旅の途中 3
その日のデイケアの活動も一日そつなく終わった。
私は外来の受付で会計を待っていると、松坂さんが私の前にやってきた。
「体調はもう大丈夫ですか?」と私に尋ねてきた。
「ええ、ずいぶん良くなりました。ニンニクもすりおろしましたし」と私はいつも通りに適当に答えていた。
「じゃあ、これを」と松坂さんは二枚に折り畳まれたメモを私に渡した。そして「それでは」と松坂さんは少し手を振り、私の目の前から去っていった。
会計を済んで、中西クリニックの扉から出た後に、ビル内の階段の隅っこで一人、渡されたメモを読んだ。山下さんに見つかったら、あれやこれや大変なことになる。
(今日、一緒にディズニーシーに行きませんか?OKだったら、シャノアールで待っていてください。松坂)
なんということだ!
私はこのメモを読んで驚愕した。これは、あの松坂さんが私をデートに誘ってくれているということではないか?NGなはずはない。私は中西クリニックの2軒先のビルの一階にあるシャノアールでアイスコーヒーを飲みながら、気を落ち着けて待った。
しばらくシャノアールで時間を潰していると松坂さんが、私の席にやってきた。
「西沢さん、本当に今日、体調は大丈夫?」
「もちろん、大丈夫です」
「少し夜遅くなってしまうけど、一緒にディズニーシーに行きましょうよ」
私には断る理由などなかった。
出来るだけ冷静を装い、「はい」と一言告げると「じゃあ、会計して行きましょう」と松坂さんはいつもの笑顔で答えていた。
松坂さんは近くのコインパーキングに愛車と止めているという。
「今日は遅刻しそうだったから、車で来ちゃったのよ」
松坂さんは茶目っ気のある顔で話すと、ペロッと舌を出した。
(可愛い!)
私は不覚にも、ときめいてしまった。
少し歩くとコインパーキングについた。松坂さんの車は赤のミニクーパーだった。
「可愛らしい車に乗っているんですね」と私は松坂さんに言い、なんとなく松坂さんらしいと思った。
「最近、洗車していないから埃だらけなんだけど」と松坂さんは謙遜して言った。
「いえいえ、私には埃一つも見えません」と私はまた訳の分からない受け答えをしていた。
「さあ乗って」と松坂さんに言われるがままに、私は助手席に乗り込んだ。助手席の前には小さなイルカのぬいぐるみが置かれていた。
松坂さんは何も言わず、車を駐車場から出し、車を走らせた