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考古学者は夢を見る  作者: 藤沢正文
第一章 魔女の末裔
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賢者と魔女



 大昔、神様から大いなる力を授かった七人の賢者がいました。


 賢者達はその力を使い、世界を陰ながら支えていました。


 ある日、一人の賢者が世界の崩壊を予言します。


 賢者達は色々な方法で崩壊を防ごうと頑張りました。


 しかし世界の崩壊を防ぐ事は出来ませんでした。


 世界が崩壊した後、賢者達は世界を元に戻す為に散り散りになりました。



 世界を元に戻す途中で賢者達は死んでしまいましたが、賢者の力を継いだ弟子達がその後も世界を支えていました。


 賢者達よりも力が弱かった弟子達は、世界を支える為に全員で助け合おう、その為に一つの国を創ろうと考えました。


 そしてその国では、予言が出来る弟子を王様、他の弟子を各地の領主とすることにしました。


 しかしそれを良しとしなかった一部の弟子達は反乱を起こしました。


 反乱を起こした弟子達を『魔女』と言って区別し、王様と領主達はやっとの思いで魔女を全員倒しました。


 そして世界に平和が訪れました。




 時折紅茶を啜りながら、マグリットは私にわかりやすい様にこの世界の成り立ちについての昔話を話してくれた。


 いわゆるそれは『神話』や『伝説』といった類の物語だった。



「どうだいユティーナ、お気に召してくれたかな?」


「うん。ありがとう村長さん」



 私は満面の笑みを浮かべお礼を述べると、マグリットも微笑み返してくれた。



「気になった事があるんだけど、聞いてもいいですか?」



 私はマグリットが話をしている間、行儀よく座って話を聞いていた。しかし、どうしても気になった事があったので、私は手を上げてそう述べた。勿論、マグリットは快く頷いてくれて、私は話を続けた。



「王様は魔女を全員倒したのに、何で会議で『魔女』の仕業って言っていたの?」



 私の質問にマグリットは、うっと一瞬言葉に詰まった。そしてチラリとお父さんに視線を送った後、一呼吸置いてから私の質問に答えてくれた。



「王様に反抗した弟子達は悪い奴と言う意味を込めて『魔女』って呼ばれていたんだ。だから今でも悪い事をする人たちを『魔女』って呼ぶこともあるんだよ」



 そう私に答えてくれたマグリットは何故か疲れた様子で溜息を吐いて長椅子に体を預けた。



 成る程、単純に犯罪者の事をここでは『魔女』と呼ぶことがあるのか。



 マグリットの話を聞き終わった後、私はマグリットの話を整理しようと顎に手を当てて思考を巡らせていた。そんな私の姿を見たマグリットは微笑みながら呟いた。



「ユティーナは偉いね。知りたいことの為にわざわざ僕のところまで来て、話を聞いている間もちゃんと黙って椅子に座っていて。娘のサラにも見せてやりたいよ」



 自分の娘を褒められて嬉しかったのか、お父さんは満更でも無い様な顔をしている。そんなお父さんの様子を見ていたトリスタンは、はぁと深い溜息をつきながら眉間を指で押さえていた。


 マグリットは思い出したかのように手を叩くと、お父さんと顔を近づけて何やら内緒話をし始めた。


 手持ち無沙汰になった私は、何気なく出されていたティーカップに手に取った。ティーカップを口元に寄せると、芳醇な香りが鼻腔を刺激する。私はゆっくりと紅茶を啜った。



 美味しい!



 普段、水か白湯しか飲んでいないので、良し悪しはわからないが紅茶がこんなにも美味しい物とは知らなかった。少し味が苦いけれども、それを差し引いても十分に美味しいと思った。

 初めて飲む紅茶に私が感動していると正面から声を掛けられた。



「紅茶は初めてか?」


「……はい。ちょっと苦いけど、とっても美味しいです」



 顔を上げると、トリスタンが紅茶を嗜みながら私に視線を送っていた。兄さんとの遣り取りやお父さんに怒鳴っていたので恐い人なのかと思って、私は少し控えめにそう答えた。



「ここの紅茶は本当に美味い。初めての紅茶がこれでよかったな」



 トリスタンは一瞬だけ微笑し、紅茶を啜った。



「そういえば、今回の『報告』が気になったから聞かせてくれないか?」



 トリスタンはティーカップをそっと置くと、思い出したかの様にマグリットにそう述べた。



 お父さんとの話がひと段落したのだろう。マグリットはああと体を戻すと今日の会議の報告とその報告で気になった点を述べていた。


 マグリットが気になったと言う報告は、3つ。夜に何処からか唸り声が聞こえて来る、湧き水が枯れる場所が増えている、森の動物達が居なくなる、だ。


 どれも今までなかった事らしい、それだけにこの3つの報告は慎重に調べるつもりらしい。



 音、地下水脈、動物……あ、わかった!



 私がポンと手を打つを、三人は同時に私を見つめた。



「どうかしたか、ユティーナ?」



 私の仕草にお父さんは少し疑った様な視線で声を掛けてきた。


 まるで、また何かするつもりか?と言いたげな目である。



「えっと、村長さん。多分、近々『地滑り』が起こると思います。唸り声が聞こえると言った周辺の人たちを避難させた方がいいです」



 私の言葉に、全員が目を丸くしている。何か可笑しい事でも言ったのだろうか、私は全員の視線に首を傾げた。



「何故避難する必要がある?そもそも『ジスベリ』とは何だ、何でそんな事がわかる」



 トリスタンは前のめりになりながら私を捲し立てた。トリスタンの事をやっぱり恐い人だと私は心の中で呟いた。



 何故、『唸り声』が聞こえるのか。


 何故、湧き水が枯れたのか。


 何故、動物がいなくなったのか。


 そして、これから何が起こるのか。私はそれらの事を一つ一つ丁寧に説明した。



 『地滑り』とは、その言葉通り斜面にある地面が『滑る』事を言う。そのメカニズムは目に見えない程の微小な変動から始まり、徐々にその変動が加速し最終的には目に見える程の変動、『地滑り』になる。



 「微小な変動の段階で斜面内部の岩が砕けたり、木の根が切れたりする『音』が報告にあった『唸り声』の正体です」



 斜面が微動する事によって、地下水脈の流れに変化が生じる為、湧き水が枯れたり、水が濁ったりする。動物に関しては彼等は森の変化に敏感であり、『地滑り』が起こる事をいち早く感知して一時的に周辺の森から避難しているのだろう。


 そして最後に一刻を争うという事を伝えた。



「なんだって!? 『山が動く』だと!?」



 私の説明に驚いたトリスタンは大声を上げて立ち上がった。『山が動く』とは大袈裟だが間違ってはいない。



「確かに、ユティーナの言っている事が正しければ、全て報告が合致する」



 マグリットも私の説明で、3つの報告が1つの事柄に関連して起こっているという事に納得した様子だった。



「それは防ぐ事はできないのか?」



 神妙な面持ちでマグリットは私に訊ねた。



「無理だと思います」



 私がそう答えるとにマグリットはこめかみに掌を当て、目を瞑り何やら考え始めた。私はその様子を黙って見守っていた。そして暫くの沈黙の後、突然マグリットが口を開いた。



「エイペスクに緊急の出動要請を出した。間もなく騎士が到着すると思う、トリスタンは彼らと一緒に村人の避難をお願いできるか?」


「ああ、それでは行ってくる」



 マグリットの要請にトリスタンが頷くとほぼ同時に、ドアをノックする音が聞こえた。


 トリスタンが立ち上がりドアを開けると、そこには数人の騎士が立っていた。



 え? 何が起こったの?



 そしてトリスタンはガラハッドを連れて颯爽と部屋から出て行った。


 詳しい事情を知らないテュール兄さんは、此方に戻ってきて私の隣に座り直した。



「どうかしたのかい?」



 不思議そうにその場を見回すテュール兄さんとは裏腹に、マグリットとお父さんは眉間に皺を寄せて何やら考え込んでいる様だった。



「どうするトゥレイユ?」



 マグリットの問いに、お父さんは静かに口を開いた。



「ユティーナ、今回の一件は秘密にするんだ。今日あった事は誰にも話すな。『地滑り』の件もマグリットが機転を利かせて要請を出した事にする。わかったか?」


「うん。わかった」



 何故そんな事をする必要があるのだろうと疑問に思ったが、こんなに険しい表情のお父さんを見た事がなかった。とても大変な事が起こっているに違いないと納得して、頷いた。


 その後も、お父さんとマグリットとテュール兄さんは今日の一件についての様々な事を話し合っていた。





 ゴゴゴゴ……



 凄まじい地響きと共に地面が少しだけ揺れた。突然の事に私はお父さんの腕にしがみついた。


 揺れが収まった後、その場にいた全員がすぐさま館の外に飛び出した。私はお父さんに担がれて外に向かった。


 館の外に出ると、音と揺れに驚いたのだろう、他の村人も家から出てきているようだった。館の前の広場では騎士達が避難させたであろう村人達を集め点呼を取っていた。


 空を見上げると私たちの家とは反対側の方から土埃が上がっている。間一髪だったようだ。



「村人は全員避難できている。今回の出動要請の詳しい話を聞かせて貰えるかな?」



 トリスタンがやってきて、余所余所しくマグリットにそう述べると私の方に目線を向けた。



「わかりました。詳しい話は私の執務室でお話し致します。避難した村人は館の離れへお連れして下さい。他の方々には後日説明致しますので、本日はお引き取り願います。」



 マグリットはそう言って一瞬お父さんの方に視線を送った後、騎士達を連れて館へ戻って行った。



 「帰るぞ」



 お父さんはテュール兄さんと私に声を掛けた。他の村人と同様に、私達も家に帰る様だ。


 来る時には高く昇っていた太陽も大分と傾いて、そろそろ夕暮れであった。



これからユティーナはどうなるのでしょう?これからも頑張って書きます。

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