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明日、晴れるかな?  作者: 夏みかん
第4話
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譲れないポジション 2

自慢げに見せてきたことで、、りんごの成績が良いことは明日斗には理解できていた。全教科80点以上、それは間違いないのだろう。意外にも頑張って勉強していたのは知っている。毎朝眠そうにしていたことからも、母親からの情報でも伝わってきたからだ。これはひょっとしたらひょっとすると覚悟を決めていたが、返却されてきた期末テストの答案を見た明日斗はしかめっ面をするしかなかった。今までのテストは手を抜いていたのか、それとも何かに目覚めたのか。自分の婚約が覚醒させたとは思えるが、だからといってこれはおかしい、おかしすぎる。


「どうよ?」

「どうよって・・・・どうなってんだ?」


科目は全部で9教科ある。現代文、古文、数学Ⅰ、数学Ⅱ、化学、生物、世界史、日本史、音楽、そのうちの半分近い4教科は90点以上、そして平均点は85点だろう。つまり、全教科80点以上をクリアした上に、90点以上は4教科。デート確定の上、キスは4回だ。


「お前さ・・・不正はいかんぞ?」

「言うと思った。まぁ、アレだよね、愛の勝利だよ」

「なんの愛だよ・・・」

「あっくんへの愛。先輩に勝る愛!」


ずいと迫るりんごの頭を押し返すようにする明日斗は約束は約束だとあきらめた。もちろん、キスに関しても。なるようにしかならない、その性格はこういう面でも発揮されている。


「デートの場所は決めてんのか?」

「もちろん!」

「どこだよ?」

「東京名所巡り」

「東京、ね」


その地名にサクラとの約束を思い出し、明日斗はその日にデートを重ねるかどうかを思案する。


「一泊二日の旅だよ」

「はぁ?」


聞いてないよという顔をするが、りんごは得意げだ。そんな表情にうんざりしつつ詳細を聞けば、夏休み二日目に東京巡り一泊二日の旅を決行するという。


「ホテルは?」

「お母さんがビジネスホテルを予約してくれた」

「おばさん、何かんがえてんだか・・・おじさんは許したのか?」

「うん。未成年で子持ちにならないならいいよって」

「あー、忘れてた・・・お前の両親はそういう人だって」

「でしょ!」


娘を嫁に、それがりんごの両親の口癖だ。明日斗にはよくわからないが、木戸家はなかなかの家系らしい。母方の祖父のかつての悪名のことは知っている。その伝説も。だからといって関係などない。


「あっくんはなめてるんだよ」

「ああ、なめてた」

「そうじゃなくって、私たち、反石垣同盟をね」

「だからさ、それ、何?」

「私、サクラちゃん、高垣先生と結成したのよね」

「中身を聞いてるんだ」


メンバーが誰かなどは言われなくてもわかっている。大体、その名前からしてわからない方がおかしい。


「先輩との婚約解消、その後の寝取り」

「・・・・・・・その言葉はどっからきた?」

「とにかく、もう遠慮なんかしない!あっくんとの婚約を解消したいと言い出させるか、もしくはそうせざるを得なくなるほどあっくんを追い詰める!」

「俺が8か月後に相手に負けるって選択肢は?」

「勝っちゃうでしょ?」

「・・・・・・・・・・まぁ、な」


あれだけの相手に勝利しておいてあの婚約者候補に負けるとなれば毒を盛られたか、体調が悪いか、あるいはわざとか。そこでピンときた。


「死なない程度に毒を飲んで、負ける、か?」

「それ、相手が疑われて延期になるだけだと思う」

「・・・・・・なるほど」


りんごに返されてぐうの音も出ない。浅はかだったか、そう思う明日斗は大きなため息をつくと誰もいなくなった教室を見渡した。あと一週間で夏休み、部活も再開されて時間的には閑散とした校内になっている。ため息を再度つくと明日斗はかばんを肩にかついだ。


「先輩はもう?」

「ああ、一足早く夏休みでイギリス」

「帰国はお盆前だっけ?」

「ああ」


教室を出ながら会話をし、昇降口へ向けて階段を下りる。瀬音は時間を見て連絡すると言い残してイギリスへ、そして2日目の今日、いまだに連絡はない。久しぶりの兄妹で楽しんでいるのだろう。とはいえ、瀬音の兄についてはよく知らないのだが。


「東京、か」

「サクラちゃんとも行くんでしょ?」

「さすが同盟、よくご存じで」

「妊娠させちゃダメだからね?」

「行為はありなのかよ」

「同盟の規約的にあり」

「今度その規約をもってこい、赤ペンで採点してやる」


仏頂面の明日斗は瀬音を含めてどうも道具扱いされている気がしてならなかった。仕方がないのかもしれない状況だが、かといってこれはこれで人権を無視しているとしか思えない。


「でも、気を付けてくれ。同盟はいいけど、全王治家がどう動くともわからない」

「後がない、から?」


いつになく真剣な顔をするりんごに頷いて見せる。いまはまだ動かないだろうが、婚約を辞退させるよう動きを見せるはずだ。それに関しては母親も、瀬音も警戒を怠っていない。


「全王治って、調べたけど、今はもう没落寸前だよね?権力も財力も、いまではもうあまりないってネットでも書いてた」

「だからこそだ。なりふり構っていられないんだろう。だから石垣家の、今でも政府や財界に大きな力を持つその力が欲しいんだろうな」

「だから、先輩はあっくんを選んだ」

「なんでそうなる・・・ウチは普通の家」

「あっくんのおじいちゃん、すごい人でしょ?昔はカムイの副社長、裏の世界とも繋がりがあったんだし」

「紗々音の眉唾情報を真に受けるな」


その情報は信じていない。日本が誇る世界的自動車産業の企業、カムイ、その副社長だったのは間違いない。そしてかつて『キング』と呼ばれた裏社会のボス、さらには『ゼロ』と呼ばれた因縁浅からぬかつての分家、木戸無双流の継承者との戦いは熟知している。母親から、伯父からも聞かされている。だからといって裏の世界に権力を持っているとは思えない。明日斗の知る限り祖父は優しい、そして芯の強い人間なのだから。もしも裏の世界とつながっているのであれば、石垣家が自分を選ぶはずがない。それはいずれ彼らの敵対勢力からの絶好の弱点になるからだ。


「えー、ドラマチックなのに・・・」


もはや何度目かわからないため息をつく明日斗は靴を履き替えて校舎を出た。とにかく約束は約束だ、泊まりはどうかと思うが覚悟は決めた。もちろん、体の関係はなしで、だが。


「行きたい場所、決めてんのか?」

「浅草!お台場!スカイツリー!」

「田舎もん」

「実際ここ、田舎だし」


ほっぺを膨らませるりんごに笑みを見せ、そういうのも悪くはないかと思う明日斗は夕方でもまだまだ暑い日差しを受けて汗をぬぐうのだった。



「なるほど」


祖父からのメールは長々しい。PCのメールに送られて来たその内容は長くて当然だ。彼が調べた石垣家、全王治家の情報がびっしりと書かれていたからだ。


「さすがおじいちゃん、裏の帝王だ」


にんまりと微笑む紗々音は裏の世界にも顔が広いと睨んでそれを依頼していたのだ。可愛い孫の頼みに張りきったのか、祖父は細かい情報もくれていた。そのすべてを見てプリントアウトし、メールはすぐさま削除した。こういうところはぬかりない。


「おっと、これをどこに隠すか・・・・」


そうつぶやいてカレンダーを見れば、2日後の日付に赤丸がつけられている。それは父親が半年ぶりに帰宅する日だ。仕事柄離れて暮らすことが多いせいか、紗々音は思春期でありながら父親を嫌ってはいなかった。むしろ大好きなほどだ。


「お父さんの反応が楽しみだよ」


兄の婚約、そして今後のこと。父親の驚く顔を想像してほくそ笑む紗々音は椅子に体重をかけると再度祖父からのメールを見つめた。そこに書かれている恐るべき内容に戦慄し、そして歓喜する心を抑えながら。

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