分が一泊で明日斗とお泊りデートだ。3人の目指す目標は1つ、そしてその先は、それぞれ手段は違えどゴールは同じ。明日斗との結婚だ。りんごに至っては即時の子作りがその目的だった。


「昨日はどうだったの?」

「どうって?」

「センセーと」


ジト目でそう言われて無意識的に視線を逸らせてしまった。ラブホテルの一件を思い出し、心臓がその動きを加速させていく。


「どうもないよ・・・田舎の川で遊んで、散歩して・・・」

「キスして、えっちした?」

「す、するわけないだろ!」

「今、かなり動揺した」

「お、お前が変なことを言うから!」


そう言い、オレンジジュースを口にして間を開ける。こうでもしないと冷静に話が出来ないからだ。ここに来た時はその服装に心を奪われてしまい、変な想像もしてしまっただけに、動揺が止まらない。


「あっくんさぁ・・・・どうしたの?」

「どうって?」


目を細めるりんごがグッと身体を前に寄せる。ガラスのテーブルの上に乗った胸、特に谷間に目がいくものの、あわててそれを逸らす。


「会長と結婚したいの?」

「・・・それはないかなぁ」

「じゃぁ、センセーと付き合いたいの?」

「選択肢には、アリかも」

「サクラちゃんと付き合いたいの?」

「選択肢は・・・・」

「私のこと、どう思ってるの?」

「前にも言った通り、ただの幼馴染」


祐奈とサクラの件には動揺をみせていたのに、何故かそこだけははっきり言う。りんごは無言で立ち上がって明日斗の後ろに座ると、素早い動きで後ろから左腕を前に回して首を絞めつつ、明日斗の右腕を自分の右腕で掴みつつ上に捻り上げた。そのまま右膝を背骨に当ててぐっと相手の身体を反らせる。


「木戸無双流、座縛り」

「左足で腹を抱え込まないと意味がないよ」


ぐっと身を屈めて首の締めを外すと腕も振りほどく。


「紗々音から即席で習ったにしては、なかなかなもんだ」

「護身用に色々ね・・・・でもね、あっくんに効果的なのは・・・・!」



そう言うと正面に回って抱き着き、その大きな胸を顔面に押し付けた。


「りんご無双流・・・・・巨乳縛り!」


足も絡めて力を込める。明日斗は胸で窒息死させられる恐怖とその柔らかい感触に昇天しそうになる。推定Fカップのその威力は想像以上だ。


「あら・・・」


ドアが開く音に体をびくつかせたのは明日斗か、りんごか。りんごは明日斗を羽交い絞めにしたままお菓子とジュースのペットボトルを持ってきた明日斗の母親に困ったような笑みを浮かべて見せた。対する母親はにっこり微笑むとテーブルの上に持ってきたものを置く。


「避妊はしときなさい。色々あると思うけど、まぁ、学歴は必要だしね」

「ひ、避妊したら・・・・してもいい?」

「お好きなように」

「す、すごい放任主義」

「バカやろっ!ただの無責任なだけだ!」


ニヤニヤしながら出ていく母親にそう怒鳴り、りんごから逃れた明日斗は息を切らす。そのままキッとりんごを睨むが、さっきの抱擁でキャミソールがずれてブラがちらりと見えている。目を逸らそうとした明日斗だが、強い視線を感じてりんごの顔を見れば、発情して涎を拭く仕草をした状態で迫りつつある。


「あ、あっくん・・・・・・・ふひひ・・・・・」


顔を近づけるりんごの脳天にチョップを喰らわせた明日斗は一度お祓いに行こうかと思いつつ、こういう状況に追いやった瀬音を激しく恨むのだった。



「ホテルは結構安いな・・・さすがおばさん」

「電車賃とかも節約したら、コースはこれかな?」


テーブルの上に置かれたノートパソコンを見やる2人の距離は近いものの、さっきまでとは違って何も起こらない。普段がこうなだけで、さっきが異常だったのだ。頬が触れそうで、息遣いも聞こえそうなのに、2人は地図を見つつ回るコースを吟味していく。そうして1時間、ここでようやく明日斗が一息つくために少し離れてジュースを飲む。りんごはパソコンを見つつスマホと交互に検索をかけていた。


「あー、そうだ、りんごさぁ」

「んー?」


キーボードを叩きつつ返事をするりんごを見つつ、明日斗は昨夜両親が話した計画の一部を確認しようとそう言葉を発した。


「秋、10月ぐらいに温泉旅行に行くぞ。9泊10日ぐらいで」

「え?」


旅行というキーワード、そして長いその期間がりんごをパソコンから引きはがした。


「全王治との全面対決のための避難所。いや、最悪は決戦の場になるかも」

「新婚旅行じゃないんだ?」

「結婚しねぇのにありえないだろ?」


本気で言っているりんごにがっくりしつつ、明日斗はジュースのおかわりをしつつテーブルの前に進んだ。りんごも両手でコップを持って明日斗を見つめている。こうしてみるとかなりの美少女だ。体つきもいやらしいほどに成熟しているし、なにより性格もいい。なのに、明日斗にとっては恋人から一番遠い位置にいる。幼馴染というデメリットがまさにそれだった。近すぎるが故の家族感覚、それが恋愛感情の妨げになっている。


「でも、どうして?」

「俺と紗々音だけじゃ、みんなを守れない・・・昨日は紗々音がいた。でもいつもそうじゃない」

「じゃぁ、毎日ヤバイよね?」

「紗々音の実力を知って、それでほいほい動くとは思えない」


昨日の紗々音を思い出し、りんごは頷いた。圧倒的強さで男2人を叩きのめし、その後、アイスを食べながらりんごは紗々音に尋ねたのだ、本気だったかと。


「あんなの準備運動にもなんないよ・・・・期待したんだけど・・・・あーあ、本気出したいよねぇ」


うんざりしたような口調に頼もしさと恐怖を感じた。紗々音の強さは、多分りんごの想像のさらに数百倍は上のなのだろう。相手が実力者ならば、あの戦いで紗々音の実力を見抜いたと言う。だからこそ、慎重にならざるを得ない。


「りんごにサクラちゃん、先生、もちろん瀬音さん・・・・みんなを一旦集めて、そして反撃に出る」

「きっと大人数でくるよ?」

「助っ人も呼ぶつもり」

「助っ人?」

「最強の怪物をね・・・紗々音よりも強い怪物を」

「へぇ・・・」


紗々音より強いとはもう想像など不可能だ。とにかく、秋までに全王治を黙らせる、それが計画だ。あとは婚約者候補同士が戦うだけでいい。結果がどうなろうとも。


「秋まではどうするの?」

「瀬音さんと相談して、寝泊まりを一緒にする。敵の襲撃を受けない場所で」

「どこ?」

「石垣家の別宅」

「学校の横の?」


頷く明日斗だが、中立の立場の石垣家がそれに乗ってくるかはわからない。だが、襲撃のことを伝えれば、あるいは、そう言った母親の言葉を信じた。全員が1つの場所で暮らせば、しかも石垣の家とくれば相手も迂闊に動けまい。


「んー・・・いいけど、先輩とあっくんのイチャイチャを見せられるのはイヤだなぁ」

「ないから」

「乱交とかもちょっと抵抗あるよね。初めてはやっぱ2人きりが・・・・」


もうため息しかでない。結局はそこに行きつくのかと思う明日斗はこの話はここで切り上げ、空気を換えるためにスマホのソシャゲをしようとりんごに持ち掛けるのだった。



水面から勢いよく顔を出した紗々音はまぶしい太陽の光を顔に浴びて微笑んだ。これぞ夏だ、そういう顔に自然となる。市民プールは閉鎖寸前の人のなさだ。去年。電車で30分ほどの場所に大型プールが出来たせいだ。紗々音としては安い市民プールで涼めるのだからこちらの方がよかった。大型プールは高い上に人が多い。


「お、木戸じゃん」


プカプカ浮いていた紗々音はそう言われて顔をそっちに向け、口に水が入ってあわてて底面に足をつけた。


「なんだ大迫か」

「1人?」

「サクラと一緒」

「椎名?」


そう言われ、紗々音はトイレの方を指さした。ここにきて1時間、サクラはトイレに行ったのだ。大迫は切れ長の目を紗々音に戻した。プールから上がるその肢体を見るように。胸はあまりないが、肉付きはそこそこいい。足も腕もアスリートのような筋肉質、そこも目がいった。


「じろじろ見るな・・・・変態だと思われるよ?」

「お前のない胸を見てもしょうがない」


その瞬間、髪が風に揺れた。正確には左側頭部にピタリと添えるように置かれた足が起こした風に。ごくりと唾を飲んだ大迫はゆっくりと2歩下がった。


「大迫は1人?」


にこやかにそう言うが、雰囲気は刺々しい。そんな雰囲気が緩んだのはサクラが来たからだろう。紗々音は苦笑するサクラににっこりした笑みを見せた。大迫は大きな胸を隠すように着こまれたワンピースの水着姿のサクラを見やる。地味な印象しかないサクラだが、年頃の男子にとってその体つきは脳裏に焼き付く。出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいる。


「オオサコ!」

「あ、なに?」

「今度はマジで蹴り飛ばすよ?1人かって聞いてんの!」

「あー、いや・・・・佐藤と」

「佐藤?」


大迫が指をさした先では、大学生のアルバイトらしい監視員のお姉さんに話しかけている佐藤がいた。ため息をついたのは大迫か、紗々音か。サクラは苦笑を隠さない。


「そういや、お前の兄貴、石垣先輩と結婚するんだろ?」


大迫の言葉にサクラの表情が曇った。紗々音は腰に手を当てて佐藤を見つつ、首を横に振る。


「まだ決まったわけじゃないよ。色々あるんだよ、ああいう家とのことは、ね」

「そっか」

「それに兄貴の嫁候補はあと3人いるし、ね、サクラ?」


意味ありげにそう言われ、サクラは顔を赤くして俯いた。それを見た大迫はサクラその1人だと、彼女が紗々音の兄を好いていることを見抜いた。


「ということで、今後をお楽しみに」

「でも、じいちゃんが言ってたぞ。石垣家には変な風習があるって・・・・変な儀式も」

「そうなんだよねぇ・・・・それで困ってる」

「やっぱそうか」

「そういや・・・大迫のおじいちゃん、結構物知りだったよね?」

「ああ、昔は石垣家で働いてたし」


その言葉を聞いた紗々音はニヤリと微笑んだ。その顔を見たサクラは嫌な予感しかしない。こういう顔をする紗々音はかなり危険だと知っているからだ。


「よし、今からお前の家に行くぞ」

「え?今からって・・・俺たち、今さっき来たばっかなのに」

「知るか!行くぞ!」


そう言い、サクラの手を引いて歩き出す紗々音に困り果てる大迫だったが、苦笑しつつ頭を下げるサクラを見て変に心をときめかしてしまった。水面のきらめきがそうさせたのか、元々存在が地味だが美人だったからか。とにかく、大迫はナンパ中の佐藤をどうにか回収し、外で待つ紗々音に遅れて合流したのだった。



不意に呼び止められ、祐奈は立ち止まった。振り返った先にいるのは校長だ。当番で来ていた祐奈と違い、校長が休みの日に来るなどどういうことか。ひょっとして昨日のことがバレたのかと内心で冷や汗をかく祐奈だが、そこは大人として冷静さを保ってにこやかに微笑んだ。


「高垣先生は、木戸くんと仲が良かったね?」

「あ、はい」

「あー、いや、好いている、だったか」


そう言われても表情を変えない祐奈に苦笑する。そのまま校長室に呼ばれた祐奈は冷えた紅茶を出され、校長の正面に座った。これで解雇か、そう心の中で嘆きつつも冷静にいただきますという。


「彼は石垣の婚約者だ・・・前途は多難では?」

「ぅ・・・解雇、ですか?」

「ん?ははは、望まれるなら、そうしますよ」


校長はけらけらと笑う。どうやらその意志はないようだ。ホッとした祐奈は紅茶を口にした。程よいハーブが喉を駆け抜けた。


「全王治のことはご存知かな?」

「はい、彼から聞いています」

「全王治はね、かつて、この地を治めていたんだよ・・・・石垣家が来るまでは」

「え?」


初めて聞く話に興味がわく。校長もその表情を見て、それから紅茶を一口飲んだ。


「数百年前、全王治は裏から幕府に取り入り、この国の全てを手に入れかけた。それを阻んだのが、城之内、小野、そして、石垣だ」

「それって」

「特に石垣はその権力と財力をもって全王治を徐々に封じていったという。たった数年で全王治の持つ土地はそのほとんどを失い、この地も追われた。そして、今や没落寸前。だが、全王治の前当主が石垣にすり寄った。敵対関係を止め、従順になることを約束したのだ。全王治は石垣のために裏で働き、そして、信頼を得た。その結果、石垣瀬音の婚約者候補として全王治大刀を擁立した」


校長はそう言い、紅茶を飲みほした。祐奈もまた喉を潤すように紅茶を飲む。石垣と全王治の奇妙な関係を頭の中で整理する、が、急激な眠気が襲ってくる。薄れ行く意識の中、祐奈が見やったコップをを回収する校長は、すまない、とだけつぶやいた。倒れ込む祐奈を見れず、校長は大きなため息をついた。同時にドアが開き、屈強な男2人が祐奈を抱えて部屋を出ていく。


「手荒な真似はしないでほしい・・・・いや、しない方がいい。そういう行為を木戸は一番嫌う」


出て行った2人と入れ違いに入って来た滝澤にそう言い、校長は立ち上がった。


「それは大刀様次第です。まぁ、さすがにそこまでは・・・・無指様は知らぬこととはいえ」

「大刀の差し金か、ならば、確実に怒りを買う・・・お前らは知らなさすぎる。木戸という血筋の恐怖を」

「知識としてはありますよ・・・でも、もう『魔獣』など、過去の遺物、ただの伝説です」

「阿呆が」

「伯父さん、また、よろしく」

「これで最後と言ったはずだ」

「全王治は復活します。元々そのお役に立つのが私たち一族のはず」

「だからお前は阿呆なのだよ」


睨む校長をせせら笑い、滝澤は去っていった。仕えても捨てられる、いや、何も得るものなどないというのに、なんと愚かな。


「不出来な甥で申し訳ない」


扉に向かってそう言う校長は大きなため息をついた。


「いえいえ、これで行動しやすくなりました」


窓の外から聞こえる女性の声。校長は背中から聞こえるその声の主を見ることなく、そのままの状態で一礼をするしかなかった。


「さて、それじゃ、行きます」


去っていく足音を聞きつつ、校長はどかっとソファに座り込んだ。


「変わらんね、木戸天音さん。あんたぁ、やっぱり化け物の子だよ・・・甥を頼みます」


一人そう呟く校長はよく懐いてくれていた甥っ子の顔を思い出し、少し泣いた。

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