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僕らは夜と朝の間に  作者: 小泉阿難
6/12

Meet the team 2

 「あくまで、俺の理解なんだけど」

 スズがそう前置きして、アオイの混乱した頭の中を、丁寧に、かつ忍耐強く、解きほぐし、整理し、必要な説明をしてやっている間、ミツはひたすら浮かない顔で、時には、あからさまにため息すらつきながら、一言も発さずに葵を眺めていた。


「つまり―――この世界では、僕たちの隠れた一面が具現化して、行動してるってこと、ですか?」

「いや、世界っていうか、夢ね、あくまで」

 何度目かの問答に、相変わらず穏やかに、苛ついた様子も見せず、スズが応える。


「それに、俺らが”隠れた”一面っていうのも、どうだろな。俺は別に美鈴に“隠されてる”って気はしてないし」

 とニコニコする。たしかにニコニコ顔は委員長のトレードマークだ。けど。


「まあ、いえば・・本人が無意識に選んでる人格、的な?うん。この夢の中にいる間ね、少なくとも」


 スズという青年――彼曰く、委員長の小田美鈴――は、口調は軽く、人当たりのよい笑顔を崩すことはないが、瞳に宿る光は理知的で鋭い。軽くオールバックにしたすっきりとした額や、その整った眉に知性が漂っている。

 眉目秀麗。そんな言葉を彷彿とさせる風貌に、長身とその穏やかな物腰――どうにも頼りにしたくなる大人の男性、という風情だ。お下げ髪に眼鏡、いつもニコニコして小動物を彷彿とさせる委員長の姿とは、なかなか重ならない。

 学校にこんな先輩がいたら、妹にしてもらいたい女子が列を作るだろう。


「でも、この夢、夢にしては異常にリアルなんですけど・・・なんか暑かったり寒かったりも、すごいするし」

「いいところに気付いたね!」

 指を立てて家庭教師口調で応えるスズ

「そう、激しく暑かったり寒かったりする。ついでに匂いや湿度なんかもすごくリアルだ」


「おかげさまで、暑さで気が狂いそうにもなるし、寒さに死にたくなったりもするぜ」

 久々にミツが口を開いたがその口調はお世辞にも友好的とは言えなかった。まあまあ、とスズは手で軽くミツを制し、葵に尋ねる。


「・・でも今はどうだい?暑かったり寒かったりするかい?」

「あ、今は比較的快適・・です。・・ちょっと肌寒いくらいで」


 葵は応えて、そういえば、こんなに呼吸が楽なのは初めてだ、と思った。


「えー寒い?あーやっぱ俺かなぁ・・」スズは額に手を当てて大げさな声を上げた。

「え、なんでスズさんの・・・」

 それほど面白いことも言ってないですが、別にそんなサムイ事も言ってないですよ・・などと葵こそがサムイ返しをする前に、スズが意味ありげな口調で言った。


「だって君ら二人だけなら、絶対完璧に快適なはずだろ?」

 間接的にお前に言ってるんだとばかりに、ミツの方に目線を向けるスズ。


「別に・・・近くで暑がりな奴らが集まってるんじゃねえの」

 ぶっきらぼうに応えるミツ


「いやいやー。俺はね、前に言われたことあるんだよね、サキとかキャオに、正直スズと2人だと寒いからそば来ないで、だって。傷ついたわー」

 傷ついた様子など微塵もない笑顔と棒読み口調でスズが言う。


 つか・・・また・・話しがわかんなくなってきたけど・・えーと、もしかして・・・


「・・一緒にいる人で、その場の温度が、変わる・・?とか・・・?」


「正解!優秀!」

 あくまで塾講師風を引っ張る。

「正確には、体感温度が変わるって感じか?例えば、今、俺は肌寒くない。むしろ、ほんのりあったかい。」

 わかってくれて本当に嬉しいとばかりのニコニコ顔でスズが言う。


「ここじゃ、みんな、快適に感じる温度や湿度がすごく違うらしいんだ。それで、各々、自分にとって快適な空気を纏ってるらしい。それでもって、どうやら、その場の空気を「調節」しようとするらしいんだな。無自覚にね。」


 体感・・葵は唐突に、さっきミツに助けられた時に感じた、えも言われぬ心地の良さを思い出した。

 それまで、暑くて苦しくて、呼吸もままならなかったのに、ミツの腕に倒れ込んだとたんに、すうっと、空調がついたみたいに、涼しくて清浄な空気につつまれた。


「そして、アオイとミツ。君らは、その感覚が、恐ろしいくらいぴったり合ってるらしいんだよ・・こうエアコンの好みの設定が同じ、みたいな。・・だよな?ミツ」

 

 ミツが精悍な眉根をひそめる。

「・・合ってた、だ。今は、分からない。」


 いや、今も違わないと思う。さっきの感覚からして、少なくとも僕にとっては・・というセリフを、ミツの剣呑な表情を見て、葵は飲み込んだ。

 ――なんかミツ君から、僕のこと気に入らない光線がビンビンなんですけど――

 しかし、なんとなく彼に嫌な印象は持たない。現実の僕に似ているからかな?それとも・・


「そういえば・・僕とミツ君は・・」

「・・・ミツ、くん!・・」

 吹き出しそうになったスズが、ミツの形相をみてあわてて口を抑える。


「ミツ、でいい。みんな、そう呼んでるから。」

 不機嫌全開のミツが、それだけ言うと、またそっぽを向く。


「もともとは君が、そう呼んでたから、ね」

 スズが声をひそめて葵に耳打ちする。

「君たちが、オリジナルのパートナーで、正真正銘、運命の2人なんだよ。」

 そう言って、ウィンクする仕草が非常に様になる。


 そして、まだ視線を合わせぬミツの方をちらりと見やって

「俺たちみんな、君らに出会って、仲間になることになったんだ。」


 葵は反芻した。僕たちが、正真正銘の、運命の・・・ん?ていうか


「・・・俺たち・・”みんな”?」


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