旅の途中 2
「西沢さん、気分は大丈夫ですか?」と優しくほほえむ女性の顔が私の目の前に現れた。
中西クリニックの看護士の松坂さんだった。
「ええ、少し・・・、ハハハ」
まずい、笑ってしまった。これではサボっているのがバレバレではないか。
「まあ、疲れたら、休んでいても構わないですからね」と松坂さんは笑顔で答えてくれたので、私はほっと胸をなで下ろした。
すると、なんと松坂さんは私の隣に腰掛けたではないか。
松坂さんは高校生の息子さんがいると言うから、それなりの年なのだろうが、全くそのようには感じられないぐらい若く見える。三十代と言っても誰も否定はしないだろう。しかもなかなかの美人だ。このデイケアでも男性陣から密かに人気が集まっている。
「今日は外の陽気がいいから、どこか遊びに行きたくなりますね」と松坂さんは私に話しかけてきた。
私は軽い気持ちで「松坂さんって、デートするなら何処に行きたいですか?」と変な質問をしてしまった。
「えー、うーん。そうですねえー」
あっ、まずい、私はなにを尋ねているのだ?
別に悪いことを聞いている訳ではないが、私は頬が熱くなるのを感じた。
「やっぱり、デートの定番はディズニーランドかしら」と松坂さんは普通に答えた。
私は賭にでた。
「ディズニーランドとディズニーシーに行くとしたら、どっちがいいですか?…私と行くとしたら?」と少し含みのある質問をしてみた。ソファーの隣でリワークプログラムに参加しているはずの井上さんが息抜きのためにか、ギターを練習していた。熱心に練習をしている様子だったから、我々の話など聞こえていないだろう。
「そうですねえ、ディズニーシーがいいかしら。ディズニーシーの方が少し大人の感じですからね」と松坂さんは答えていた。
「そうですか、私はディズニーシーに行ったことが無いから、そのうち行ってみたいですね」と私は返した。
そうこうしているうちに「ちょっと西沢さん」とスタッフの小林さんにサボっているのを見つかってしまった。
「今日は大量ニンニクのすりおろし必要なんですよ。だからね、男性陣に手伝ってもらいたいんですよ、頼んでもいいかしらあ?」と頼まれ、言われるがままにニンニクのすりおろし作業に入った。
私はニンニクをすりおろし作業を開始して少し経ってから、松坂さんが座っていたソファーを見やると既に松坂さんはいなくなっていた。