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第二十三劇『怨恨』

シェイリア「私を止める?面白いことを言いますね。」


ノア「そうですか?僕はいたって真面目ですよ。」


シェイリア「……いいでしょう。では、やりましょうか…。」


ノア「その前に一ついいですか?」


シェイリア「…何でしょう?」


ノア「アナタを変えたのは何ですか?自分を育ててくれたサンゼバル様を裏切り、生まれ育った宮殿まで壊して…。何が『イリス』さんをそこまで変えたんですか!」


シェイリア「貴方には関係ありません。」


ノア「僕は!僕は……アナタが町を破壊してた時、アナタが寂しい目をしてたこと知ってます。サンゼバル様が危険にさらされた時も、サンゼバル様の身を案じてたことも知ってます。」


シェイリア「………。」


ノア「お願いします。『イリス』さんの本当の心を教えて下さい!『イリス』さんの過去に何があったのか…。」


シェイリア「…仇を討つためです。」


ノア「仇?」


シェイリア「義姉弟のよしみです。教えて差し上げましょう。私の憎しみの全てを…。」



(シェイリアの過去)



サンゼバル「これからは『イリス』もワシの娘じゃ。『プリミア』もよいな。『イリス』、仲良くしてやってくれ。」


イリス「……。」


プリミア「ミアね、お姉ちゃんが欲しかったの!ありがとう、お父さん!ね、お姉ちゃんて呼んでいい?イリスお姉ちゃん!」


ウェルカ「もう呼んどる呼んどる。」


プリミア「エヘヘ!」


イリス「………。」


イリスの語り「私は家が火事になり、両親が亡くなりました。親戚にも引き取り手がいなく、仕方なくサンゼバル様にというか宮殿に引き取られたのです。そこでサンゼバル様がプリミアの遊び相手として引き取った。体裁のいい『娘』という肩書きを与え、実の娘のために玩具として私を引き取ったのだと、最初は思いました。ただ利用してるだけだと。だから決して打ち解けようとは思わなかった。だけど…。」


プリミア「お姉ちゃん、これ見て!お姉ちゃんの絵書いたんだよ!どうかな……上手く…書けたかな?」


イリス「……う…ん。」


プリミア「エヘへ!お姉ちゃん大好き!」


サンゼバル「プリミアは本当にイリスのことが好きなんじゃなあ。さてと、ほらイリス、プレゼントじゃ。」


イリス「え?」


サンゼバル「今日はイリスがワシの娘になって一年じゃ!」


ウェルカ「ほっほっほ。めでたいのぉ。」


イリス「……私は…。」


サンゼバル「さあ、開けてみるといい。」


イリス「はい…これは!」


サンゼバル「いやぁ〜探すのに骨がきしんだわい。」


プリミア「何なに?うわぁ…綺麗な『ネックレス』…!」


イリス「何故これが…?母がいつもしてた…あの時家が火事になって…。」


サンゼバル「ワシとウェルカでお前の家に行って探して来たんじゃよ。」


イリス「あんな遠くまで…!」


サンゼバル「思い出の品というものは大事なものじゃ。心を支えてくれるかけがえのないのぉ。」


ウェルカ「お主がこの家に来た時、何にも持っとらんかった。火事じゃ…仕方ないとはいえ、支えが無いのは悲しいもんじゃ。じゃからイリス、お前の思い出を大切にしてやりたかった。」


イリス「う…く…うう…うわぁぁぁん!」


プリミア「どうしたのお姉ちゃん?泣かないで、どっか痛いの?な、泣か…な…いで……う…うわぁぁぁん!」


サンゼバル「プリミア!何でお前まで!」


プリミア「だ、だって……だって……ミア…うわぁぁぁぁん!」


ウェルカ「ほっほ!イリスよ…この一年、心を閉ざしていたのは分かっておる。じゃがもうワシらは家族じゃ。助け合って生きていこうぞ。」


イリス「う……ヒック…あ…あり…がとう…ござ…いま…す。」


イリスの語り「私は玩具じゃなかった。三人は、私を家族として見てくれていた。本当に嬉しかった。生きていていいのだと、いや、生きていきたいと思えた。家族と一緒に…いつまでも…。」


少年1「や〜いや〜い!泣き虫プリミア〜!」


プリミア「うぇ……うう…。」


少年2「お前は可哀想な奴なんだってよ!泣き虫プリミア!」


イリス「コラァァァッッ!」


プリミア「お…お姉ちゃん…。」


少年2「げっ!イリスだ!」


イリス「またミアをイジメたな!」


少年1「へーん!本当のこと言っただけだもんね!お母さんも言ってんもんね!プリミアは『禁忌』だって!」


少年2「意味は分からないけど、『禁忌』は可哀想だって言ってたぞ!」


イリス「うるさいっ!」


少年2「うわっ!逃げろ逃げろ!」


少年1「そうだそうだ!可哀想が移っちゃうもんね!」


イリス「いいかげんにしろっ!」


イリスの語り「プリミアはハーフエルフ『禁忌種』と呼ばれる存在だったのです。昔から『禁忌種』は災いを招く者として恐れられていました。プリミアも例外なく、そのせいでエルフ達に嫌がらせを受けていました。時には石を投げられ、本当に酷い時には大勢の前で服を脱がされたりもしました。宮殿の中はまだ安全ですが、一歩外に出ると、中傷の雨でした。それが徐々にエスカレートしていきました。」


男1「おい、例のガキだぜ。まだ生きてんだな。」


男2「生きてる価値も無いんだから、さっさといなくなればいいのにな。」


女1「やだ、災いが起こるじゃない!」


女2「死んでも誰も悲しまないのにねぇ。」


イリス「いいかげんにして下さいっ!何の根拠があってそんなこと言うんですかっ!いい大人が恥ずかしくないんですかっ!」


プリミア「もういいよお姉ちゃん…。もう…。」


イリス「ミア……行こう!」


男1「早く死ね!」


イリス「くっ…!」


プリミア「…お姉ちゃん…。」


イリス「どうしたの?」


プリミア「ミアって…いらない子なの?」


イリス「そんなことないよ!あの人達が間違ってるのよ!ミアは私の大切な妹よ!私が守ってあげる!」


プリミア「お姉ちゃんは……ミアが死んだら悲しい?」


イリス「当たり前じゃない!大好きなミアが死ぬなんて考えられないよ!今遠征でいないけど、サンゼバル様もウェルカもミアのこと、大切に思ってるよ。」


プリミア「…ありがとうお姉ちゃん。」


イリス「あの人達は私が何とかしてあげる。それにミアはミア。ここで生きて動いてる。私と一緒に生きよう。私の夢はミアと幸せに生きること。それを私に与えてくれたのは貴方よミア。だから命を懸けてミアを守るから。約束よ!」


プリミア「うん!…ミアも…皆が幸せに生きるのが夢だよ!…ありがとうお姉ちゃん…。」


イリス「あ、そうだ!ミア、これかけてなさい。」


プリミア「え、でもこれ!お姉ちゃんのお母さんの形見…。」


イリス「それは『ハウルアワー』と言われる鉱石で出来ていて、『護の希石マモリノキセキ』とも言われているの。私よりミアが持っていた方がお母さんも喜ぶと思うの。」


プリミア「いい…の?」


イリス「うん。」


プリミア「お姉ちゃん、だーい好きっ!エヘへ!」


イリスの語り「それが…私の見たプリミアの最後の笑顔でした。翌日、宮殿の中で冷たくなっているプリミアが発見されました。」


神官1「おい、プリミアちゃんだぞ!」


神官2「やっぱな、とうとう自殺しちまったか。最近は特に酷かったからなぁ。」


神官1「しかも飛び降り自殺かよ……サンゼバル様が帰られたら…。」


イリス「どいて!どいて下さいっ!はあはあはあ………う……嘘…。ミア……嘘でしょう…。どうして貴方が死ななければいけないの?何も悪いことしていないのに…。一緒に生きるって……約束したじゃない!ミア…こんなに冷たくなって……返事してよっ!ミアァァァーーーーーーッッッ!」


サンゼバル「はあはあはあ……プ…プリミア…!」


ウェルカ「ワシ達が遠征している間、何があったんじゃ?イリス…?」


イリス「許さない…。」


ウェルカ「え?」


イリス「自殺なんかじゃない……殺された……そうよ……許してはいけない……ミア……守る…。」


サンゼバル「イリス?」


イリス「…ああ…遅かったのですねサンゼバル様…。無事に遠征終えられたんですね。良かった…。」


サンゼバル「イ…イリス?」


イリス「………その子は誰ですか?」


サンゼバル「え?あ、ああ、この子はノア、ワシ達の新しい家族じゃよ。プリミアと同じハーフエルフなんじゃ。」


イリス「そうですか………じゃあ…いつか殺されますね…。」


サンゼバル「え?イリス!どこに行くんじゃ!」


イリス「………夢を叶えに…。」



(現実へ)



シェイリア「そして、宮殿から出ました。」


ウェルカ「……イリス。」


ノア「僕と同じ……で…でも!アナタは!」


シェイリア「私はエルフを許さない!小さな枠でしか物事を見ず、判断できない!だから、全ての『回帰』を求めます!」


ノア「確かに!…確かに僕の見てきたエルフ達も酷いものでした。でも!母さんは…僕の母さんはそれでも皆の幸せを願っていました!寿命が縮むのも気にせず、僕を愛してくれました!それに…エルフ全部が悪いわけじゃない!」


シェイリア「分かっています。サンゼバル様もエルフ…私を愛してくれた両親もエルフ。それは分かっています。だけど…全部が全部割り切れる程、私は物分かり良くありません!ミアを救えなかった…そんな私に今出来ることは、悪の感情を消しさること!そのために私はネオスの行いに同心しました!」


ノア「その行いでサンゼバル様が死んだらどうするんですか!」


シェイリア「大丈夫です。サンゼバル様は傷付けさせません。新しい世界で生きてもらうんです。」


ウェルカ「イリス!お主本気で!」


シェイリア「ミアが死んでから…私には虚無感しか無かった。新しい世界を見届けたら……ミアのもとに行きます。」


二人「!」


シェイリア「今はただ夢を叶えるため…。それだけを考えます。」


ノア「駄目だ!」


シェイリア「……。」


ノア「…僕にも夢があります。絶対叶えたい夢が。それは…『禁忌』を全ての意味で救える方法を見つけることです!」


シェイリア「ですから悪を消しさればいいんです。」


ノア「違います!誰にだって悪の感情はあります。だけどそれと同じように正義の感情だってあります!心って難しいんだと思います。弱いし流されやすいし…傷付きやすい。悪に傾く者達も多いかもしれない。だけど生きてるから!それでも必死に生きてるんです!生きてたら人は変われるんです!プリミアさんも必死に生きた。必死に生きる!それが彼女の願いだったんじゃないんですか!僕と違って、彼女は一言だって、エルフを悪く言わなかったでしょう?」


シェイリア「あ…。」


ノア「信じてたんです。信じ続けてたんです!いつか誰もが幸せになれる日が来るって!僕の母さんのように!優しいプリミアさんの思い、アナタなら分かるでしょう!」


シェイリア「…そ…それでも私は…。」


ノア「僕は必ず救います!僕達には未来があります!今『禁忌』を救うすべが無いのなら、僕が創る!アナタのような『破壊』じゃなく、新しい方法を僕が『創造』するんだ!」


ウェルカ「ほっほ。こやつ……ええ顔になったわい。本当にのぉ。」


シェイリア「分かりました。ミアと同じ『禁忌種』の貴方が言う『創造』の強さと、私の望んだ『回帰』という『破壊』の強さ。どちらが正しいのか、決着をつけましょう!」


ノア「どうしてもですか?」


シェイリア「戦わなければ見い出せない真実もあります。貴方が正しいというのなら、私を止めてみなさい!」


ノア「真実……分かりました。イリスさん、いや、シェイリアさん、プリミアさんと母さんの願い、僕が引き継ぎます!その願いを背負い、アナタの心を倒す!」


シェイリア「ミア………来なさい!」


ノア「シェイリアさん!世界は、これからですっ!」



次回に続く

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