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僕らは夜と朝の間に  作者: 小泉阿難
8/12

Meet the team 4

まだ続いています。感想でも突っ込みでも、いただけたら嬉しいです

 真っ向から、ミツに見据えられ、葵は戸惑った。

 ええと、僕なんか、言うべきところ?


「俺は・・」


 ミツが口を開いたところで、いきなり背後に飛び出してきた人影に、葵は飛び上がった。


「あっ・・・!」


 その人影は葵より小柄でカオリンより大きい。細くて白い体に、なんだか薄っぺらいシャツのようなものを羽織って、小刻みに震えている。


「ミツ・・スズ・・」


 中学生くらいの、少年だった。柔らかそうな茶色い髪と同じ色の眉と瞳に、泣き出す直前の兆候が見て取れた。


「おお、サキ!」

 スズが寄って行って、少年の頭に手をやる。

「おい、大丈夫かよ?どっから出て来たんだ、お前」


 そして、案の定、それをきっかけに少年の双眸から大粒の涙がボロボロとこぼれた。

「うあああん!スズぅー!!」


 スズに抱きついて、その鳩尾辺りに顔を埋めて、号泣する。


「もう、なかなか・・みんなに会えなくて・・ボク、もうどうしようかと・・」

「なんだ、気合いが足んねえぞ。何事も集中だ集中。」

 微笑みながら口だけで叱責して、スズが少年の頭をぐりぐりとなでてやる。


 よく見ると、葵の中学時代くらいの身長だ。一見した印象ほどチビではない。

 ああ、スズさんがデカイんだ。と思い至る。・・委員長、小動物系なのに・・・。

 ていうか、それ言うなら僕なんか、どうやら女子だし、この感じからして完全に。

 ていうか、カオに至っては、二次元キャラだよね・・。と葵は泣き笑いした。


 怖かったよう、としくしく泣く少年をなだめるスズが、葵の方を向いて苦笑する。

「サキ・・ほら、アオイくんだよ。戻ってきたんだ。」

「えっ・・」

 ビックリした目で、初めてそこに葵がいる事に気付いたように、こちらを見つめる。

 この少年にも、どこか見覚えがあった。なんでだろう・・


 ――あ――


 その、ふわふわした明るい色の髪と瞳、切れ長の一重は、記憶にあるそれよりも、もっとつぶらであどけない・・が・・いやいやいや。いくらなんでも、ここまでナヨッちくはなかったぞ、こんなに頼りなげで儚げじゃあ・・・

 否定しても、しきれなかった。そう、少年はどこか中学時代の葵を彷彿とさせる顔立ちをしていた。


 ――なんだよ、なんなんだよ――


 不思議な事に、同じ様な顔立ちのはずのミツとサキは、似ても似つかない。

 ミツが精悍で凛々しいバージョンの葵なら、サキは、幼く頼りなげなバージョンの葵といったところか。


「つ、つまり、つまり、僕の夢だからですよね?僕の夢だから、ぜんぶ、僕の脳が勝手に作り上げてるから・・どいつもこいつも僕に似たとこがある、ってそういう・・」

「うーん、どうだろ。関係ないんじゃねぇ?だって俺的にはこれは俺の・・美鈴の夢だし。」

「いや、夢っていう時点で、それは僕の脳の産物であって・・・」

「それ言ったら、俺の脳の産物かもしれんし、彼のかもしれんし?少なくとも俺たちは、各自の脳の作り出した存在ではあるだろうな」


 にやにや笑いながらスズが言う

「あのね、その仮説は俺だって、散々検証しましたよ。全部が俺の夢、俺の妄想、俺の脳の産物、俺の記憶があらゆる矛盾を改ざんして、つじつまを合わせてんじゃないか・・ってね」

 急に、ぐっと葵の前に自分の顔を寄せる。


「でもね。どうしても、心の奥底で、もう納得しちゃってるんだよね。理屈じゃなくて感覚で?」

 葵の目を通して、心の奥まで覗き込む様な視線。


「これは、本物だ、ってね。本当に、俺たちはここで、出会ってるって。実感がある。俺には。」


 顔を離して、愉快そうに微笑む。君はどう思う?と問うように。人心を操るのに長けた大人の表情だった。


「まあ、確かめる術はないし、ここでこうして話してる記憶だって、次に会ったときには俺たちの脳みそのねつ造だって言われかねないし、それならそれで、それまでの話なんだけど」

 ちょっと視線を外し、ああ、と直ぐ戻す。

「そうだ。アオイくんがなんか裏付けが欲しいって言うなら、1つ、教えておこうかな。美鈴には弟が2人いる。双子だ。ダイゴとヒビキ。」

 まだ、葵ちゃんは知らない事実ってことで、まあ、もしなんかの弾みで知る事があったら、信じてよ。と独り言のようにつぶやく。


「それと、ここが夢って言い方が、葵ちゃんを混乱させているのかもね。夢って、個人的なものってイメージあるから」

 こんどは口元に手をあてる。


「これは、潜在意識ってやつだ。俺の考えだけど」

 スズに真面目な顔になられると、こちらも何となく姿勢を正して聞いてしまう。


「昔はね、本当の潜在意識っていうのは全人類が共有してる、って説が唱えられていたこともあるんだよ。人が眠って、本当に意識の深いところまでいくと、そこに人類共通の潜在意識がある、ってね。」

 長い指で、意外に鋭い顎先をなでる。


「まあ、キャオキャオやサキには、ユングもフロイトも、へったくれもないからな」

 苦笑しながらも、愛ある口調で言う。


「俺たちは、俺らの無意識が作り出した別人格なんじゃないか、くらいの話にとどめてる。本当はここは、もっと意味のわからない、異常な世界で、どんな化け物がいてもおかしくないーーんじゃないか、って、そんな風に俺は思ってるんだけどね。」


 涼しい顔でむしろ愉しげな口調で、恐ろしい事を言う。


「なにせ、相手は、全人類だ。」


 そんな恐い事を口にするスズの、その知的な双眸に、心なしか昂りの色が見えたような気がして、葵は思わず息をのんだ。そんな葵の視線に気付き、いやーネット中毒の俺が言う事だから、そんな真面目に聞かないで、と笑う。


「にしてもさ、サキといいミツといい、アオイくんの顔モテモテだろ?なんだかね、流行ってんの?」

 一転、しれっとからかってくる。

「なのに、当の本人は、かわいい女子の姿っていう・・前から思ってたけど、なに、それは葵くんのタイプなの?ちょっとロリくない?」

 葵の姿をじろじろ見ながら、スズがニヤつく。


「まあ、あれだ、サキの場合は、アオフェチなんて言われるくらいだから、そりゃあ姿形に葵くんの要素が入っても驚きはしないんだけど・・そっか、彼、中学生くらいの君っぽいのかな?」


 ん・・?アオフェチ?そんな薄気味悪い呼び方される人、1人しか思い当たらない・・・


「まさか・・・福ちゃん・・?」


 キャオリンとの再会を喜び合ってた、サキ少年が、はにかむような笑顔でこちらを向いた。


「葵くん、無事だったんだね。よかった。アイがあんなことになって、もし葵くんがどうにかなってたら、どうしようって、心配してたんだ。美咲は葵くんのことになると見境いがないから」


 気弱そうに笑う少年は、華奢で頼りなげで、およそあの那智健太郎を、葵が青ざめるほど辛辣なボキャブラリーでディスってる福田美咲とは、微塵も重ならない。


「ほら、ミツもいるだろ、サキ。アオイとミツの2人がそろったんだ。もうここらの空気は盤石だ。暫くはゆっくり出来るぞ。」

 機嫌良さげにスズがいう

「あの、さっきも言ってましたが、それってどういう・・・」

 なんとなく挙手をして質問する葵。

「言っただろ。アオイちゃんとミツは、快適に感じる温度や湿度が同じなんだ。つまり、2人で力を合わせて、周りの環境を調節しようとする。その力が増幅されるのか、エライ強いんだな。二人だと。で、似たような環境でまずまず快適な俺たちは、それにあやかれて、ラッキー!というわけ」

 なんで、お世話になりますよ、ピッタリカップルさん。とからかうようにニカッと笑う。


 サキの顔がすっかり安心したものになった。それから葵の顔をまじまじと眺める。

「あの・・今、思ったんだけど、なんか・・あの、転校生の人、アイ・・じゃなくてアオイくんと・・」


 うん?と聞き返すスズ。葵の方を向いて、しげしげと眺める。あ!と気付いた表情。

 でしょ?というふうに、両手を広げるサキ。


「本当だ。よく見ると、あれだな。今気付いた。」

 また指が眉間にあてられる。

「転校生に、似てる。っていうか、そっくりだ。アイちゃんと。」

 なんだっけ、転校生の名前、とサキに聞く。別に秘密でもなかろうに、サキが声をひそめて教える。委員長が親しくしてる人間でも、スズの関心を引くとは限らないらしい。

「どういうことだ・・初対面のはずだろ、真柴三弦と片瀬葵・・なのに、なんでビジュアルまで」


「でもなんか、転校生のほうが、おねえさんっぽかったよね」

 サキがキャオリンに聞く。

「バカオルがよく見ないからー!キャオリン、まだよく覚えてなーい!もうバカオ、バカでヤダー」

 キャオリンがふくれる。

「確かに、真柴三弦のほうが、はるかに色っぽいな。アオイはそのおこちゃま版だな。真柴三弦のロリ版っていうか。」

 三弦の容姿を思い出してる顔で、スズ言う。


「やめろ・・・お前の口からそんなこと聞くと、本気で気持ちわるい・・。」

 と眉をしかめて、ミツが言った。

「別に三弦は、努めて色気を出そうとか、思うタイプじゃない。変な目でみるんじゃねえ」

 スズがはっとなって、まじまじと、ミツを見た。

「まさかミツおまえ・・。俺、お前はてっきり現実でも男だと思ってた、けど・・・」

「そのセリフ、そっくりそのままお返しする。お前があんな可愛いメガネ女子って、意味がわからん。」

 スズの視線を居心地悪そうに受け止めながら、ミツが言う。


 そしてミツは、相変わらず不機嫌そうな、そしてどこか切ない、複雑な表情で、再び葵を見た。


「だから言ったろ」


 誰ともなしに、ゆっくりと、確かめるように言う。


「俺たち、とうとう会った、って。」


 混乱と悪い予感に、思考を乱しながら、それでも葵はなんとかミツに訊ねた。


「確かに、彼女、名前がミツルって・・・ミツと似てるし・・・僕は君に、君は、僕に似てるし、これって・・一体どういう・・」


「どういうも、こういうも」


 ミツは、ため息をついて、吐き出すように言った。


「この流れじゃ、どう考えても俺が、真柴三弦だろうが。」

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