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リレー小説「恋愛編」  作者: 唐錦・綾鷹
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第3話 委員会 3

唐錦、いきます。

 映花は振り向くと、ペンを取りキャップを外した。背伸びをしてホワイトボードに文字を書いていく。依然彼女は台の上に乗ったままで、見ていて危なっかしい。

 一列の文字を書き終えると、こちらを振り向いた。俺は映花の頭越しにその文字を読む。

「私達は私立桜星≪おうせい≫学園高等部生徒会執行委員よ」

 映花は自慢げにそう言った。結局言うのなら、文字を書く必要はなかったんじゃないのか。

「生徒会執行委員?」

「そ。んで、私がその委員長」

 ペンで自分を差して彼女はそう言った。

「私立桜星学園の指標は自主・自立・責任。聞いたことあるでしょ?」

 俺は昨日の校長の挨拶を思い出す。そういえば、そんなことを言っていた気がする。無論、話の内容など覚えていないが。

 俺の返答を待たずに映花は続ける。

「それは上辺だけの言葉じゃないのよ。校長がドの付くほどの放任教育主義なものだから、生徒に任せられるモノはぜーんぶ生徒の仕事。各種校内イベントの企画・運営は勿論。校則の立案・廃止・施行までもが生徒任せ」

 そして、と映花はボードを振り返る。

「それを代表して行うのが、生徒会。各委員会活動の統率。すべての部活動・同好会の管理。部費の割り振り。果ては生徒ひとりひとりの悩み相談。ほかにも色々あるわ」

 映花は生徒会。と書かれた文字の周りにくるくると円を書きながらそう言い終えると、そこから一本の線を伸ばす。

「それの主要下部機関が私たち執行委員会。生徒会の決定を実行・執行するのが役割ね」

 線の先に、執行委員会。と書きながら映花は言った。

「と、ゆーわけで……」

 映花はキャップが外れたままのペンの先端を俺に突きつける。

「あんたを執行委員に任命するわ!」

「断る」

「なんで!?」 

 突拍子もない勧誘をつき返した俺に、意表を突かれたように目を見開く映花。そんなに意外か。

「こっちの台詞だ。そこでどうして俺が出てくるんだよ。それに、あの黒頭巾達はなんだ」

 俺は黒頭巾の群集を指差す。頭巾の通気性が悪いのか、息が少し上がっている者や、鼻の辺りが湿っている奴が何人かいた。

「あれはみんな委員よ。頭巾を被せたのはそれっぽくするため。別にいつも被っているわけじゃないわ。今日が初よ」

「それっぽく?」

「そ。おもしろいでしょ?」

 おもしろい……?それだけの理由でこいつらは頭巾を被っているのか。

 ふと、嫌な予感が頭をよぎる。

「まさか、俺を連れてきたのは……」

 俺の疑問に、映花はまた腕組みをする。

「もちろん、おもしろそうだからよ」

 唖然とする俺に、映花は構わず続けた。

「入学初日に心中未遂だなんて前代未聞よ。興味が湧いて当然じゃない」

 なんという利己主義な女なんだ。冗談じゃない。こんな奴と関わっていたら、俺の描いていた孤独で静穏な学校生活が崩れてしまう。

「九ノ瀬早矢の話は聞いていたけれど、あんたは思わぬダークホースだったわ」

 映花が重ねた言葉に、思わず反応する。

「九ノ瀬?まさかあいつも」

「もちろん委員になってもらうわよ」

 当然。といった様子で映花に返される。

「あっちは副委員長に任せてあるわ。ちょっと心配だけどね」

 その心配は何を指しての心配なのか俺には分からなかったが、九ノ瀬も今、俺と同じ状況にあるというのは把握した。無論、彼女も委員など断っていると思うが。

「でもやっぱり気になるわね。ちょっと連絡してみようかしら……」

 映花はそう言うと、上着のポケットから携帯電話を取り出し、どこかへかけたようだ。電話を耳に当てつつ俺を睨む。動くなよ、ということか。

 どうやら相手と繋がったららしく、幾度かの相槌のあと、映花の眉間に皴が寄る。

「何やってんのよ馬鹿眼鏡!!あんたの命に代えても探し出しなさい!!」

 いきなりの罵声に圧倒される。電話の向こうから小さく悲鳴が漏れる。どうやら女性のようだ。映花はそう言って乱暴に携帯電話をたたむと、舌打ちをしつつ俺を見る。表情は険しいままだ。

「九ノ瀬早矢が逃げたわ」

「みたいだな」

 先ほどの罵声でなんとなく事情は分かった。しかし、九ノ瀬が逃げる姿というのは、なかなか想像し難いものがある。この部屋にいるほど向こうは人がいなかったのかもしれない。

「あんた、今日は帰っていいわよ」

 突然の開放の言葉に面食らうも、九ノ瀬を探しにいくのだろうと思い至った。

「どうせ逃げられないしね」

「九ノ瀬には逃げられているじゃないか」

 俺の皮肉に片目を細める。

「うっさいわね。なんなら私の名前でも書いておこうかしら?」

 持っているペンを片手で振りながら不機嫌そうに言った。

「勘弁してくれ」

「……まあいいわ。返事はまた聞かせてもらうから。拒否権なんて無いけど。――ほら!あんた達!行くわよ!」


 映花は俺から目を離し、黒頭巾の群れへと歩いていく。

「え、これ被ったままですか……?」

 頭巾を被った女子生徒の一人が映花に言った。確かに映花の言うとおり、常に被っているわけではなさそうだ。

「あったり前じゃない!脱いだら処刑よ!」

 ざわめきとともに室内からぞろぞろと出て行く委員達がいなくなると、室内には俺と静寂だけが残った。

 あれだけの人数の捜索から、九ノ瀬は逃げられるだろうか。しかし、わざわざ俺が探し出して助ける義理も無い。どちらにせよ、俺に見つけられるようなら、先に執行委員達が見つけているだろう。


 俺は考えるのをやめて、出口へと向かった。


 部屋を出ると、廊下があった。薄汚れた窓から差し込む光に、舞った塵が照らされて光っている。人気はなく、造りこそ木造で古臭いものの、それが学校のつくりであると理解するのは一瞬だった。今いたのは教室で、角部屋に位置する場所のようだ。窓は目張りで塞がれ、黒板も取り外し、照明はダンライトになっているため教室の面影はほとんど無い。

 廊下を進んで行き、他の教室を覗いた。机や椅子が乱雑して埃が積もっているが、教室そのままの形が残っている。

 廃校舎。俺はそう直感した。学校の敷地にこんな場所があるとは知らなかった。敷地は確かに、異常と言える程広いが、配られた地図には載っていなかったはずだ。先ほどの一件が無かったら、俺はここを安息の地に決めていただろう。

 この階は最上階だったようで、何度か階段を降りなければいけなかった。昇降口を抜けると、ある程度見慣れた景色が視界に入る。

 しかし校舎の周辺の花壇や植木は整理されておらず、雑然となり、道には枯葉の絨毯が出来ていた。中世的なイメージの現校舎や付属施設から距離が離れているせいもあるのか、そこは異質な空間に感じた。まるで隔離施設のようだ。

 肩に落ちた枯葉を払うと、俺は高等部の現校舎を目指して歩いていく。


 桜星学園は小・中・高等部から成り、敷地も広い。東堂正樹から聞いた話だが、新入生が稀に迷子になり、移動授業に遅れるという話もあるくらいだ。中にはそのまま帰ってこない人もいた。という都市伝説もある。

 だから俺が自分の教室に戻ってくる頃には、俺はすっかり息を切らしてしまっていた。この距離を、あの親衛隊達は俺を担ぎながらあの短時間で移動したのか。大したものだ。

 放課後からかなり時間が経ったためか、校舎に生徒の姿はない。窓の外から運動部の弾んだ声が聞こえる。

 俺は自分の席から鞄を回収すると、家路に着いた。



 玄関を開け、ただいまと声を発するとともに、異変に気付いた。

 見慣れない靴がある。きちんと並べられた黒い革靴はサイズが小さく、おそらく女性のものだろう。

 俺の声に気付いたのか、祖父が居間から顔を出す。

「おう勢一。おかえり。友達きてんぞ」

「友達?」

 誰だ……。学校の人間に家の場所を言った覚えはない。ましてや女生徒。

「本人がそう言ってたから、お前の部屋で待ってもらってる。しかし意外だな。あんな可愛い子がお前の友達なんて。そもそもお前友達できるんだな!!」

 何がおもしろいのか爆笑している祖父を横目に、俺は靴を脱いで階段を上る。

 「あとで茶持ってくからなー」

 祖父の声は焦燥に掻き消された。一体誰が、何の目的で、俺の家に……。というか、勝手に部屋に入れるなよジジイ。空き部屋があるだろ。





 高ぶる緊張の中、俺はゆっくりと自室のドアを開けた。








読了感謝。思い立って連投しました。

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