連れ去られた少女
4歳の誕生に起こった異変。
それに小さな悠里はどう立ち向かっていくのか…
そしてこれからどうなるの?
『来い!!我が花嫁』
彼は静かにそう呟き、幼い子の手を取った。
彼はただ静かに何の前触れもなくその子の前に現れ、その子供にそう呟いたのだ。
そして、その子供の父親と母親が彼を止めようと近づくと、
『邪魔をするなっ!!』
そう言ってただ、手を振り上げただけだった。
たったそれだけなのに…
「父様…母様…」
子供の前に倒れた父親と母親に近づく事をその男は許さず、子供を米俵を担ぐがごとく担ぎ、そのまま外へと連れ出した。
倒れた二人の体はよもや人とはいえぬ、物体。
鮮血で汚れた床、汚された家…
それはとても衝撃的な日だった。
その子供の名は白井悠里。
今日は悠里の誕生日だった。
4歳になる娘の誕生日を祝おうと早く帰ってきた父親と
いつも以上に楽しそうな母親の顔を見るのが凄く好きだった。
なのに…今悠里を担ぎ上げている男はただ一言、面白くなさそうに笑った。
「フンッ!」
行くぞ。
庭に出た彼は何もない空間に空いた穴へと姿を消した。
その見知らぬものに恐怖を抱き、悠里は声を発する事が出来なかった。
その後どのくらい時間がたっただろうか…
彼が悠里を下ろしたのは…
「ここが今日からお前の部屋だ。好きにしろ」
そういわれて初めて感じる床の感触。
畳の部屋であることは分かった。
そして差し込む光りが月明かりである事も…
彼はそう言ったっきり声が聞こえないと想ったらもうそこにはいなかった。
悠里は初めて窓が開け放たれている事に気づき、庭に通じる縁側まで歩いていった。
見えたのは自分がいた家とは違う庭の様子。
和風な感じにまとめられ、白い砂が敷き詰められている庭。
状況を判断するにはまだ幼すぎるため、何が起こったのか理解すら出来ずに縮こまっていた。
ただ、分かっているのは父親と母親はもういないという事だけ…
自分の四歳の誕生日に誰も祝ってくれる人がいないという事。
自然と涙が溢れ、悠里は庭へと足を下ろした。
月の光りは優しく、まるで悠里を包むかのように光が差し込む。
それにつられて涙が溢れる。
だが、ここで泣いてしまう事に恐怖を感じた。
どっかであの男が見ているかもしれない。
もしかしたら自分も父や母のように殺されるかもしれないという恐怖感が声を殺させていた。
“父様…母様…”
心で叫び、涙を流す悠里。
ただ静かに、そこに蹲り、涙を流し続けていた。
一方彼はというと悠里とは正反対に大いに満足していた。
悠里が生まれて早4年。
ずっとこのときを待っていたのだ。
誰にも邪魔などさせるはずはない。
「紅様…やけにご機嫌ね」
どうしたの?
「何でも、望んでたモノがようやく手中に収まったとか」
聴いたけど・・・?
「そりゃめでたい」
あの人の機嫌が悪いとこっちにも被害が出るからね。
それを防げるならそれに越した事はないってもんよ。
使女の言葉にも耳を傾ける余裕すらない。
「でも、あの方の望んでいたモノって?」
「……さぁ?」
使女たちもそこまでは分からない。
だが、主である紅が良いなら良いのだと解釈した。
「…すぅ……」
ひとしきり泣いた悠里は庭近くの縁側に寄りかかって眠っていた。
その悠里は今、少年にだっこされて部屋へと戻されていた。
「よぃしょっと」
きちんと悠里が眠れるように布団を敷き、横たわらせ、掛け布団をかけると少年はにこりと微笑んだ。
小さな寝息にほっとした少年はそのまままた庭の方に歩き出した。
そして、眠っている悠里に呟く。
「おやすみ、お妃様」
彼の名前はウィル。
使い魔の一人であった。
そう、彼は知っていたのだ、自らの主の妃であるということを。
悠里に起こった異変。
さぁ、どうなる!?
ウィルって何者?