第一劇 『初動』
母「今日は早く帰ってこれるの?」
天満「ごめん、今日も部活があるから…。」
母「そう…くれぐれも『アレ』には気を付けてね。」
天満「大丈夫だよ。俺は『アイツ』とは違うから…。じゃあ行ってくるね。」
母「…行ってらっしゃい。」
天満の語り「ここは、俺が住んでいる町『白咲町』だ。三歳の時に引っ越してきて、それからずっと住んでいる町だ。だけど…俺はあまり好きじゃない町なんだ。いや、どこに行っても、好きにはなれないだろう。『アイツ』がいる限り…。」
?「天くん!」
天満「ん…ああ…『真雪』か……おはよう。」
真雪「なあに?幼なじみに会ったのに、もっと元気に挨拶できないの?」
天満「ごめん…今日はちょっと…。」
真雪「も、もしかして…『あの人』が…?」
天満「ああ、気を抜けない日になりそうだよ…。」
真雪「…ねぇ?」
天満「何?」
真雪「天くんのこと…『琴花』達に…。」
?「大変だっ!」
天満「な、なんだ?どうしたんだよ『剣斗』?」
剣斗「と、とにかく大変なんだよ!校舎が…!」
天満「校舎?」
真雪「校舎がどうかしたの?」
剣斗「とにかく、その目で確認してくれ!」
(走って学校に行く)
天満「はあはあはあ…!こ、これは…!」
真雪「何これ?どういうことなの?木?」
剣斗「そうなんだよ!校舎と木が合体してんだよ!何が起こってんのか、サッパリ分からない!」
?「真雪!」
真雪「『琴花』!いったいどうしたの?」
琴花「分からないよ!朝練で学校に来たら、こうなってて…。」
?「待っていたぞ…早く来い…お前達を待っていた…。」
天満「はっ!声が…どこから?」
琴花「どうかした?扇くん…?」
天満「今声がしなかったか?」
剣斗「そりゃさっきから先生が大声で生徒を鎮圧してるからなぁ。」
天満「違う!もっと歳のとった、じいさんみたいな声が聞こえただろ?」
剣斗「何言ってんだ?どこに歳のとったじいさんがいるんだよ?」
真雪「天くん…?」
天満「俺しか聞こえてない?だけど、お前達って言って……はっ!」
(天満は走って声のする方に行く)
真雪「天くん!どこに行くの!」
(真雪は追う)
剣斗「どうしたんだよアイツ…?」
琴花「さあ…?私達も行く?」
剣斗「しょうがねぇな。」
(剣斗、琴花も後を追う)
天満「はあはあはあ……ど、どこだ…?」
?「こっちだ…早く来い…。」
天満「くそっ!」
(ふと、一軒の駄菓子屋に目がいく)
天満「こんなところに駄菓子屋なんてあったっけ?」
?「やあ…。」
天満「はっ!誰だっ!」
?「ふふ…私か?」
天満「その声…!」
?「そう、私が君達を呼んでいたのだよ。」
天満「じいさん…じゃないな……人間でもない……の…か?ま、まさか…?」
?「そう…君と同じだよ。いや、正確には君と似た存在とでも言っておこうか。私は純粋だからな。」
天満「エ…『エルフ』…!」
?「ふ…私は『天のエルフ』の『水鏡司郎』という。」
天満「母さんを…狩りに来たのか?」
水鏡「そうだとしたら?」
天満「絶対に阻止する!あんたを殺してでも!」
水鏡「今の君は私と同じ天のエルフじゃないのか?それとも…『地のエルフ』を守るつもりなのかい?」
天満「やっぱり俺のことを知ってたんだな?」
水鏡「『俺』じゃないだろ?『俺達』じゃないのかい?」
天満「う…。」
水鏡「ぜひ『地の君』とも話をしたいな。」
天満「なっ!なぜそんなに詳しく知ってるんだ?『アイツ』のことは…。」
真雪「天くん?」
天満「真雪!」
水鏡「ほう、この駄菓子屋が見えるのですかな。どうやら『法術』の素質がある娘みたいだ。」
真雪「何してるの?早く学校に戻らなきゃ。」
天満「エルフ!あんたに母さんは狩らせない!」
真雪「えっ!」
水鏡「止めておきなさい。私の力は君を遥かに上まっているよ。まあ…『もう一人の君』なら話しは別だがね…。」
真雪「天くん、この人もしかして…?」
天満「ああ、『アイツ』を…『地門』を知ってる!」
真雪「嘘…なんで?」
水鏡「なぜ、そのお嬢ちゃんが知っているのかが気になるが、まあいいだろう。」
天満「くっ!」
水鏡「そう構えなくてもいい。私は君達にある事を伝えに来ただけなのだよ。」
天満「ある事?」
水鏡「今我々の世界で天と地のエルフによる、戦争が始まろうとしている。幸い、まだ小さな争いしかしてないが、いつ大戦が勃発してもおかしくはないのだよ。」
天満「そんなの、俺達には関係ないだろ!」
水鏡「校舎…。」
天満「あっ!」
水鏡「こっちの世界にも影響が出る。エルフの世界と人間の世界は表裏一体。一方が傷つけば、もう一方も傷つく。」
真雪「そんな…でもそっちの世界が勝手に争ってるだけでしょう?私達の世界まで巻き込まないで下さい!」
天満「真雪…。」
水鏡「お嬢ちゃん、言わなかったかな?一方が傷つけば、もう一方も傷つくと。」
真雪「だから、私達……あっ!」
天満「そうだ…こっちの世界でも人間同士の戦争は起きてる。ということは…。」
真雪「う、うん…。」
水鏡「だから戦争を止めたいのだよ。そのために君達に会いに来た。力を貸してもらうためにな。」
天満「…母さんをどうするつもりだ?」
水鏡「君達が力を貸してくれれば、我々も君達の母上を全力で守らせてもらうよ。もちろん、天のエルフは君達の母上から手を引く。」
天満「…分かった。」
真雪「天くん!」
水鏡「今日の0時に出発する。」
天満「ああ…分かった。行こう真雪。」
真雪「う、うん…。」
水鏡「ふふ…なるほど……どことなく面影があるな…。」
(駄菓子屋から出て家に帰るところ)
真雪「天くん!本当に信じるの?あのおじいさんが言ってたこと!」
天満「真雪、お前は気にするな。母さんは、俺が守るんだ!」
真雪「天くん…でも…私は…。」
天満「俺はこの町は好きでもない。だけどそれでも、母さんと10年以上過ごした町だ。だから守る…。それに……真雪もいるし…。(ボソ)」
真雪「えっ?」
天満「な、何でも無いよ!アハハハ…じ、じゃあ元気でな!」
(天満、家まで走る)
真雪「あっ!天くん!」
剣斗「おおーい!真雪ー!」
真雪「剣ちゃん…。」
琴花「あれ?扇くんは?」
真雪「…うん………あ…あのね、実は…。」
(天満、家に到着)
天満「ただいま…。」
母「あら、どうしたの?学校は?」
天満「え?あ…き、今日は創立記念日だったんだよ!忘れてたよ、アハハ!」
母「そうだったの?本当にドジな子ね。」
天満「今日は部屋でゲームでもするよ。」
母「はいはい。」
(部屋に行く)
天満「ふぅ……あのエルフ……。そういや、この部屋ともしばらくお別れか…。俺がいきなり居なくなったら母さん、驚くだろうな…。一応…手紙書いとこう。母さん…勝手に決めてごめんね…。」
(時間が過ぎ夕方になり、夕飯を食べる)
天満「うん!美味しいよ!おかわり!」
母「今日は部活もしてないのに、何?その食べっぷり!」
天満「だって…。」
母「天満?」
天満「だって美味しいからね!忘れたくないし!」
母「え?毎日食べてるでしょう。おかしな子ね。」
天満「…ねえ、母さん。」
母「何?」
天満「父さんは…母さんを守れって言って……あの時…。」
母「よしなさい……たとえ禁じられた出会いだったとしても、母さんはあの人を誇りに思うし、後悔なんて全くしてないわ。あの人のお陰で私の世界は広がったもの。」
天満「母さん…。」
母「それに母さんは、あなたを授かって、すごく良かったと思ってる…。」
天満「ありがとう…母さんは俺が絶対守るから。父さんの変わりにね!」
母「ありがとう。そのためにも、いっぱい食べなきゃいけないわね。」
天満「うん!」
母「…天満?」
天満「何?」
母「あなたは…。」
天満「ん?」
母「………。」
天満「母さん?」
母「ううん、なんでもないわ。」
天満「…そう。……ごちそうさま!さて、宿題しなきゃ。」
(部屋に行く)
母「天満…ごめんね…。」
(そして、11時30分)
天満「そろそろ行くか…。母さんも寝たみたいだし…。……じゃあ行ってきます、母さん。…ん?これは…?」
(靴箱の上に手紙)
手紙「何を悩んでいるのかは分からないけれど、天満ならきっと、良い答えを見つけられると思うわ。大いに悩み考えなさい。そして、お父さんのように強くなりなさい。あなたには、強い星と月が味方になっていることを忘れないで。私の愛する天満へ。母より。」
天満「か、母さん…。これは…バンダナ?…ありがたく貰っとくよ母さん。強くなるよ…誰よりも。じゃ、行ってくるね…。」
(家から出る、そして残された母)
母「天満…行ってらっしゃい…。守ってあげて下さいね、あなた…。」
(駄菓子屋に到着)
水鏡「ほう…良い目になったな。」
天満「さっさと行こう!」
剣斗「俺達を置いてか?」
天満「えっ!剣斗!お、お前ら!なんで?」
剣斗「真雪に全部聞いたよ。」
天満「なっ!真雪っ!」
真雪「何も言わないで。私も一緒に戦う。」
天満「はあ?遊びじゃないんだぞ!ふざけてる場合じゃ…!」
琴花「分かってないなぁ〜。これだからニブチンは困るよねぇ。」
天満「琴花まで…。」
琴花「へへ!」
水鏡「ほう、三人も『法術』の素質があるとはな。」
天満「あんたは黙ってろ!ダメだ!危険過ぎる!向こうは俺達の世界と違って、死ぬことだってあるんだぞ!」
剣斗「お前、俺達が面白半分で首を突っ込んでると思ってんのか?」
天満「でも…。」
琴花「私達の世界は私達自身が守る。当たり前のことじゃない!」
剣斗「そういうこった!」
天満「いい…のか…?」
真雪「一緒に行こう!天くん!」
天満「…ありがとう…。」
水鏡「では、行こうか。さあ、この鏡の前に立ちなさい。」
天満「一つだけ約束してくれ。『地門』が出てきたら、どんな手を使ってもいいから俺を気絶させてくれ。いいな!」
水鏡「承知した。」
天満「じゃあ行こう!エルフの世界『オルテナ』へ!」
皆「おう!」
次回に続く