第二十二劇『誓願』
剣斗「弟ぉっ！」
天満「アイズ？」
アイズ「ちっ…。」
サイガ「なんやなんや、けったいな顔しおって。そない嫌か？ワイと兄弟っちゅうのは。」
アイズ「黙れっ！僕にいるのは姉だけだ！」
サイガ「姉か……いつまでそない呼んどるんや？」
天満「いつまで？」
アイズ「黙れ…。」
サイガ「血も繋がってないんやで？」
アイズ「黙れっ！貴様に何が分かる！僕達を裏切り捨てた貴様にっ！」
サイガ「そのお陰で、望んどった騎士団長になれたやないか。ワイがおったらアイズには無理やったんやからな。」
アイズ「見下すなっ！貴様など、すぐに追い抜けたんだ！」
サイガ「無理や。お前にワイは抜けへん。」
アイズ「くっ…そんなことはどうでもいい！答えろっ！姉さんは城のどこにいる？」
サイガ「言うことなすこと、全てズレとるわ。」
アイズ「何だと！」
サイガ「たとえフィアンの居場所を知ってもな、お前の力では助けられへん。何よりお前はワイに勝てへん。」
アイズ「試してみるか？」
サイガ「せやけど今は急いでんねん。用があんねんやったら城に来ぃや。」
アイズ「だったら何しに来た？」
サイガ「ああ、ワイの用はもう済んだわ。」
アイズ「……。」
サイガ「これや。」
剣斗「それは！天満のバンダナ！」
シャウト「しまった！奴の狙いは『レアブレード』か！」
天満「いつのまに…？」
サイガ「何や気付かへんかったんか…。アイズ…お前はどうや？」
アイズ「くっ…。」
サイガ「これが今のワイとお前の差や。ま、それでもフィアンを助けに来るんやったら城に来たらええ。だけどや…覚悟しぃや。なめとったら………死ぬで…。」
アイズ「待てっ！」
サイガ「………早く来ぃや…。待っとったるさかい。」
アイズ「くそっ！」
天満「アイズッ！」
アイズ「離せ天満っ！離してくれっ！くそっ！待てっ！サイガッ！」
シャウト「落ち着けっ！」
アイズ「うるさいっ！お前らに何が分かる！何も知らないくせに、僕に指図するなっ！」
天満「うん、知らない。だから話してくれ。アイズ……君が言ってくれたんだ。俺は一人じゃないって。俺は…俺達はアイズの仲間だ。だから話してほしい。」
アイズ「天満………お前達…。」
剣斗「そういうこった！」
アイズ「……ああ、分かった。教えてやる。アイツと僕…そしてフィアン姉さん……三人の運命が決定した時のことを…。」
（アイズの過去）
アイズ「はあはあはあ……に…兄さん…。」
サイガ「もうすぐや、我慢しぃ。あの孤児院に戻りたいんか？」
アイズ「嫌だ！もうあそこは嫌だ！」
サイガ「ワイかて嫌や。あないなトコおったら腐ってまう。ワイ達を見捨てた親を見返すんや。幸せになるんや！自分の力で！」
アイズ「うん…。」
サイガ「着いたで。ここが幸せへの第一歩や！」
アイズの語り「僕達は小さい頃、親に捨てられ、ある孤児院で育った。僕が生まれてまもなく捨てられた。サイガとはかなり年も離れていた。孤児院にいる頃は、体の弱かった僕は、いつもイジメの対象にされていた。さらに、そこにいる先生までも僕達を邪険に扱っていた。ただ…地のエルフというだけで。そう、その孤児院は天のエルフしかいなかった。ある日、サイガがその孤児院の先生を殺した…。それがキッカケとなり、孤児院を出て、地のエルフの国を目指した。そして、『ラフォール城』に着いた僕達は、兵士として雇ってもらった。そこでサイガは、驚くべき速さで力をつけ、わずか一年で騎士団長まで登りつめた。そして、まだ幼かった僕は、ある一人の少女の世話役兼遊び相手として城に仕えた。その少女がフィアン姫…姉さん。その時、僕は八歳だった。何事も無く年月が過ぎていった。僕が十歳になった頃、それは起きた。」
アイズ「くそっ！当たらない！」
サイガ「まだまだやな。お前の剣は直線的過ぎやねん。」
アイズ「はあはあはあ……兄さんが強すぎなんだよ！こう見えても城の剣術大会で三位だったんだよ！」
サイガ「そないなもんどうでもええ。所詮大会なんて遊びや。本物は命を懸けた戦いでしか生まれへん。それに三位なんてドベと一緒や！アイズ…常に一番を目指しぃ。」
アイズ「でも…兄さんがいるから一番は無理だよ…。」
フィアン「あら、こちらでしたの。アイズ！ボロボロではありませんか！」
アイズ「姫！」
フィアン「アイズ、姫と呼ぶのは止めてと言っているでしょう。」
アイズ「ごめん…姉さん。」
フィアン「ふふ。」
アイズの語り「サイガは兄として、男として、壁として、そして憧れとして存在した。何よりも強く、何よりも高く、何よりも遠い存在だった。そして、フィアン姉さんの婚約者としてサイガは選ばれた。」
ラフォール王「我が家臣達も一致相違無い。フィアンを…この国を任せたぞ。」
サイガ「はい…。」
アイズの語り「最初は反論はやはりあった。孤児院で暮らしていた経歴。身分も最下層。だが、サイガは自分の力だけで登りつめた。身分じゃ雲の上の存在の奴らを、自分の力で認めさせた。そんなサイガに、当然フィアン姉さんも惹かれていった。」
フィアン「貴方は何でもお出来になるのですね。」
サイガ「そんなことあらへん。ただ必死なだけや。」
フィアン「私は、そんな貴方…好きですわ。」
サイガ「ワイは…。」
アイズ「兄さん！」
サイガ「アイズ！」
アイズ「これ見て！」
フィアン「まあ、これは『誓い石』ではありませんか！どちらでこれを？」
アイズ「旅の商人から貰ったんだよ！」
フィアン「まあ。」
アイズ「この石に書こうよ！誓いの言葉を！」
フィアン「いいですわね。」
サイガ「お前の誓いはなんなんや？」
アイズ「ずっと三人一緒にいられますように！だよ！あと強くなって姉さんを守るんだ！」
フィアン「ありがとうアイズ。では私はお二人の幸せを願って。」
アイズ「へへ…兄さんは？」
サイガ「よっしゃ！ワイの誓いは、お前らを命を懸けて守る！そしてフィアン…君を幸せにする。」
フィアン「サイガ…嬉しい…。アイズも…ありがとう。」
アイズの語り「そうして僕達は誓い合った。永遠の誓いだと思った。だけど…。」
アイズ「何で兄さん！今更何で天の国に行くんだよ！」
サイガ「お前には関係あらへん。」
アイズ「ふざけないでよ！姉さんはどうするの？」
サイガ「お前がおる。フィアンは任せるわ。」
アイズ「な、何言ってるんだよ！」
サイガ「ワイは天の国に行く。高みがワイを呼んどる。」
アイズ「どういうことなの？」
フィアン「サイガ！」
アイズ「姉さん！」
フィアン「何があったのですか？」
サイガ「………。」
フィアン「お答えになって下さい！」
サイガ「この国に飽きたんや。フィアン…お前にもな。」
フィアン「そ…そんな…。」
アイズ「酷いよ兄さん！誓ったじゃないか！『誓い石』にずっと三人一緒で、幸せになろうって！」
サイガ「ああ、あれか。ほら、もういらんわ。捨てといてくれへん。」
アイズ「あ……ふ…ふざけんなよっ！おらぁぁぁっっ！」
サイガ「無駄や。」
アイズ「ぐっ…。」
サイガ「お前は弱い……ワイは強い。弱い奴の言葉は、ワイには届かへん。」
アイズ「く……兄…さん…何…で…。」
サイガ「アイズ……強うなれ。その時は……。フィアン……すまない…。」
アイズ「兄さんっ！」
フィアン「サイ…ガ…。」
アイズの語り「サイガの喪失……国は荒れた。姉さんはしばらく口もきけなかった。サイガが天の国へ行き、まもなく騎士団長になったと知らせが届いた。今城に攻めこめられると確実に落ちる。だが不思議なことに、戦争は起きなかった。それはやはり、両国の王達が繋がっていたからなのか…。僕が十三歳になった頃、現騎士団長を討ち負かし、僕が騎士団長としての任に就いた。姉さんもようやく口がきけるようになった。だけど姉さんは…。」
フィアン「サイガ…どうして……ど…うし…て…。」
アイズ「姉さん…。兄さん…いや、サイガ！僕はアンタを絶対許さないっ！必ず報いは受けさせるっ！」
（現実へ）
アイズ「というわけだ。」
琴花「何なのサイガって奴！最悪にも程があるって！」
ノア「種族の違いか…。」
ユズキ「自分を愛してくれてる人達を裏切り、傷付けるなんて…。」
にゅう「許せないにゅ〜！成敗だにゅ〜！」
天満「ああ、サイガを変えた理由は分からないけど、サイガがしたことは許せない！許しちゃいけない！アイズ、行こう！」
アイズ「天満…。」
天満「俺は絶対裏切らない！アイズは俺をいつも助けてくれた。今度は俺が返す番だよ！」
アイズ「本当に変わった奴だな。」
天満「え？」
アイズ「お前は天のエルフなのにな。」
天満「見損なうなよ！種族なんて小さいことにこだわるような育て方はされてないんだよ！アイズはアイズ！俺は俺！生きてることに変わりないだろ？」
アイズ「ふ…そうだな。お前の言うとおりだ。」
シャウト「よしっ！とりあえず城を目指すわけなんだが、真正面から全員行くのは危険だ。よって二手に別れる。城の裏口にも何人か行くことにする。上手くいけば、敵を分断できる。」
ノア「誰が裏口に行きますか？」
シャウト「そうだな……天満、君が決めてくれ。」
天満「え？俺が？」
シャウト「この中で天満はもうリーダーみたいなもんだ。頼む。」
剣斗「異議なし。」
ミラァ「アタシは天満と一緒がいいな〜。」
天満「いいのか？」
皆「ああ。」
天満「分かった。それじゃ、俺、シャウト、ミラァ、アイズ、ノアは城の正面からだ。剣斗、琴花、ユズキさんは裏口を頼む。三人は敵に混乱を与えるよう動いてくれ。」
剣斗「任せときな！」
琴花「よ〜し！」
ユズキ「行きましょう！」
天満「じゃあ行こう！」
皆「おう！」
（二手に別れる。天満達城に到着）
ノア「静かですね…。」
天満「待ってても始まらない。行こう！」
アイズ「ここは？」
？「やあ、やっぱり来たんだね。」
天満「『ネオス』！」
ネオス「ふふ…あの舟をどうやって直したのか知らないけど、よく来たねえ。」
天満「真雪はどこだ！」
ネオス「奪い返したければ我が『黒皇の間』まで来ればいい。我が同志『五真将』を退けてね。では待ってるよ。あ、そうそう、アイズくんのお姉さんもいるからね。」
アイズ「サイガに伝えろ！首を洗って待ってろ！とな。」
ネオス「ふふ…。」
シャウト「行くぞ！」
天満「扉？ん？『紫音の間』…。開けるぞ。」
？「来ましたね。」
ノア「『イリス』さん！」
？「何度も言わせないで下さい。私は『シェイリア』です。」
ノア「ウェルカ…。」
ウェルカ「うむ。」
ノア「天満達は先に行って下さい。」
天満「え？でも…。」
ノア「時間は待ってくれませんよ！ここは任せて下さい。」
アイズ「行くぞ天満。」
天満「え？アイズ！」
シェイリア「行かせません！」
ノア「アナタの相手はこの僕です。さあ、急いで下さい！」
天満「…わ…分かった。」
アイズ「エルフ嫌いくん。」
ノア「な、何ですかっ！」
アイズ「死んだら殺すからな。」
ノア「矛盾してますが、分かりましたよ！」
シェイリア「まあいいでしょう。ノア……覚悟は出来ていますね。」
ノア「ありますよ。アナタを止める覚悟が！」
次回に続く
