睡蓮の決意
悠里のお世話役から悠里が泣いている事を聞いた睡蓮。
近くに居たパーピーも泣いてる理由を知っていた。
だがそれだけに何もしてあげられず…
『睡蓮様…あの、折り入ってお話が…』
睡蓮は仕事から戻った後、悠里の元へは向かわずに執務室へと戻った。
もちろん、今回出かけた事を報告する為だ。
紅…魔王だけになら口頭でもいいのだが、他の家臣への報告も必要とあらば仕方がない。
その睡蓮の執務室に入ってきたのはパーピーと同じく悠里のお世話をする睡蓮の使い魔。
「どうした?」
『…夜な夜な…悠里様はたびたびお目覚めになられ、泣いておられるご様子で…』
その使い魔の話によると度々悠里は目を夜中に覚まし、泣いているという。
パーピーすらどうして泣いているのかと聞いても話してくれず、ただ泣くのだという。
で睡蓮が帰ってきたらこの状況をどうしたらいいのか聞いて欲しいとパーピーから頼まれたのだと。
「…泣いてるの?悠里が?」
『はぃ。しかも酷く強張った表情を一瞬だけ浮かべられて…』
私達に気づかれないようにすぐに笑われますが…
その笑顔が少しムリやりのような気がしたので…
この使い魔が気づいているという事はパーピーもその事実に気づいているだろう。
だが、悠里の傍を離れるわけにはいかない。
でこの子に頼んだというのだとすぐに察しはついた。
「判った。悪いんだけど、これ紅の秘書に渡して、それからアスタロトにも伝言を」
『かしこまりました』
睡蓮は今まで着ていた甲冑を脱ぎ、いつものような使女姿に変わるとすぐに悠里の元へと歩き出す。
どうして夜泣くのかはわからないが、それを聞いたところでたぶん答えないだろう。
ならば、その場で聞けばよい。
そう思ったからだ。
コンコンコン
「どぉぞ」
『失礼します』
「あ、スイレン」
笑顔の悠里が睡蓮に気づいて笑顔を浮かべる。
『ただいま戻りました。悠里様』
「おかえり。スイレン」
その近くには当然のようにパーピーが居た。
「今ね、パーピーにお話読んでもらってたの」
うれしそうな悠里の顔に睡蓮も思わず笑みを浮かべる。
そして、同時に心配になった。
どうして悠里は泣くのだろうか?と。
紅がしたことは消せない。
たとえ魔法を使っても。
記憶消去はもちろんできる。
だがあえてしないのはそれを含めて悠里に紅を好きになってもらいたいから。
今はムリでもゆっくり事が進めばいい。
そう思っているから。
だが、あまり長く待てないのも事実。
悠里には…というか人間には寿命が当然のことながらある。
睡蓮達もないわけではないが、事故、もしくは暗殺でもされない限り数千年は軽く生きる。
だから魔界の者が人間を手に入れるためにはある儀式を行う必要がある。
それは半魂の儀と呼ばれ、文字通り魔物の魂の半分とその人の魂の半分を分け合う儀式。
行わなければ悠里は時間が経てば死んでしまうのも問題の一つ。
でもまだ悠里は4つ。
暗殺でもされない限り大丈夫。
そう、暗殺でもされない限り…
夜、皆が寝静まる頃、悠里のすすり泣く声が聞こえる。
「…っく、おかぁさぁん…おとぉさぁん…」
聞こえてきた言葉に睡蓮は部屋に入るのを躊躇った。
父親や母親を殺された瞬間を夢見てしまっているのだ。
辛い記憶…
それを作ったのは自分の弟。
判っているからこそ躊躇う。
自分にその資格があるのか…と。
「…っく…ひっく…」
鳴き声が聞こえる…
これをどうにかする事は出来ないの?
「おかぁさぁん…おとぉさぁん」
泣きじゃくる悠里をパーピーもあやす事しか出来ないだろう。
『ごめんね…ごめんなさいね、悠里…』
睡蓮はただ、ドアの前で立ち尽くし、ドアに手を当てて誤るしかなかった。
どんなに寂しかっただろう…
どんなに辛かっただろう…
睡蓮も判ってはいた。
悠里が幼いということ。
でも睡蓮が考えているよりも更に悠里は苦しんでいたのだ。
魔界に急に連れてこられて、状況を理解しようと一生懸命だったのだ。
判ってた…いや、わかっていたつもりだったのだ。
だが、あまりにも悠里は幼い。
幼すぎる事を失念していた事に怒りにも似た感情を抱いた。
『時期尚早だったのかもしれないわね…』
ドアを開けると困ったようにパーピーが睡蓮を見上げる。
『パーピー、私が変わります。あなたは戻っていいわ』
ご苦労様。
そう睡蓮にいわれ、パーピーは睡蓮の陰へと戻っていく。
『悠里…ごめんなさいね…』
本当に…ごめんなさい。
謝ってすむ問題じゃないのは判ってるのよ。
でも、でも……、言葉が出てこない…
「おかぁさぁ…ん、おとぉさぁ…ん…」
泣き続ける悠里にパーピーも困り果てているのがわかる。
『どうしたものかしらね?』
人間界に行っていた睡蓮はもちろん仕事だが、悠里の教育係として少しでも役立てる物がないかと
探す目的もあった。
『あ、…そういえば…』
歌詞までは覚えてないが…音だけは覚えてきた。
『パーピー』
呼べばパーピーは悠里の影から出てきて睡蓮の傍に寄る。
『私のハープ持ってきてもらえるかしら?』
「…はぃ。」
ドアをあけて悠里の傍から離れたパーピーが持ってきたハープ。
そのハープによって奏でられる音が部屋を満たす。
ゆったりとしたその音色に悠里の顔がだんだんと安らかに変わっていく。
鳴き声は小さくなり、変わりにかわいい寝息が聞こえる頃、睡蓮はハープを一度止めた。
『本当にごめんなさいね…悠里』
そっと悠里の頬に掛かった髪を横へ長し、ハープを持って立ち上がった。
『パーピー、後は頼みましたよ』
部屋を出て行く際、そう小さく睡蓮は告げた。
パーピーはそれを見て頷き、悠里の傍へと戻っていった。
睡蓮の決意ですね。
これから展開があります




