表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
考古学者は夢を見る  作者: 藤沢正文
第一章 魔女の末裔
9/66

入隊条件



 マグリットが発した言葉を皮切りに、全員が先程とは打って変わって真剣な面持ちでテュール兄さんを見つめていた。


 友人の息子で有ろうと、皆それぞれの立場があり建前があるのだろう。マグリットは村長として、トリスタンは騎士として、お父さんは農夫として、そしてテュール兄さんは農夫の息子として。


 私は邪魔をしない約束でこの場にいる事を許可されている身だ。先の遣り取りから本当であれば追い出されていても不思議ではない。



 この場で私は何者でもないのだ。



 床に着かない脚を揃え、一度座り直し姿勢を正した。


 隣に座るテュール兄さんは決意に満ちた表情で前に座るトリスタンを真っ直ぐに見つめていた。



「こちらエイぺスク騎士団のトリスタン様です。本日はフェイルス様の護衛任務で我がチェド村にお越し頂いておりました。テュールが騎士団への入隊を希望しているとお伝えしたところ、本人とお話がしたいとの申し出がありましたのでこの場を用意するに至りました。」



 一番始めに口を開いたのはマグリットだった。先程の会話から考えられないくらい丁寧にトリスタンを紹介していた。


 うむと頷くと、トリスタンはゆっくりと話し始めた。



「現在エイぺスクの騎士団では人材不足が深刻になっている。これはエイぺスク領だけに留まらず、王国中の全ての領地でも同様に問題となっている。我々としては優秀な人材であるのならば即戦力として今直ぐにでも騎士団に入隊して貰いたいくらいである」



 トリスタンがそう述べると、テュール兄さんの顔が少し緩み。私もホッと胸を撫で下ろした。


 その一瞬の隙をトリスタンは見逃さなかった。



「しかし、騎士団に入隊出来る人材には条件がある。この条件がクリア出来なければ、どれだけ優秀な人材であっても街の門兵にしか成れない。況してや農民が騎士になったなどと言う話は私も聞いたことがない」



 まるで掌を返す様にそう言ったトリスタンはお父さんの方にチラリと視線を送った。もう既に入隊に関する面接は始まっているのだ、父親であるお父さんに口を挟まないようにトリスタンは合図したのだろう。勿論お父さんもその事は理解しているようで我関せずっと言わんばかりに固く唇を結んでいる。



 人材不足であれば誰でも入隊させて上げればいいのに……



 私はそう思ったのだが、そうもいかない様だった。騎士や士官は貴族の中でも条件を満たした人材がなる職業で、農民からおいそれと成れる職業ではないらしい。



 これは遠回しに諦めろと言う事ではないだろうか?



 貴族の中でも条件を満たしていなければ成れない、農民如きにに出来る訳がないだろう。況してや、人材不足に漬け込んで入隊しようと考えている馬鹿者など以ての外。



 トリスタンの言葉にはそう言った意味が込められていたのだろう。その言葉にお父さんの眉がピクリと動いていた。



「という事は条件をクリア出来れば農民である私も入隊出来るかもしれないという事ですね?」



 何かを考える様にずっと黙っていたテュール兄さんが口を開いた。


 テュール兄さんの言葉にトリスタンは、ほおといった顔で兄さんを凝視していた。



「君は騎士の入隊条件を知っていると言うのかね?」


「村長にその条件はお聞きしています」



 テュール兄さんの言葉にお父さんはマグリットを凄い剣幕で睨んだ。一方、マグリットはニヤニヤと笑みを浮かべている。

 その態度からお父さんも『条件』を知っているらしい事が見受けられる。



「では、見せて貰おうか」



 トリスタンがそう述べると、その場の空気が一瞬変わったように感じた。しかし、マグリットは相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべ、お父さんは目を瞑って腕を組んでいる。一方で、ガラハッドは剣に手を添えてテュール兄さんを凝視していた。



 え、今から何をするつもりなんだろう……



 これから何を行うのか『条件』が何なのか知らされていない私はキョロキョロと辺りを見回していた。


 すると突然、隣にいた筈のテュール兄さんの『気配』が消え、そこに居なくなっていた。


 私は慌てて兄さんの姿を探すと、いつの間にかテュール兄さんはガラハッドの隣に立っていのだ。



 え!? 何が起こったの?



「隠密((スニーク))か……」



 トリスタンは小さく呟き、少しの沈黙の後



「合格だ」



 トリスタンは短くそう述べた。その言葉を聞いたテュール兄さんはホッと胸をなで下ろしていた。



「テュール、領主様と騎士団長には私から進言しておく。今回は『条件』を満たしただけであって正式に騎士になれるかどうかは、領主様の判断になる。それまでの間は街の訓練所で訓練してもらうことになる。詳しくはガラハッドに聞いてくれ」



 そう述べるとトリスタンはティーカップに手を伸ばし紅茶を啜った。


 しかし、私は未だに状況が掴めず、トリスタンと兄さんを交互に視線を送って何とか状況を理解しようと試みていた。



「ありがとうございました」



 テュール兄さんはトリスタンにお礼の言葉を述べると、ガラハッドと何やら話し始めた。今後の確認を始めたのだろう。


 そしてトリスタンとマグリットも世間話を話し始めた。私が何も掴めないまま、テュール兄さんの面接は終わってしまった。



「お父さん、『スニーク』って何?」



 どうしても、騎士になる条件が気になった私はお父さんにトリスタンが言った事を訊ねてみた。がしかし、私が発した言葉にその場の空気が凍った。



「俺は知らん。見てなかったからな」



 お父さんは私の質問に愛想なくそう答えた。しかしそんな事で私は引き下がらない。



「じゃあ騎士に成る為の『条件』って何?」


「ユティーナ、その事は秘密なんだよ。もし知ってしまったらトリスタンやガラハッドは君やお父さんを捕まえなければならなくなる」



 私がお父さんに食い下がっていると、その遣り取りを正面で聞いていたマグリットが慌てて話に割り込んでてきた。


 マグリットによるとテュール兄さんは特例で『条件』を知る事が出来たのだが、普通の人がこの事を知っていると投獄され口外する可能性がある場合処刑されるらしい。

 そして今日の事は他言無用と念を押されてた。



 私が納得できないと言わんばかりに顔を顰めていると



「ユティーナはマグリットに聞きにたい事があったんじゃなかったか?」



 思い出したようにお父さんは私を諭した。というよりも誘導した。



 そうだった!



 私はポンと手を打って、マグリットの方を向いた。マグリットもホッとした様子で私を眺めながらニッコリと微笑んでくれた。



「村長さん、私に昔話を教えてほしいの」



 マグリットは顎を撫でながら少し考えた後



「どんな昔話がいいのかな?僕と君のお父さんとトリスタンの昔話?」



 マグリットは冗談っぽくそういったが、お父さんは驚くぐらい慌てた様子で飲んでいた紅茶で噎せていた。


 その問いに私は首を横に振った。



「村の外れの森にある『大きな石』についてのお話がいい。あ、あと王様と喧嘩した『魔女』のお話しとか……」



 ああ、あの石かとマグリットは理解してくれたようだったが、隣で紅茶を嗜んでいたトリスタンは違った様だ。



「なぜユティーナが『魔女』の事を知っているんだ?」



 トリスタンはティーカップを乱暴に置くと、片眉を上げながら私に訪ねてきた。



「さっきの会議が終わってから村の人が『唸り声は魔女の仕業かもしれない』って言って……」


「どういう事だトゥレイユ!」



 私の言葉を最後まで聞かず、トリスタンはお父さんを問い詰めるように怒鳴った。


 突然の事にビックリして、私は思わずお父さんの腕を掴んだ。周りもテュール兄さんたちも何事かとこちらの様子を伺っている。



「取り乱してすまなかった」



 そう言うと、トリスタンは姿勢を正し椅子に座り直した。



「それはないと思う」



 お父さんは短くそう述べると、トリスタンは「そうか」と納得した様子で再びティーカップに手を伸ばした。



「あの『石』はね、大昔の魔女が起こした戦争で飛んできた石なんだよ」



 マグリットは優しくそう言って、話を続けてくれた。



今回は短めです。許してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ