第一部 「海上防衛戦シェリー」 1
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四国の土佐湾沖にその外門はあった。
ファンタジー小説に出てくるような巨大な白亜の外門はまるで神殿への入口のようにも見える。外門の高さは80メートルを優に超え、世界最大の軍艦である戦艦『大和』が通り抜けられるくらいには巨大だった。
そんな白亜の外門の先に見えるのは地球とは違った空の海だった。
地球と同じく太陽は一つだが、かなり近い位置に別の惑星があり地球側のロケットを持ち込めば到達できそうなくらいだ。ただ、その惑星は地球で言う月のようなもので誰かが住んでいるわけでなくただあるだけだった。
そんな空を持つ外門の先にあるもう一つの世界を『ヘルナペンツ』と呼んでいた。
一言で言えば異世界だ。
ヘルナペンツの全容はほとんどつかめておらずヘルナペンツで日本と唯一外交をかわしているケルハム王国にある世界地図は不明瞭な物ばかりだった。しかしケルハム王国が二本と同じ島国であることは明白だった。それ以外で違うところは日本にはフィクションとされている魔法と言う概念が常識としてあることだけだ。
魔法と言っても地球上にある書物に描かれているもので明確なものはなく、魔法を振るうための杖が必要であったり、呪文や魔方陣が必要であったりと多種多様だ。
極端に言ってしまえば日本にある御経さえも呪文の一つと言ってもいい。
厄除けのお守りや盆踊り、探してみれば魔法に近しいものはたくさんある。
ただ、ヘルナペンツの魔法はそれらとは別物だった。
もしも地球の人たちが魔法を使おうと考えればまず使い方や何が必要なのかを勉強するが、ヘルナペンツでは息をするのと同じ感覚で魔法を振るえる。
だからと言って生まれた瞬間から魔法を積極的に使役するわけではなく成長過程で魔法の勉強をする。
そのためにケルハム王国で設立されたのが『ケルハム都市装魔学校』と『ケルハム都市装魔商業学校』に『ケルハム学校』の三つだ。
中でも最大の規模を持つのが『ケルハム都市装魔学校』だ。
東京都の渋谷区と同じくらいの敷地面積を持ち全校生徒約180万人の一つの都市学園だ。
そんな都市学園の一角には海に面している場所がある。
どこまでも水平線が広がっている広大な海を目の前にした場所には巨大な港があった。それは通常の交易用の港ではない。
港にあったのはダークグレーの色に塗られた船。
金属の装甲に覆われ、地球的な設計の下に作られた曲線、船の前方と後方に備えられた巨大な砲台、さらに甲板にあるスペースに詰め込まれたように配置された小型の銃座はまさしく軍艦だった。
全長200メートルを超える巨艦は軍艦の代名詞、戦艦だ。
そんな巨艦を扱うのが学生であると聞けば地球側の全員が耳を疑うだろう。
「よし、準備は良いわね」
勇ましい軍服に身を包んだ赤い長髪をした少女は中央部の艦橋の窓際に置かれた白い海軍帽をかぶる。
同乗していた一人が頷く。
「リヴィ。ここまで全戦全敗だよ」
「わ、分かっているわよ! 今日こそ勝たせてもらうわ」