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僕らは夜と朝の間に  作者: 小泉阿難
9/12

閑話:アラタのつぶやき

アラタの視点で、アオとゆかいな仲間達をサクッとご紹介。

 その朝、葵はなんだかちょっと変だった。

 それでも通学中には俺の奇襲を華麗にかわすし、俺のデレへのドライな対応も普段通りなんだが、どうにも心ここにあらずというか、俺の冷遇にも今ひとつキレがないというか・・

 まあいい。どんな悩みがあったとしても、それを葵が俺に相談なんて、ライダーが魔法少女に助っ人を頼むくらいあり得ない事だ。ただ、いつものように周りにまとわりついていれば、なんか出来る事も見つかるかもしれない。葵の憂いっちゃあ、俺の最優先懸案事項だ。


 そんなこんなで、葵のクラスまでゾロゾロと連なる俺とフクダ。


「お前さー、そろそろ課題くらい自分でやれよ。中間どうだったんだよ」

「ですよねー。」


 アオがぶつぶつ言いながらも英語のワークを鞄から引っ張り出す。

 説教的なコメントは右から左に聞き流しつつ、ありがたく押し頂く俺。


「・・しょうがないな。あとで売店な」

 やれやれという擬音が聞こえてきそうな様子のアオ。


 と、うやうやしく受取った冊子が、さっと後ろから奪われた。

「おい!なにすんだ・・!・・よぉ・・」


 背後にいたのは、5組の高橋早苗だった。


「さすが葵ちゃん。きれいな字だなー」

 パラパラとワークブックをめくる。さすがにムッとしたが言い返すに至らず、精一杯不満そうな表情を見せる俺に

「・・アラタよ、葵ちゃんのワーク借りるんならさ、あたしにも一言、声かけような?」

 更なる不満顔と上から目線で圧迫してくる。有無を言わさぬ迫力に「・・はい・・」と情けない返事を強要される俺。早苗は目線で、これ借りても?と葵にサインを送る。葵はどーぞどーぞと即答だ。


 俺より30cmは小柄な早苗に25秒で制圧されてしまった。

 半端ない目力と、相手に有無を言わさない声音のせいだろうか。いや、目力なんて、そんな可愛いもんじゃねえ。あれは食物連鎖の上位から、こっちを見下す捕食者の目だ。

 見た目だけなら、170cmの美咲の方がよっぽど強そうだが、高橋早苗には、逆らったらヤバい・・と思わせる闘気的なナニかがバンバン出ている。


「あ、あと、後で売店行くなら、言えよ。あたしも行くし」

 え、まさかお前にもおごんの?と言いたい俺の返しも待たず、さっさとワークを持って立ち去ろうとする。

「あ!・・・おい、それ・・!」

「アラタは英語3限だべ?あたし1限。2限の前に取り来い」

 後ろも見ずに手をヒラヒラさせて出て行った。


「・・・すげーなー。・・・オレのものはオレのもの。アラタのものもオレのもの、ってか・・」健太郎が感心したように言う。

「ジャイアンかよ」と俺

「ジャイアンより恐ええ」と健太郎

「ていうか、ボクのものなんだけど・・」とアオ

「朝からいいヘタレっぷりですなーアラタちゃん。むしろ惚れるわ」と美咲

「だれがEDだ。つか何フェチだお前」と俺。

「カオ、福ちゃん、一応女子。」と奇特なアオがフォローする。

「そだ。セクハラやめれ。つか、もう課題は自分やれ」オッサンJK福田がニヒヒと笑う。


 高橋早苗。高校入学して最初に出来た俺の彼女。

 そして付き合って1週間で俺は、彼氏から舎弟に降格された。




***


 「ねえ」

 入学して2週間も経ってないある昼休み、アオと売店に並んでいる時、高橋早苗は出し抜けに声をかけてきた。

 ――たしか、5組の女子だったな――この進学校にはめずらしいギャルっぽいタイプで、サイドのポニーテールとか、目立つから覚えてた。

・・名前は・・なんだっけ・・とか考えつつ、その目力に押され、とりあえず

「・・・はい・・・?」と下からな返事をしてしまう。

「4組の新田くん?だっけ?あたし、タイプなんだよね。とりあえず、あたしら、付き合わない?」

「・・・・へ・・・?」突然すぎて、ちょっと情けない声が出た。




 自慢じゃないが、いわゆる告白ってものは、中学のころからちょくちょくされる。

 普段、福田以外の女子と殆ど話すこともないから、告られるときは、大体が突然だ。

 だが、大体の告白女子ってものは、友人AやBとヒソヒソ言いながら視界をうろちょろしてみたり、部活のあとタオルを渡してガッツポーズしてみたり、と微妙な伏線を張る。お?くるの?とさすがの俺も察するくらいの。よくわからんが、そういう習性らしい。

 そして、その後、友人Aに体育館裏あたりに連行され、そこで友人Bに励まされる告白女子に、ありったけの勇気を一方的に振り絞られ、すっかり周りを固められた流されやすく横着な性格の俺は、ハア、ワカリマシタとか、なんとなく頷く。

 で、気付けば10人切りとか切られとか、いろいろ不名誉な呼び名でネタにされていたが、まあ、俺はそんなことはどうでもいい。ていうか、正直3次元女子はメンドクサイ。俺はバスケやれてジャンプとマガジンと日曜朝のミラプリ見れれば、それでいい。

 ちなみに、俺のやる気のなさに愛想を尽かし、告白女子たちは全員平均二ヶ月くらいで俺をフっていってくれた。




 しかし、だ。この時の高橋早苗は、一緒に買い食いしてる友だちに、あ、それ一口ちょうだい、とかいう感じで、実にカジュアルに、しかし有無を言わさぬ迫力で、通常女子がする伏線やら戦略やら全部すっ飛ばして告白?をしてきた。


「・・・はあ・・いいっすよ・・」

 もちろん流される俺。


「オケ。じゃあ週末、連絡するから」

 スマホを取り出し、俺にも出すように目で促す。あれよあれよとライン交換が完了し、どうやら俺らは彼氏彼女となったらしい。


 で、俺はその5日後に「ごめん。やっぱやめよ。」のライン一本であっさり振られ(もちろん最速)、またも皆さんに楽しいゴシップを提供することになる。

 



***


「どうでもいいけど、昼休みには絶対取り返せよな。僕ら英語5限だから。」

 不安げな顔の葵の後ろから

「つうか、あんた、葵ちゃんに甘えすぎよ。まあ私ら葵ちゃんのおかげでナギ高入れたわけだけど、いいかげん自立しろ自立。」

 とフクがうるさい。


 フクは中学の時から葵の後を追いかけ回っているが、じゃあ付き合っちまえ、とか周りがあおれば「いやいや、恐れ多くてムリ」とかニヤニヤして、逆エンガチョ状態にアオを置いてる。アオにとっちゃ、ひでえ話である。

 自分のものにはしないけど、誰にも手を出せない存在にはしときたい、とか、怖い事考えてるんだろうか。面白くていい奴だが、だとしたら、引く。


 夏休み前に、男子バレー部のイケメン上級生に告られたと、なぜか俺のところに相談に来た。別に俺は恋愛上級者ではないが、こういうシチュには慣れてると思ったんだろう。実際、人気者からの告白は、断っても受けても、誰かしらに恨まれるのでメンドクサMAXだ。俺の場合は自然体でいりゃどうせニヶ月でご破算になるので、軽く「とりまイエスって言っとけ」みたいな事をフクには言った。

 最近は一緒にいるとこをとんと見ないが、どうなったんだろう。


 アオは昔から、女みたいだの可愛いだの、俺からすればうらやましい賛辞を欲しいままにしているが、本人はその都度、地味に陵辱されているらしい。

 アオは自分を、ちょっと地味だがちゃんとエロい立派な16歳男子だと主張してるし、俺も概ね同意だ。まあアイツがエロ動画とか検索してる姿はなんとなく想像したくないが、アオのことを、女っぽいとも可愛いとも思わない。



 見た目は確かに、男らしいとは言えない。しかも天パで色白で眼鏡の、いい獲物キャラだ。色素の薄い髪や目も、軟弱なイメージを効果的に演出している。

 ただ俺は、それでなめてかかった高校生の不良連中が腕をひねりあげられ、脱臼させられた時のことを覚えてる。カツアゲされていたクラスメイトを見つけて思わず割って入り、とっさになんかの技をかけてしまったらしいが、加害者より、被害者より、アオ自身が、どうかなるんじゃないかってくらい、青くなっていた。


「いや、演武みたいに型通りに打ってきたから、つい・・タップもなかったし・・」


 へどもどしながら、なんだか素人には解り辛い言い訳をしていたが、下手したら腕がへし折れるような技らしい。受け身を取れない相手に使う事はタブーなんだそうだ。


 そう、アオは、ああ見えて実は合気道の達人だ。


「達人、って・・厨ニか?」

 そう言ってアオは嫌がるが、俺的にはその呼び名が一番しっくりくる。15歳までは年齢的に昇段試験が受けられなかったから、有段者とは呼べなかったし。

 だけど、アオの道場の師範はアオが中学の時から「実力3段」と言ってはばからない。「10年に一度の才能」なんだそうだ。

 そして40歳過ぎて中二病を発症したアオの父ちゃんがそれに煽られないわけがなく、来たるべき世界を救うその日まで、小学校の頃から現在に至るまで、道場との往復10キロの距離を、自転車で通わされている。


 後に葵とお袋さんが、高校生ヤンキーの家に、菓子折りもって謝りに行ったら、逆にドン引きされたと聞いた。非常に片瀬家らしいほのぼのエピソードである。


 正直、俺はプロレス以外の格闘技にはあまり興味がない。空手とかテコンドーとかの方が、格ゲーとかでも強そうだ。


 だけど、アオの身のこなしが、普通じゃないのは素人の俺でもわかる。合気道のことはよく分からないが、アオとガチでやり合ってかなう気はしない。おそらく、殴るどころか、触れる事も出来ないんじゃないかと思う。


 でも、アオ本人はなんの自覚もない。強くありたいという気持ちも薄い。

 そんなだから女が出来ないんだと思う。

 とかく女は強い男より、強そうな男を、男として意識するもんだ。


 だが、俺が付き合った(俺をフった)女達の中には、「片瀬クンにすればよかった」的な捨て台詞を残しやがったヤツもいた。ここ最近で背も少し伸びたし、身体ももう細いだけじゃねえ。そろそろヘンな女子友ごっこは卒業しても良い頃だと俺は思う。

 ただ、本人にその自覚もなければ自信もない。

 まあ、その自信の伸び悩みには俺と、俺に告るオバカサン達が一役買っている事は認めざるを得ない。アオは、女子はどいつも俺的な容姿の男が好きなもんだ、と思い込んでいる節がある。


 3次元の女に興味の薄い俺には心底めんどくさい問題が、めんどくさい目に遭いたがってるアオにはなかなか起こらず、いつまでも女子友A/Bの役をやらされている。ヤツが俺に苛つく気持ちは理解できる。

 実際、アオが「カオと話したいって子がいて・・・」と仲介してきた事があるが、この女子は唯一俺の方から即答でお断りした。勘弁してくれ。俺の親友に何をやらせてくれてんだ。そんなKYちゃんとは付き合うもへったくれもない。


 そして、「ビジュアル的に完璧な2人」とオタ部女子らの妄想ネタにされてることは薄々気付いていたが、このたび、BL本を出されていたというフクからの衝撃情報。つうかアイツ絶対買ってる。友だちなら怒れよと言いたい。が、あいつ曰く「無意味に葵ちゃんにべたつくアラタが全部悪い」らしい。

 俺はぶっちゃけ面白いから煽ってやりたいくらいだが、高校での出会いに密かに、そして激しく期待してるアオにこの黒歴史。不憫過ぎて見ていられない。



「アラタが女子と口聞いてんの見ると、なんかむかつく」

 とか言って、その日もまた、那智健太郎が理不尽全開で絡んで来た。

 こいつは、アオが高校でめずらしく自力?で友だちになった男だが、頭蓋の内壁がピンク色なんじゃねえかってくらい、常に女の事ばかり考えている。俺をあからさまに疎ましがるので、アオを挟んでの立ち位置は微妙だが、悪いヤツではない。

 なによりアオの高校でのラブライフを応援してくれる貴重な人材だ。俺はもう、よく分からない自称女子友らに囲まれて悶々とするアオを見るのは忍びない。俺は、たとえ俺を敵認定していようが、那智健太郎とアオの友人関係がうまく行ってれば、結構なことだと思う。


 だが、アオの親友のポジションを10年キープしている立場としては、やはり新人にセンターを取られる様な軽い焦りは否めない。ただでさえも、現在思春期に伴う反抗期(対俺限定)の葵の態度は冷たさを増す一方なのだ。よって、今日も昼休みのチャイムが鳴り止む前に、1年3組の葵の席を目指してしまう俺がいた。


 こんな状況を知れば全校の腐女子の皆さんが当然期待してしまうであろう展開は大体想像つくが、俺とアオに限って、それは絶対あり得ないと言い切れる。

 フクじゃないが、そんな恐れ多い妄想は笑い飛ばすほど、俺もアオをリスペクトしまくってる。

 アオが俺にとって、そんなかけがえのない存在になったのは、忘れもしない9歳の秋。初めて俺が利香を泣かせ、初めて父親が俺に手をあげ、そして俺がアオに初めて、俺と父親に血の繋がりがない事を打ち明けたあの日だった。


アラタの過去話は、じきに本編で。

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