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土小人族の丹精こもったジャガイモと人参



「こ、ここは?」



 男はスプーンを手にしたまま呆然とした声を上げた。

 たしか行きつけの近所の食堂で、お昼の特製ランチ大盛りスペシャルカレー税込800円を食べようとしていた筈。

 だが今は見知らぬ部屋で、見知らぬ人たちに取り囲まれている。



「おお、見事召喚成功じゃ! でかしたぞ大神官!」

「ハッ」

「さあこの男が混乱しておるうちに、『愛するモノの記憶を封印する代わりに強大な魔力と魔法を得る呪文』をかけるのじゃ!」

「ハッ」

「待ってください! お父様」

「何じゃ? 姫よ」

「やはりこんなやり方は間違ってます! 私たちの都合に無関係な方を無理やり巻き込むなんて!」

「だが、あやつら魔族の侵攻を喰い止める術は、もはやこれしか残されておらんのじゃ」

「でも!」

「我ら王族は民を守るためには、情なぞ全て捨てなければならぬ! 許してくれとは請わん。だが事が終わった暁に、わしはこやつに全てを譲り渡す覚悟は出来ておる。大神官よ、始めてくれ!」

「ハッ」

「……お父様」



 理解を越えた状況に戸惑っていた男の足元で、光線で描かれた六芒星の模様がハートマークに姿を変える。



「これは前へ進むために生まれ変わる儀式イニシエーション、あの日言えなかった言葉をしまい込むのは記憶の奥底メモリーボックス、忘却の彼方から新たな出会いを引き出さん! 『ロストラブ』!!」




 大神官と呼ばれた老人の言葉と共に、男の足元のハートマークに亀裂が入りその形を失っていく。

 同時に耐えがたい喪失感と、それを埋めるように流れ込んでくる未知の何かが男の脳内をかき乱す。




「うわああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」




 ハートマークの魔法陣が全て消え失せた時、先程までの昼飯を食い損ねた哀れな男の姿も消え失せていた。

 代わりにそこに居たのは、愛するモノの記憶と引き換えに強大な力を得た哀しみの男、救国の勇者の姿であった。




  △▼△▼△




「よくぞ来てくれたな、この地下迷宮の最深層に。褒めてやろう、勇者よ」





 不気味なしわがれ声が、地の底に作られた巨大な洞に響き渡る。




「ワシの名はゴウガン、魔王四天王の一人『地滑りのゴウガン』とはワシのことじゃ」

「貴様の噂は聞いている。卑劣な手を好むジジイだとな」

「カッカッカ、勇者の耳にまで届いておったか。その通り、ワシは仕掛けた罠にハマった間抜けな奴らを見るのが大好物でのぅ」

「そんな戯れ言も今日で終わりだ、ゴウガン! お前が罠作りの為に捉えた土小人ノーム族を、開放して貰うぞ!」



 勇者の宣言に広間奥の王座に腰掛けたまま、老ゴブリンはほとんど歯が抜け落ちた口を大きく開いてさらに笑ってみせた。



「カッカッカ、血気盛んな若者よのぅ。だがワシの元まで辿り着けるかのぅ」



 ゴウガンが指を鳴らすと、勇者の入ってきた洞穴が突如として崩れ落ちる。

 退路を絶たれた勇者だが、その顔にはふてぶてしい笑みを浮かべたままだ。



「ふ、元より逃げる気などさらさらない。さあ覚悟を決めろ!」



 と勇んで一歩踏み出した勇者は、真上からの気配を察し慌てて前に転がる。

 直後に大人の身の丈近い鍾乳石が落ちてきて、さっきまで勇者が居た床に突き刺さった。




「流石、卑劣なぁぁぁぁあああ」  




 セリフ途中の勇者目掛けて、新たな鍾乳石が続けざまに落ちてくる。

 間一髪で横っ飛びに躱したが、そこに奈落へ通じるような落とし穴がいきなり口を開ける。

 穴の縁ギリギリで踏ん張る勇者。

 だが止めとばかりに、足下から槍が突き出てくる。

 しかし流石は勇者。

 蛸並みの体の柔らかさで、華麗に上体を反らし槍を切り抜ける。




「……油断も隙もない。伊達に懦弱なゴブリンの身で四天王まで上り詰めただけのことはあるな」




 王座から一歩も動こうとしない四天王に向かって、ブリッジ姿勢のまま勇者が言い放つ。

 その言葉に老ゴブリンは、再び笑い声を上げた。



「カッカッカ。もっとワシを楽しませてくれ、勇者よ」

「ちょっとその前に一つ訊きたい」

「なんじゃ?」

「来た時から気になっていたんだが、何で王座の上で膝抱えてるんだ?」

「ああこれはな、うっかり床に足をつけると罠が発動するからじゃ」

「…………」

「…………」

「もしかして、この部屋一面罠だらけなのか?」

「勿論じゃ」

「お前はどうやって出入りしてるんだ?」

「ふっ…………ワシがここに座ってかれこれ一ヶ月になるかのぅ」

「アホか!」

「だから、よくぞ来てくれたと挨拶したのじゃ」

「なるほどって、これどうしたら良いんだよ!」

「それなら、ワシを倒せば王座の後ろにある扉が開くようになっとるぞ」

「…………お前を倒す以外に開かないってオチなんだな?」

「その通りじゃ。ワシが死ねば出れるが死んだらワシは出れん。なんとも滑稽過ぎて笑いが止まらんわ、カッカッカ」

「…………大変だったんだな、じいさん。よし今楽にしてやるぜ」



 ブリッジ体勢のまま勇者は剣を抜き、その身体に秘められた魔力を開放する。

 

 

「清冽なる風よ、我が身を高く掲げよ! 今こそ来たれ薫風の息吹『シナモン・カルダモン』!!」



 呪文とともに勇者の体が軽々と宙に浮かび上がる。

 豊かに香る風の祝福を全身に受けながら、勇者は軽々と空中を飛翔し一気に王座に迫る。



「それはまさか失われし飛行の呪文!」


 

 大きく口を開けて驚きの声を発するゴウガンに、凄まじい勢いで飛来した勇者がぶつかる。



「み……見事じゃ、勇者よ…………」



 王座に勇者の剣で縫い付けられたゴウガンが、賞賛の声を上げながら絶命する。

 満足げな笑みを浮かべた魔族の死に様を見届けたあと、勇者は王座の背後に開いた扉をくぐった。





   ▲▽▲▽▲





「まさか勇者様かい? みんな、勇者様が助けに来てくださったぞ」

「なんだって! 本当かい?」

「おおっ勇者様だ。勇者様があのゴウガンを倒してくれたぞ」

「やった! やっと故郷に帰れるぞ!」



 ゴウガンの地下迷宮の奥底には、土小人ノームの一族が囚われていた。

 ノームたちは土石の加工の秘法に通じており、それ故ゴウガンの迷宮作りの為に連れてこられた哀れな犠牲者であった。 




「有難うございます、救国の勇者よ」




 看守のゴブリンをあっさり打ちのめし全ての檻を開放した勇者に、小人たちの中でも一際気品に溢れた女性が声を掛けてくる。

 



「貴方は?」

「我の名はドナ・ラ・グノーシス。ノーム一族を統べるグノーシス家の最後の一人です」

「そうですか、それでは貴方が名高き『叡智の女王』ですね」



 勇者の問い掛けに、ノームの女性は静かに頷いた。



「我ら一族をお救いになられた御恩に報いる心ばかりのお礼です。どうぞお受取り下さい」



 後ろに控えていた土小人の家臣たちが、勇者に真っ黒でスタイリッシュな鎧を恭しく差し出す。



「ノーム族に伝わる秘宝『大地の鎧』です。あらゆる攻撃を一度は無効化できる秘術が込められております」



 だが勇者は無言で首を横に振った。



「残念ながら俺が欲しいのは、それではありません」

「そうなのですか。それでは我らが秘匿しておりました金銀の山を差し出しましょう」

「それも俺には必要ありません」

「それでは勇者様の望みの品は何でございましょうか?」

「俺がほしいのは貴方の知恵なのです。叡智の女王」

「どういうことでしょう?」

「あなた方はかつて地の底で、多くの植物を育てていたと聞きます。それらを再び栽培して欲しいのです」

「それだけで良いのですか?」

「それだけが俺の願いです」



 しばしの沈黙の後、女王はゆっくりと頭を垂れた。



「…………今、地上では魔族の侵攻で大地が荒れ果て、作物が満足に取れなくなったと聞いております。飢えた人々を真っ先に案じる貴方の優しさに、我は胸が打たれました。そしてその無償の振る舞いに褒美を授けようなどと、我が心の浅ましさを恥じるばかりです」

「頭をお上げ下さい、女王。私はただあなた方の作った野菜が食べたかっただけなのです」

「なんと謙虚な方なのでしょう。貴方こそが真の勇者と呼ぶにふさわしい」



 この日を持って、土小人の一族と人族の間に消えない友情が永久に結ばれることとなった。

 勇者の願いに感銘を受けたノーム族の女王ドナ・ラ・グノーシスは、終生に渡り人族への技術協力に尽力した。

 これにより優れた鍛造技術が王国に伝わり、技術的に劣っていた魔族との抗争は拮抗状態を迎える。  

 さらに様々な植物の栽培で、ジャガイモやニンジンが一気に広まり王国の厳しかった食糧事情は劇的に改善されることとなった。





 そして異界から召喚されし勇者は、その足取りを止めることなく新たな困難へ旅立つ。




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