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葵先輩の神隠し  作者: 黒崎りく
3/5

3 葵先輩を探せ


「……おい、大丈夫か」

「き、ききき木野先輩……!こ、これって……!」


 青ざめた顔でぷるぷると震えながら紙を持つ私に、木野先輩は平然と言う。


「あれだな……ダイイングメッセージ」

「違います!ていうか勝手に殺さないで下さいよ!」

「じゃあ幽霊からの――」

「だから葵先輩を勝手に殺さないで下さいってば!」


 言いながらも、もしかして、という思いもあった。

 私たちの目の前で消えた葵先輩。幻だったのだろうか。でも、あれは確かに葵先輩で、しかも二人同時に見るなんて。

 じゃあやっぱり幽霊……って、それだと葵先輩がすでに死んでいることになる。


「あ……葵先輩は生きてます!き、きっと、私たちに早く探してほしいんですよ!」


 そう思わないと、くじけそうだ。葵先輩が死んだなんて、考えたくもない。

 葵先輩が書いたであろう紙を胸ポケットに入れて、ぎゅっと押さえる。


「……木野先輩、葵先輩を探しましょう」

「は?」

「私たちで葵先輩を見つけるんです」

「お前な……それは警察がやってるし、そもそもお前にできることってないだろ」

「……」


 木野先輩の言う通りだが、でも、葵先輩の生霊(?)から『探して』と頼まれたのだ。何もしないでいることなんてできない。

 私は必死に考えて、はっと思い至る。

 

「……かのう先輩です!火曜日の放課後、葵先輩と最後に一緒にいたのは、叶先輩ですよ。聞いたら、何かわかるかもしれません」


 そうと決まれば!私は急いで、南棟にある生徒会室に向かう。その後ろから、木野先輩がやれやれといった表情で追いかけてきた。




 生徒会室には、来週の卒業式を前にして、生徒会のメンバーが忙しく準備をしていた。

 三年生はすでに自由登校なのだが、元・生徒会長で答辞を務めるかのう先輩も来ていた。入口で私が声を掛けると、「ああ、文芸部の」と思い当たったようだ。廊下に出てくる。


「そういえば、藤堂さんのこと知らないかな?昨日から休みだって聞いているんだけど」

「……」


 こちらが聞こうとしていたことを、逆に聞かれてしまった。しょっぱなから出鼻をくじかれる。

 なんでも、葵先輩は卒業式の司会をする予定だったが、急に休みとなったので他のメンバーが代役することになったらしい。


「責任感の強い藤堂さんが、誰にも連絡しないで休むなんて珍しくて……何か聞いていないかな?」

「その事なんですけれど……叶先輩、火曜日のこと、少し聞きたくて……」


 恐る恐る尋ねると、叶先輩は目を瞠った後、眉間に皺を寄せる。


「……君たちには関係ないだろう」

「か、関係ないですけどあるんです!火曜日の放課後、葵先輩と最後に一緒にいたのが、叶先輩だから……」

「だからどうしたっていうんだ?君たちが帰った後に少し話をしただけで……」

「なになに、どうしたの?」


 怪訝そうな叶先輩の後ろから、ひょこりと女子が顔を出す。

 この人も元・生徒会で副会長だった……椎名しいな先輩だ。椎名先輩は叶先輩と私たちを見比べて、首を傾げる。


「トラブル?藤堂さんのこと?」

「いや、別に……」


 どこか気まずそうに目を逸らす叶先輩。すると、椎名先輩はにやりとした笑いを見せた。


「叶、あんた、もしかしてふられたの?」

「なっ……」

「へ?」


 突然の椎名先輩の発言に、叶先輩は顔を真っ赤にし、私はぽかんとする。椎名先輩はあっけらかんと答えた。


「卒業する前に思いだけでも伝えておきたいとか何とか、相談してきたじゃん。そっかー、玉砕したのかー、ドンマイ!」

「お前な……!」


 なぜか嬉しそうな椎名先輩の励ましに、叶先輩はわなわなと震えている。

 やがて、叶先輩は怒った顔で私と木野先輩を見てきた。据わった目が怖い。


「……それで、何が聞きたいんだ?」

「あ……その、葵先輩と話した後、どうしましたか……?」

「っ……一人で帰ったよ!悪いかな!?」

「い、いいえっ、全然悪くありません!」


 どうやら、叶先輩の傷口を抉ってしまったようだ。私は「すみませんでした!」と急ぎ退散する羽目になった。

 

「……どうやら、叶先輩は何も知らないみたいだな」

「そうですね……」


 とぼとぼと文芸部の部室まで引き返す私の頭を、「ドンマイ」と木野先輩が叩く。他人事のように言わないでほしい。

 私が抗議しようとする前に「君たち!」と後ろから厳しい声を掛けられる。

 声の主は瀬尾せお先生だった。若いイケメンで女子生徒から人気があり、生徒会の顧問もしている先生だ。


「さっき、藤堂さんの話をしていただろう?」

「はい」

「……一応、校長先生から話は聞いているよ。藤堂さんのことが心配なのはよくわかる。だけど、他の生徒たちに話を吹聴するのはあまり良くないと思うんだ」


 瀬尾先生は木野先輩を咎めるように見る。


「来週は卒業式もある。変に騒ぎ立てて、何の関係もない卒業生を困らせるのもどうかと思うよ。それに、藤堂さんも大きな騒ぎになったら、帰りにくいだろう?」


 瀬尾先生の言うことも一理あるが、私は少しむっとした。葵先輩のことよりも、学校行事の方が大事なのか。

 だが、木野先輩は「そうですね、すみません」と私の頭を押さえて、一緒に頭を下げさせた。


「……まあ、わかったのならいいんだ。藤堂さんのことは、先生たちや警察に任せておきなさい」


 そう言って去ろうとする瀬尾先生に、ふと、木野先輩が「あ」と声を上げた。

 木野先輩は窓の方を見ている。中庭を通り越して、北棟……三階の端っこ。文芸部の部室があるところだ。

 木野先輩の視線を追った私は、目を見開いた。


 文芸部の部室に、一人の女生徒がいる。

 セーラー服に、長い黒髪の少女。

 葵先輩だ。

 遠目でもはっきりとわかる、その美しい顔。黒い目を細めて、桜色の唇を妖艶に歪ませた彼女は、どこか人間離れしていて。

 綺麗なのに、恐ろしく見えた。


 やがて、葵先輩らしき女生徒は、身を翻して姿を消した。私は思わず木野先輩の学ランの袖を掴む。


「今のって……まさか……」

「生霊、ってか」

 

 頭を掻く木野先輩は、同じように窓の外を呆然と見ていた瀬尾先生に声を掛ける。


「瀬尾先生。今の、見えましたか?」

「……何が?」


 瀬尾先生の頬は少し強張っているように見えた。先生は木野先輩の問いかけに答えることなく足早に去っていった。



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