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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第4話
20/62

譲れないポジション 4

突然の邂逅ながら、両者は平然としていた。何がどうなっているのかわからないのは電柱にしがみついた状態のりんごのみである。先ほど襲ってきた者たちが婚約の儀においての明日斗の対抗馬、全王治家の遣わせた者だというのは何とか理解できたが、そこで思考は停止してしまった。そんなりんごを一瞥してから数歩前に出た閃光は倒れている者の顔を確認し、それから紗々音に向き直る。闘気は発しているが、受けているはずの紗々音は涼しい顔だ。余裕、ただそれが出ているだけ。


「あの時、君が代理人をすることを拒んだお兄さんに感謝だね」

「ここなら本気を出せるから?」


紗々音は笑みを消さずにそう言う。あそこでは殺すことは出来ないだろう。人の目もあるし、何より殺すことは禁じられている。結果、死んだ、あるいは攻撃の際の不慮の事故ならいざ知らず、立ち会う2人がそうそうそうなるとも思えなかったからだ。だがここは道端で、そういう戦い方も出来る。


「いや、恥をかかないで済んだ、あるいは死ななくてよかったから、ね」

「え、と、素直に負けを認めるの?私と戦わないで?」

「君はお兄さんより強いから、流派を継いでそれを口に出来る、違うかな?」


その閃光の言葉に頷く紗々音は手を振ってりんごを呼んだ。この男に戦う意思はない、そう判断したからだ。それに、もしもりんごを人質にしても勝てる、そう踏んだのもある。りんごは何度か紗々音と閃光とを目で往復させ、それから速足で紗々音の後ろに隠れるようにしてみせ、後ろからそっと紗々音の腕にしがみつく。


「君より弱いお兄さんに負けた俺が君に勝てるわけもない。しかも、曾祖父が木戸を名乗る者とはなるべく戦うなと言い残しているからね」

「まぁ、私はおにぃよりも強いよ。だから名を継いだ。でも、才能だけならおにぃの方が上だと思う。でも、継承者になれなかったのは、まぁ、戦ったあんたにも理由はわかるでしょ?」


ため口をたたくだけの強さは秘めている。だから閃光は何も思わない。ただ、じわりとした恐怖を感じているだけだ。見た目は小娘だ。だが、その内に秘めた魔物は竜か、それとも獰猛な猛獣か。絶対に勝てない、そう言い切れるものを感じていた。


「彼には闘争心がない。戦う決意も、戦おうという意思も」

「そう、だから私が継いだ。母さんもそれを認めてそうさせた」

「そういえば、君らのことは調べたよ・・・何故、君が木戸無双流を?あれは途絶えたはずだ」

「ああ、母さんがお爺ちゃんから名を貰うときにそう決めたらしいよ。新木戸無双流にしたいって、そんなことを言ってた」

「なるほど、女系なのかもね」

「かもね・・・まぁ、私はおにぃの忘れ物を拾って生まれてきた。才能とかは持ったまま、ね」


そう言って笑う紗々音の強さに底がないと感じる。なるほど、曾祖父が戦うことを禁じたのも納得できるほどに。


「お兄さんに闘争心が生まれたら、そしたら、継承者は変わるのかい?」

「ない。一度決めたことだし、それに、おにぃに限ってそれはない」

「できそこない、か?」

「できそこないではないでしょ、闘争心がないのにおたくを倒せるんだから。アレはなりそこないだよ」


酷い言い方だと、閃光もりんごもそう思う。だが事実だ。勝っていたはずの試合に負けたのは、修練の差。こんな化け物を相手に修練を積めば、土壇場でああいう動きが出来ても不思議ではない。


「ってことは、おたく、全王治家とは関係ないんだ?」


紗々音は状況と閃光の言葉からそう判断していた。そういう洞察力も鋭い。さすがだと思いながら頷く閃光は少し真面目な視線を紗々音に向けた。


「ああ、さすがにお役御免とはいえ、気になってね・・・っても、君をすぐに襲うとは浅はかな連中だ」

「身内を、しかもこんな可愛い妹を狙うのは常套手段だもん」


自分で自分を可愛いと言うかと思うりんごだが、それは口にしない。閃光はにこやかに微笑んでから軽く空を見上げるようにしてみせた。


「これで連中もやり方を変えてくるだろう。そっちのお嬢さんや、君の友達、そして今日、彼と一緒にいる教師を狙う、そういう方向に」

「でしょうね」

「対策済み、かい?」


紗々音の反応からそう判断したが、そうではないらしい。現に紗々音は首を横に振っている。


「何も・・・でも、手は打つよ。母さんの予想通り、まずは私を狙ってきたわけだし、まぁ、次は3人の内の誰かか、3人ともか」

「抜け目がないお母さんだね」

「あの人も木戸、だからね」


木戸の意味を知った閃光は微笑む。そしてゆっくりと息を吐いた。


「俺も力になろう」

「あれ?いいの?あっち側だったのに」

「もう切れた・・・それに気になる」

「全王治家が?それとも石垣家が?」

「両方だ」


そう言い、2人は連絡先を交換する。対策が決まれば連絡すると伝えた紗々音の言葉を受けて満足そうに微笑むと閃光は向きかけた背を止めた。


「全てが終わった時、ぜひ手合わせを願いたい、それまでにはもっと腕を磨いておく」

「いいよ。私、おたくが思っている5倍は強いけどね」

「お兄さんとも、本気でやりあってみたかった」

「無理だよ。それに継承者は私、それは譲れない」

「わかった。じゃ」


閃光は嬉しそうに笑いながら去っていく。その後ろ姿もろくに見ず、怯えた顔をしているりんごに笑顔を見せた紗々音は軽く汗を拭うとその手を引いて歩き出した。


「暑いから、もう一本アイス買おう」



普段はクール、というか、他人に無関心な風な明日斗からは想像も出来ないような表情が印象的だった。川での魚の摑み取りは童心に帰らせ、祐奈もまた大いに楽しんだのだった。そのまま冷たい川の中を歩いて日陰に向かい、2人は太陽によって暑くなった石の上に腰かけて履物を履いたのだった。冷たい川の水のせいか、汗はそうかいていない。明日斗はサンダルを履く祐奈を見つつ、やはり年齢よりも幼いという印象を強くしたのだった。心の距離感も近い、そう思う。


「さて、ではお昼にしますか」


立ち上がった祐奈は時計を確認してからそう告げる。


「少し行ったところに美味しいパスタの店があるの。リサーチ済み、任せなさい」


ここは大人の余裕か、そう言う祐奈に明日とも自然と笑みが漏れた。楽しい、そう思える。しかも素直に、だ。だからか、2人は他愛のない話をしながら歩くだけで楽しいと思う。時折指先が触れ合うが、手を繋ぐことはなかった。祐奈が奥手なこともあるが、やはりそれは人としてどうなのかと思う明日斗がいるからだ。望んだわけでもない婚約者とはいえ、今の自分の立場はそうなのだから。いっそのこと祐奈を選んでそういう関係になればとも思うものの、そんな理由で婚約が解消されるとは思えない。向こうは財力と権力を持った家柄だ。そんな理由での婚約解消などもみ消すに決まっている。それこそ、祐奈との間に子供でも出来ない限りは無理だろう。


「どうしたの?」


少し黙り込んだ明日斗の様子を気にしてか、祐奈がそう問いかけた。


「意外と、せんせ・・・祐奈となら、上手くいったのかなって」

「あら、嬉しいことを。でも、あなたがそれを口にしちゃダメでしょ。立場上、ね」


年上だからか、教師だからか、諫めるところが意外だった。


「まぁ、確かにそうなってほしいけどね。でも、難しいよね」

「でもたぶん、彼女には何かがある。隠している何か・・・俺は、それを知りたいのかもしれないから、だからそういうことも受け入れているのかも」

「もしくは石垣家に魅力を感じているか、それとも、本気で彼女を好きか」

「どっちもよくわからない、けど」

「そんな感じ。でも、それでいいんだよ、きっと。私も石垣さんには企みがあると思ってる。だからそれを知りたい気持ちもある。でも、彼女が言った側室的なポジションもいいかなって思ってる」

「おいおい・・・・」

「冗談よ、半分は、ね」

「半分って」

「素直な気持ち」


微笑む祐奈に少しときめく自分がいる。素直な気持ちを前に出す祐奈を素敵だと思っている。


「君は、君の思う通りに。そして最終的に私を選んでくれればいい」

「いい話も台無しだ」


苦笑する明日斗ににこやかに微笑む祐奈は明日斗の手を引いて赤い屋根のお店を指さす。少しだけはやめた足取りは祐奈の心を急かすかのようだ。だが、今はこれでいい。すべてはこれからなのだから、今の自分のポジションはここなのだから、そう結論付けた祐奈の胸から、すっとわだかまりが消えるのだった。



薄暗い部屋から起き上がる男は上半身裸の状態だ。すっと視線を横にやれば、全裸の瀬音がシーツにくるまって寝息を立てている。微笑む男は枕元のテーブルの上に置かれたペットボトルの水を一口含んだ。先ほど愛し合った妹は微動だにせず眠ったままだ。兄である仙人は一瞬だけ醜悪な笑みを浮かべ、それから瀬音を起こさないようにベッドから出ると少しだけカーテンを開いて鉤爪のような形状となった月を見やった。すべて計画通りことは進んでいる。婚約に関しても、瀬音の選んだ男も、全王治家もすべて予定通りに。寸分の狂いもない計画だ、当然といえば当然といえよう。あと数か月で全てが手に入る。富も力も、全てが。瀬音と2人で綿密に練った計画は初期段階を過ぎている。あとは全王治家が予定通りに行動し、明日斗ではなく周囲に圧力をかけ始める頃だろう。しかしそれらもすべて失敗に終わる。読めないのは大刀の動きだけだ。常に様子を探らせている石垣家の誇る密偵部隊、江戸時代のお庭番の血を引く者たちは闇の仕事を引き受ける石垣家の屋台骨だ。彼らの能力をもってもその動向が見えないとなれば、当主自らが動いている証拠だろう。結末を左右する存在だから動向は知りたいが、ここは慎重に動くしかない。ちらりと瀬音を見やる仙人の目はひどく冷たい。自分を見つめる瀬音のそれとは正反対だ。もっとも、それは瀬音が起きている時は合わせているが。


「利用できるものはなんでも利用する・・・家も、敵も、身内も・・・・俺が目指す覇道のために」


口にせずそう心でつぶやく仙人は月を睨むようにしてみせた。城之内だろうが木戸だろうが全王治だろうが関係はない。すべてを極めた自分に勝るものなどない。そこでふと瀬音を見やった。今回、彼女がもたらした木戸明日斗の真の素性。その系譜には少々驚いたものの、計画を変更する理由にはならなかった。所詮はただの高校生だ、そうとしか思えない。気になるのは妹の存在だが、こちらも所詮は女だ。


「木戸なんとか流だろうがなんだろうが、俺の方が強い、それだけだ」


月に向かって小さくそう言うとベッドへと戻る。瀬音に触れることなくシーツを纏うのは、眠っている妹を気遣ってのことか、あるいは妹に対する嫌悪感からか、それは本人にしかわからないことだった。

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