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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第4話
21/62

譲れないポジション 5

午後3時とはいえ、夏となればまだまだ昼間といえる明るさと暑さだった。お昼を食べてからは大きな川を横に見つつ、優雅な田舎風景を堪能しての散策を楽しんでいた。明日斗も、いつしか祐奈が先生であることを忘れてしまったかのような口調、ふるまいになっており、祐奈にしてもそこは嬉しく感じている。教師としては失格だろうけども、女としてはこんなに幸せなことはない。ただ単純に悪党から救われた、それだけで生徒に恋をした単純な女だとしても、こうしている時間はかけがえのない大切な時間だ。


「あそこが足湯」

「温泉街も近いってさっき看板があったなぁ」

「行きましょう!」


祐奈に手を引かれている明日斗がふと視線を左に向ける。この暑さの中で黒い服、スーツを着込んでいる2人の男を見て微かな笑みを浮かべて見せた。昼ご飯を食べた頃に気づいたその存在に苦笑しか出ない。どうせ全王治家の使いだろうと無視をするだけだ。何かしらの動きを見せるならばもうとっくに動いているだろうし、あの目立つ格好で早々にそれもないと思う。そんな時、明日斗のスマホがズボンのポケットの中で震える感覚が走る。歩きながらそれを取り出してみれば、そこには紗々音とりんごからのメッセージが届いているのだった。内容は似たようなものだ。


「おいおい・・・」

「どうしたの?石垣さん?」

「いや、その・・・紗々音とりんごが襲撃を受けたって」

「え?」


普通にそう言う明日斗の言葉に驚きと恐怖を前面に出した祐奈の足が止まる。だが明日斗は止まらずにそのまま祐奈の手を引いて歩きながら横目でさっきの男たちを見やった。ゆっくりとした足取りでこちらを追っているのがわかることから、向こうで何があろうと監視は止めないのだろう。


「紗々音を狙ったみたいですね・・・バカな奴ら」

「で、大丈夫なの?」


平然とする明日斗、慌てる祐奈、その対比が凄い。


「傭兵とか殺し屋、その中でもレベルの高いヤツでもない限りあいつはやられませんよ」


鼻でため息をつく明日斗を信じられないといった表情で見つめる祐奈。彼女が知る限り、紗々音は活発的ながら体つきも華奢で強そうには見えない。


「ウチが代々継いでる武術の継承者ですからね、あいつは・・・俺よりもずっと強い」

「そ、そうなの?」

「本家の血筋の継承者候補も化け物ですけど、その化け物と五分に戦える怪獣ですよ、あいつは」

「化け物、怪獣って?」

「テレビで有名な格闘家なら、あいつ、秒殺できますよ」

「え、と・・・紗々音ちゃんが?」

「俺の10倍は強いし、俺にはない闘争本能を持ってる・・・・戦闘狂ですよ」


あきれた口調は何故か、だが確かにそうなのだろうという口調だ。想像は出来ないものの、この明日斗が言うのだから本当なのだろう。


「次に狙うのはサクラちゃんか、先生・・・いや、祐奈か」

「木戸君を狙う、ってことは?」

「しないでしょう・・・・それは切羽詰まった時」

「そう・・・」


暗い顔をする祐奈に少し微笑んだ明日斗は握っている手に少しだけ力を込めた。


「今日、襲われても祐奈は守るよ・・・・逃げた方がいい場合は逃げる」

「信じてる」


強い光が瞳にあった。本心から信頼し、信用している顔だ。だから明日斗は祐奈から視線を外した。そこまで期待される人間ではないから。ああは言ったものの逃げることしか考えていない。襲撃者から、瀬音から、祐奈たちから。



「失敗?失敗だとぅ?」


椅子から立ち上がった無指はスマホを握る力を握りつぶす程の力に変えた。明日斗の妹を襲い、恐怖を植え付けろと命令した。明日斗の妹だけにそこそこは腕が立つのは分かっていたから2人をよこしたのに、失敗したとの報告だ。しかも、完全にのされたとは信じがたい。


「無傷・・・なのか?相手は無傷なのだな?」


何度確認しても同じだ。


「木戸・・・・・・・何者なんだ・・・・」


報告も途中で電話を切った無指はテーブルの上にスマホを置いて画面の消えたそれを見つめる。どんなに調査しても詳しい結果は返ってこなかった。あるのはただ平凡なサラリーマン家庭、それだけだ。だが、そうではないのだろう。女子高生、16歳の少女が腕の立つ屈強な男2人を無傷で、しかも秒殺したのだから。再度調査を意識したその時、ドアがノックされたために返事をする。入って来たのは諜報関係を任せている滝澤だ。


「ちょうど呼ぼうと思っていた・・・なにか?」

「つい先ほど、匿名でこんなメールが」


そう言い、2枚のプリントされた用紙を差し出す。無指は眉をひそめながらもそれを受け取って目に通す。読み始めのタイトルから、無指の表情は驚愕のそれに変化した。


「木戸無双流、木戸無明流に関する過去の経緯、その記録・・・・・『魔獣』『キング』『ゼロ』・・・・『ゴッド』?」


書かれている文字の中でもキーワードになろうものを口にする。


「『リジェネレイト計画』に『木戸左右千の反乱』・・・・・あの一族の正体がコレ、か?」


一通り目を通し、滝澤を見れば目で頷いている。差出人は不明、しかし、この情報は嘘ではないと信じられる。何故ならば、政府関係者の名前の他、過去の事件に関わった各分野の著名人の名前もそこにあり、どうやらプリントアウトされていない別の資料の添付もあるからだ。そこには明日斗の父方の祖父の名前もある。有名な遺伝子学者のその名が。


「ネットも多数の衛星を経由した隠密仕様・・・・差出人を割り出すのは一苦労です」

「いや、それよりもこれの裏を取れ。あの一家の真の姿をあぶり出すんだ」

「はい」

「あと、裏の手練れを3人準備してくれ・・・・あの男の関係者、残り2人を拉致する」

「それはあまりに・・・・危ないのでは?」

「もし、あの一家がこれに絡んだ系譜なら、事は早めに済ませないと政府が動く。城之内や石垣とは違い、我が一族にそこまでのコネはない」

「妹の方は?」

「やられた・・・あっけないほどに、な」


無指の冷たい言葉と視線を受けた滝澤は驚愕の表情を浮かべる。暗殺術を仕込んだ諜報部隊の裏の存在が女子高生に負けた、その事実は匿名メールの内容を真実付けているのだから。滝澤は一礼し、部屋を出て行った。無指は皮張りの椅子に身を沈めるとふぅとため息をつく。


「なるほど、あの石垣の小娘め・・・・あいつを選んだ理由はそれか」


ようやく納得できた婚約者の素性に、無指は難しい顔をしてスマホを手に取るのだった。



「木戸君はじゃぁ、弱いってこと?」


足湯を堪能しながら祐奈がそう聞いてきた。明日斗とは呼ばずにいつもの木戸君に戻っているが気にしない。


「そうですよ。俺には闘争心がない。戦おうって意志も気力もない」

「なのに婚約の儀では勝っちゃったんだ?」

「あれは・・・・・体が反応しただけ」

「反応?」

「俺、負ける気だった、負けてもいいって思った。でも、なんか、一応の場外との線は跨ぎたくなかったんだ。ちっぽけなプライドなのか、それとも、血のせいか。でも、だから咄嗟に体が反応した。母さんに言わせれば修練の賜物だって」

「修練」

「一瞬の無意識がそうさせた。いつも練習しているから、だから」


祐奈の目に映る明日斗は後悔か、安堵かわからない表情をしていた。結果として勝った、それだけのことなのに、それはこうして紗々音やりんご、サクラに祐奈への危険を意味している。


「もう一度助けてくれればいいよ・・・木戸君が」

「弱いって言ったでしょう?」

「でもきっと、君は私がまた危ない目に遭ったら助けてくれる・・・そう信じてる」


嘘のない目と言葉に明日斗は黙り込むしかなかった。けれど、きっとそうする、そうしたいと思う。無理かもしれないけれど、でも、助けたい、そう強く思うのだった。



冷たいジュースを堪能していた紗々音は夕飯の支度をしている母親に今日のことを話し終え、くつろいでいる状態にあった。なのに何故か足がせわしなく動き、どことなくそわそわしている。何度も時計を見ては小さなため息をつくこと数十回、ようやく待ちに待った瞬間が訪れた。


「ただいま」


玄関が開くと同時に聞こえたその声に反応した紗々音がリビングを出て、玄関に立つ父親に飛び込んだのはわずかな時間だ。コアラのようにしがみつく娘を支えつつドアにもたれて倒れるのをこらえた父親はぎゅっと紗々音を抱きしめてから玄関に顔を出した愛しい妻の顔を見て微笑みを浮かべた。半年のはずの出張が8か月にまで伸びたのは仕方がない。だが、それまでに色々ありすぎた事を話したい紗々音は父親にしがみついたままでリビングに運ばれていくのだった。

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