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海を超えて遥々やってきた数々の香辛料たち




「よくぞこの氷の宮殿に参られました、勇者よ」




 全てが氷で作られた大広間の王座で、透けるような肌をさらけ出した美女が妖艶にほほ笑む。

 だがその下半身は、にょろにょろの蛇身がとぐろを巻いていた。




「貴様が魔王四天王の一人『氷結のレミリア』か」

「存じ上げて頂き、光栄ですわ」

「氷の魔女の悪名は知らない奴はこの国にはいない。お前が魔術で海を凍らせたせいで、どれほど迷惑しているか知っているのか?」

「あら、涼しくしてさしあげましたのに、悪く言われるのは心外ですわ」

「だまれ魔女! 今日こそ海を解放してもらうぞ!」

「あらあら、血気盛んなことですこと。でも貴方の剣は果たしてわたくしに届くかしら?」

「それなら、今すぐ教えてやる――――なにっ?!」




 王座に詰め寄ろうとした勇者は、自分の足が全く動かない事実に気付き驚きの声を上げる。

 よく見てみれば、ブーツが床に凍り付いて取れなくなっていった。




「これは、いつの間に?!」

「ふふふ、長々とお話してる間にね」

「く、卑劣な真似を」

「さあ楽しいおしゃべりの時間はお仕舞よ」



 チロリと二又に割れた舌先を蠢かすレミリアの周囲に、巨大な氷柱たちが浮かび上がる。

 すいっと伸ばした美女の手の動きに合わせるように、そのうちの一本が空を裂き動けない勇者へ襲い掛かる。




「『シナモン・カルダモン』!!」




 轟音と派手に砕けた氷柱の飛沫が収まったあとに浮び上ったのは、とっさに靴を脱ぎ捨て宙にのがれた勇者の姿であった。




「あらやるじゃない。それがゴウガンを倒したっていう飛行呪文ね」

「壁や床に触れなければ、凍らすことも出来まい」

「そうなら良かったのにね」

「なんだと?!」



 空中に浮かんでいた勇者は、自らの身体に纏わりつく氷の結晶に気付き驚きの声を上げる。



「わたくしの冷気は空気さえも凍らせるのよ」

「くっ! そんな……ば……か…………な」

「貴方がこの部屋に入った時点で、もう負けは決定してたの。残念だったわね」



 驚きと口惜しさを顔に張り付けたまま氷の彫像と化した男に、王座を降りたレミリアが優雅に下半身をくねらせて近づく。



「貴方、なかなかの男前ね。もっとイイ表情で凍らせたら良かったかしら」



 しげしげと氷漬けの勇者を眺める氷の魔女の耳に小さな音が響く。

 思わず音の行方を探したレミリアは、それが目の前の氷像から発せられたことに気付き驚きの声を上げた。


 

「流石は勇者と呼ばれるだけの事はあるわね。その状態になっても生きている男は初めて見たわ」

「……ま……だだ……まだ……」

「まだ? 何がまだなのかしら?」 

「ま……だ、お……れの記憶は……まだ戻ってない……それ……に」

「そっそれに?」

「もう塩味ばっかりで飽きたんだよぉぉぉおお!!!!」



 氷の中から放たれた勇者の叫びに、レミリアは思わず後ずさりする。



「そんな、その氷は如何なる熱でも溶かすことのできない永劫の吹雪エターナルブリザード。いかに勇者と言えど――――」

「我が魂の熾火よ、今こそ燃え上がりこの身を縛る鎖をすべて焼き尽くせ! 『パプリカ・ハラペーニョ』!!」



 勇者を縛る氷の戒めが瞬時に蒸発する。

 全身に炎をまとい天井や壁を溶かしながら迫ってくる男の姿に、レミリアは狼狽したまま叫ぶ。



「それは禁断の炎上化身の秘術! まさかそれほどの力を……」



 氷の魔女の言葉は、最後まで発せられることは無かった。

 その日、王国の北を支配していた氷の魔宮は蒸気と化して消滅した。





  ▲▽▲▽▲




「いってらっしゃーい」

「道中、気を付けてー」

「無事に戻って来いよー」




 進水式を無事済ませたた巨大な帆船に向けて、港に集まった人々が口々に歓声と応援の言葉を上げる。

 その希望号と名づけられた船の甲板では、二人の男が別れの挨拶を交わしているところであった。



「船長、海の魔物はまだ残っている可能性がある。くれぐれも無茶はしないでくれ」

「ああ、十分承知してるさ。だが見ろよ、勇者」



 船長と呼ばれた男が、船首の先に広がる海原を得意げに指差す。

 そこに見えたのは水平線を埋め尽くすであろうほどの、海の民マーメイドの群れであった。



「お前さんが海を解放してくれたお蔭で、感謝を示すために集まってきているんだ。海の民マーメイドの加護があれば、どんな荒れた海でも大丈夫さ」

「そうか、それなら安心だな」

「おいおい、これはお前さんが成し遂げたことだぜ。もっと胸を張って手柄を誇るべきだろ」

「いや結果的にそうなっただけで、俺は別に彼らを救おうと思ってやったわけじゃない」

「やれやれ、全くお前さんは相変わらず謙虚だな」


 

 船長は大袈裟に肩を竦めて、これ見よがしなため息を付いてみせる。 

 そして真面目な顔に戻ると、勇者の肩を軽く叩く。

 


「勇者よ、待っててくれ。すぐに人や武器や食料を一杯運んで、以前と同じ賑やかな国に戻してみせるよ」

「それなんだが、少し頼まれてくれないか? 船長」

「大恩ある勇者のお願いだ。どんなモノだって手に入れてみせるぜ」

「メモに書いておいたが、この植物とこの種子を――」

「ああ、お前ってやつはなんて男だよ」



 メモを見て突然、男泣きを始めた船長に勇者はたじろいだ視線を向ける。



「コレは全部、薬草じゃないか! 魔族との戦いで薬が不足してるのを案じてくれたのか」

「えっ? いやそうじゃ――」

「判ってる判ってる。みなまで言うな。…………お前は本当に謙虚な勇者様だな」




 永らく氷に閉ざされていた海路が開けたことにより、王国の貿易は急激に発展していく。

 海の民の祝福と加護を受ける王国の船は、いかなる嵐でも決して沈まないことで有名となり、やがては海上運輸の世界で大きな割合を占めることとなった。

 また勇者の依頼によって各国から集められた薬草で、王国の兵士たちの生還率が非常に高まることとなる。

 さらにではあるが王国の食卓の味付けも、薬草として持ち帰られた香辛料で劇的な変化を見せたことも付け加えておく。







 そして愛するモノを探し求める勇者は、さらなる記憶の断片メモリーピースを取り戻すため、新たな戦いへとその身を投じる。




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