半神人だけど新人
その次の日、獣騎は反壱に乗りエンに向かった。
天凛山の南にあるその都市は、心地の良い温風が通る。
ビルが多く並んでいるこの町の一角に話の建物があった。
五階くらいの高さの建物に看板が掛かっている。
『神人縁仁相談所』
「ここかー。」
反壱から降りて見上げたビルの入口に入っていく。
中に入ると客人を迎えるような雰囲気は無く、人気のない廊下を進み
壁に掛かっていた案内板を見る。
1F:玄関
2F:
3F:
4F:
5F:室長室
「若様~、これ2階から4階には何も入っていないんですかね?」
「そんなことは無いだろうけど。…ま、とりあえず。室長室っていう五階に向かおうか。」
廊下の脇に階段を見つけ登っていく。
まるで人の学び舎のような階段を上がり終わると。
廊下に並ぶ三つのドアの内一つに室長室と書かれたルームプレートが貼られていた。
「…ここか」
ノックをしてドアを開けた。
「失礼します。四神殿から参りました。獣騎で……」
「誰もおられませんねぇ」
後から入る反壱がすたすたといつの間にか人になり正面にあるデスクに向かうが
そこには誰も座っていなかった。
「どういうことだろう。…まさか、話が行ってないのか?」
そう考え困っている所に勢いよく階段を上る音が聞こえた。
近づいてくる音はどうやらここに向かっているようだった。
もしかして、神人縁仁の室長とやらが来るのではないかと期待して待つと
勢いよくドアが開いた。
「室長!!まったく忙しいのに遅刻するなんて…っ!?お、お客様!!」
「え、あ。いや、私は…」
「あああ、すみません。すみません。すみません。そこにおかけになって座って待っててください。お茶出しますから!!」
入ってきた女の子は獣騎と反壱に謝り、獣騎達の話を聞かずにバタバタをお茶を出しに向かった。
「え、あ!ちょっ…あー。」
「若様…」
憐みの目を向けてくる反壱をよそにとりあえず、すすめられた入り口付近のソファーに座った。
一応、ここは話し合い用の場所らしい。
「すみません。うちの室長、どっか出かけているみたいで」
彼女は長い薄紫の髪を耳に掛けて謝ってきた、幼い顔だちだが髪と同じ色のスーツの曲線が彼女の発育が良いことを強調してくれている。
「(ぼっきゅん)……っと、あの、お名前をうかがっても?」
心で思ったことを言いだしそうになったのを飲みこんで彼女に声を掛けた。
「あ、すみません!私ったらご挨拶もせず。私は神人縁仁相談所の室長秘書をしています。ハスミと申します。一応、ハスの花の妖怪です。」
妖怪という言葉に花の美しさが濁った感じだなと内心思いながら反壱はお茶をすすっている。
「あ、獣騎と言います。こっちは連れの反壱。今日は室長さんに会いに来たのですが…えーっとハスミさんは、その話を伺っていますか?」
ハスミは、獣騎に問われ少し戸惑った顔をした。話は聞いていなかったのだろう。
「い、いいえ。伺っていないのですが…私でよければお聞きしますよ?」
「あ、えーっと。いえ、依頼や相談の類では無いので、室長さんが来られるまで待たせて貰ってもよろしいですか?」
「あ、はい。構いません。」
ハスミは頷いて自分の分のお茶を持って目の前に座った。
待つ間に神人縁仁について話を聞いておいた方がいいかなと思い獣騎はハスナを見る。
「あの、ハスミさん。」
「はい?」
「ここに来てお尋ねするのは変かもしれませんが、神人縁仁相談所ってどういう所なんですか?」
「え?あ、えーっと。そうですね昔、神と人が住む世界が違ったのは知っていますよね。1000年前、その二つの世界が重なって大きな戦争が起きたのですが、その戦争を止めたのが天神童王様です。結構、酷い戦いでしたよ。妖怪は人とも神とも少し違うので扱いが酷かったですし、仲間も沢山失いました。」
「……」
ちらっと反壱を伺うと彼も首を縦に振っていた。
「えっーと、ですね。その後、神と人、妖怪が同じ世界で暮らすことになったのですが、やはり怨恨はぬぐいきれるものではないで、寿命が長い神の方が人に対しての偏見が強かったりします。」
「なぜ?」
「えっと、ほら。人は寿命が短いので、戦争を知らない子孫は、直接的な恨みを神様には持っていないのですよ。だから特別な事情が無い限り神への怒りとか憎しみは薄いんです。それに比べて神は生きている時間が長いので認識を変えることが出来ないんですよ。あ、でも神の中でも優しい神様もいますよ。天神童王様も四神様方もお優しい方々です。…はっ、えっと。それで、私たちは、少しでも偏見や怨恨をなくすために神と人、妖怪の生活の中で起こる諍いや問題を解決するのです。…話がすごく逸れてしまったのですが、答えになっています?」
「…まぁ、なんとなくはわかりました。ちなみに…どういう風に解決したりするんです?」
「あ、それはですね!」
ガチャンッとドアが開く音がした。
そこから入ってきたのは薄紅色の髪をした女性だった。
彼女を見てハスミは立ちあがり声を掛けた。
「室長!お客さんがいらしてますよ!もう、何してたんですか~」
「ああ、ハスミおはよう。まーちょっと色々な。…君が獣騎か…で、こっちが反壱か」
赤み掛かった蜜柑色の目がこちらを見た。スレンダーな女性だが、どこか貫禄があった。
名を呼ばれた獣騎は立ちあがり彼女に近づいた。
「獣騎と申します。父からここに来るように言われ参りました。」
「ああ、今日から君はここで働いてもらう。ハスミ、こいつは新人だ。誰かと組ませて仕事を教えろ。」
「え!そうだったんですか?あわわ、誰がいるか急いで確認します!」
「ああ、あと済まないが…席をはずしてくれ。こいつらと話すことがある。」
「あ、はい。…じゃあ獣騎さん!これからよろしくお願いしますね。」
そう言って彼女は外へと出て行った。
室長と呼ばれた女性はデスクに向かい椅子に座って獣騎と反壱を見た。
「先ほどは命令口調で失礼を…お初にお目に掛かります。天神童王第三皇子、獣騎様。
私の名は、焔。四神の一人朱雀の娘でございます。…お父上よりあなたを預かることになりましたが…どこまでお話をお聞きに?」
「…いえ、ここに行けという話しと争いを治めよとの言葉だけです。」
「そうですか…。ここに寄こしたことに何か意味があるのでしょう。私は、お父上から貴方を預かるように言われております。
獣騎様、今から貴方を私の部下達と同様に扱います。これからあらゆる物事を己の目で、耳で、心で良くご覧になって行動してくださいませ。」
「はい。」
「それでは、軽く話したところで…獣騎。君の身分は、なるべく隠すように…なぜかは解っているな?」
焔は話し方を変えてきた…たぶんもう部下として見ているのだろう。
問いの答えは解っている。天神の子と解れば、良からぬ事をする神や人、妖怪が出てくるためだ。
「ええ、解っています。…あの、焔様は…」
「様は、いらん。室長か焔でいい。」
「あの…室長は、身分を隠していらっしゃるのですか?」
「部下と私と取引がある奴らだけは知っている。もちろん客には教えることは無い。…たまに客の中で解る奴もいるがな…」
「そう、ですか。」
「他に質問はあるか?無ければ、当分の仕事の相棒を紹介する。…とその前に…。反壱。」
「はい。なんでございましょう?」
「お前は、獣騎の共として来ているが…これからどうするのだ?」
焔に声を掛けられた反壱は一度頷いて答えた。
「私は、獣騎様がこれから住む下宿屋に顔を出しに参ります。獣騎様のお仕事が終われた時に出迎えを行うのが義務で…獣騎様がいらっしゃらない間は、近くの送迎社に勤める話が付いております。」
「初耳だ…」
確かに寝泊まりする場所とか一切聞いていなかったなと思いながら反壱の話を聞いた。
「あと、天神様と四神様方の伝達も行います。この後、四神殿に向うのですが、何か朱雀様にお伝えすることはありますでしょうか?」
「…そうだな。天神童王様には御子息をお預かりしたと、母上には…神住宅地区の整理についてご相談があると伝えてくれ。」
「かしこまりました。」
「さて、もう後は、部下の紹介だな。」
話が終わった後、反壱は下宿先が書かれている紙を獣騎に渡してその場から立ち去った。
彼と入れ違いでハスミと三人の男女が入ってきた。
「失礼します、一応、三人だけ居たので連れて来たんですが…」
「ああ、ありがとう。…さて、獣騎。後何人か居るがとりあえず、彼らを紹介しよう。」
獣騎の目の前に四人が並ぶ。
「右から…彼女は、北条。…ああ、人種も一応言っておいてくれ。」
人種とは、神、人、妖怪、半子といった種類の事。
「はじめまして、こんにちわ北条明海と申します。一応、人間です。」
マロン色の髪と瞳にふんわりとした髪型に合う話し方をする女性だ。
「はい、次。コンジキ」
「コンジキです。…妖子です。」
少し恥ずかしそうに話すコンジキは、キツネの尾を生やした少年だった。
「次。雨津。」
「雨津だ。雨を司る神だ。…まぁ、何かあったら聞くと良い。」
紺色の短髪に少し暗い瞳を持つ彼は、軽く獣騎を見るとふっと笑った。
「最後、これはさっき自分から紹介していたと思うが、ハスミだ。」
「はい。ハスミです。よろしくお願いしますね。」
「良し、じゃあ。獣騎…挨拶を」
焔は獣騎にあいさつを促した。
「はい。えっと。今日からお世話になります。獣騎と言います。…半神半人です。」
「半子か。」
「…半子。」
「半子なのですね。」
「半子なんだー。」
同時の呟きに少し戸惑いながら獣騎は続けた。
「えー。半子ではありますが、私は私がやれることをするためにここに来ました。解らないことがありますが、是非、教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。」
少し嫌な気持ちがよぎったため、頭を下げた。最初からこんな嫌な気持ちを持つのはさすがにマズイと思ったのだ。
それを悟ったのか、室長の焔が並ぶ四名を見た。
「お前ら、半子だから何だ?」
一瞬の沈黙を笑いが破った。
「ふふっ…っそんな。何だって聞かれても…半子だから何って私たちにとっては、神も人も妖怪も関係ないですよー。」
ハスミが笑いを押さえて、獣騎に話しかける。
「そういうことだ。俺たちは神人縁仁相談所だからな。半子だろうが何だろうが関係ないな。きっちり働いてもらうだけだ。」
雨津が獣騎に近づいて頭をワシャワシャしてきた。
子供扱い…ではなく新人に対しての歓迎の行為だろう。
「では、早速だが仕事だ。」
室長が腕を組み自分の席に座った。
資料を見せるため、机にあるスイッチでスクリーンを出した。
ハスミが部屋の灯りを消した。
降りてきたスクリーンに依頼内容が映し出され、写真の中に妖怪と人が映し出された。
「依頼は警備隊からだ。…新人がいるから説明するが警備隊は、ユラ国内で起こる事件の犯罪者や事故を起こした者を取り締まる。
でだ、その警備隊経由の依頼だ。被害者は妖怪、影光という男だ。家の中で寝ているところをこの女」
室長が写真をスライドした。
「この人間、平井恭子が殴り掛かってきたそうだ。隣人の助けを経て彼は逃げることが出来たが、彼女の方は行方がつかめていない。
…まぁ、こっちに出して来たってことは、警備隊の出る程の事ではないらしい。我々は彼女の素性をあらうのと並行で彼女の捜索を行う。
素性は、北条とコンジキ。捜索は雨津と…獣騎で行え。なお、獣騎!」
「はいっ」
「初の仕事が捜索だが、くれぐれも深追いするような行動は無しにしろ。それから雨津に仕事を教えてもらえ。雨津頼むな。」
「了解です。」
「では、各自調査を開始しろ。解散!」
灯りが付く前にコンジキは姿を消し、北条は室長にあいさつして外に出た。
「よっし、俺たちは都市内で彼女の捜索だ。
現在書き中。
目の色の名前が出てこないので、ちょっと図書館に行っています。
続き、少々お待ちください。
意外とサブタイトルをダジャレに持っていくのが好きみたいです。