第7話 命の恩人
間一髪のところを助けられた治、これで事件は終わるのか?
「完……に、……断さ……のだ……思っ……、妙……な。」
「は……、も……と報……た能……違っ……性も……ます」
声が聞こえる、どうやら会話をしているようだが内容をはっきり聞き取ることができない。
意識は少しずつはっきりとしてきた、視界にも徐々に光が戻る。
「ここは……」
辺りを見渡す、どうやら部屋のすみに寝かされているようだ。古びた室内にはまるでこの部屋の一部であるかのように、年季の入っているであろう道具が並べられている。
「どこなんだ……」
疑問を解消するため、とりあえず起き上がろうとする。しかし、
「痛っ……ぐっ!」
左腕に激痛が走り起き上がろうとするのを妨げる。その痛みはさらに、さっきまでの記憶を呼び覚まさせる。
「 そうだ、確か……」
俺は、塾からの帰り道、謎の人影、恐らくは今世間を賑わせている通り魔に襲われた。そして……どうなった? 必死に思い出そうとするが、思い出せるのは俺の前に立つ人影がこちらに刃物を持った右腕を掲げた瞬間までだった。
俺は……助かったのか? それとも、ここが所謂死後の世界というやつなのだろうか?
そんな答えの出ない問いに頭を悩ませていると、部屋の扉が開き、1人の女性が現れる。
「おお、目が覚めたか。安心しろ、君は死んではいないよ。」
年齢は20代後半だろうか、若々しくもありながら大人びた雰囲気をもつその女性はおれを見ると、いきなりそんな事を言い出した。
「いったい、どちら様ですか? 俺はどうなったんでしょう?」
素直に思ったことを口にする。目の前の彼女は小さく微笑みながら口を開く
「いや、いろいろ聞きたい気持ちはよく分かるが、まずは君の名前を教えてくれないか? 私たちも、今しがた気絶している君を運んできたところだ。君の事は何も知らない。」
言われて、慌てて気づく。冷静に考えれば恐らく、彼女はおれを助けてくれた命の恩人だろう。しかも、多分初対面だ。そんな人に自己紹介もせずいきなり質問責めとは……失礼にもほどがある。
「すいません、俺は九十九治と言います。助けて……くださったんですよね? ありがとうございました。」
「ふむ、私も自己紹介をしようか、私の名前は菜月だ。このリサイクルショップの店長をしている」
リサイクルショップ? これはまた珍しい店を開いているもんだ。それに、
「苗字は……何というんですか?」
流石に年上の女性を名前で呼ぶのは少し気が引ける、彼女がなぜ名前のみを名乗ったかは分からないが、会話をする上で相手を呼ぶのにぎくしゃくしていては不便だろう。
「ああ、すまないね。苗字にはあまりいい思い出がないんだ。だから気兼ねなく菜月さんと読んでくれて構わないよ。」
それなら仕方ないか……と思い頷くが彼女はさらに話を続ける
「君だって、苗字で呼ばれるのはあまり好きではないだろう。つ、く、も、君」
ぐっ……痛いところをつかれた。確かにおれ自身、この奇妙な苗字で呼ばれる事に少し抵抗があるのは事実だ。
「分かりました、菜月さん。ところで、俺はどうなったんでしょう。」
これ以上傷口が広がる前に話を戻す。
「君の想像している通りだと思うがね。君は通り魔に襲われ、痛みと出血で気絶した。そして、とどめを刺そうとされていたところを助けられ今ここにいる。」
「あなたが……助けてくださったんですか? いったいどうやって?」
相手は凶器を持った殺人鬼だ、彼女が武術の達人などでもない限り、同じように襲われてもおかしくない。
「いや、助けたのは私じゃない。私はあいつに頼まれて君をここへ運んで治療しただけだ。ほら、命の恩人がきたよ。」
といって彼女は扉の方を向く、彼女の視線を追いかけた先には
「あ……目が覚めたんだ。良かった……無事で。」
多くの勾玉を首にかけた、見覚えのある少女が立っていた。
退屈なパートほど進むのが遅い……