第3話 委員会 2
唐錦。いきます。
「委員会……?君たちは九ノ瀬の親衛隊じゃないのか?」
目の前に居るのは女子、そして周りにいる者の異様な出で立ち。親衛隊の奴らとは雰囲気が違う気がした。
「ああ、あいつらにはあんたの拉致を手伝ってもらっただけ。報酬があれば結構便利に動いてくれるわ。限度はあるけどね」
報酬、という言葉が少し気になったが、なんとなく予想が付いたので無視した。
「じゃあ、君たちは……」
「委員会って言ってるでしょ!」
だからなんのだよ……。という言葉が咽から出かかった。委員会、という言葉だけでこの空間と周りの者達の存在に納得できるはずがない。しかし、まずはこいつらの存在は置いといて、今のこの状況を理解することを優先するべきだと俺は考えた。そうすれば自ずとこいつらがなんなのか分かってくるだろう。
「とりあえず、いつまでそうしてるつもり?」
腕組みを解いて、両手を腰に当てながら目の前の女子は言った。少し傾げ気味の目線は相変わらず威圧的だ。俺は立ち上がると、乱れたネクタイを正し、女子と向き合った。意外とその背は低く、俺の胸ほどが頭の位置となる。女子の平均身長からみても低いほうだ。
「生意気ね。座らせたままのほうが良かったわ……」
女子の眉間に皴が寄る、目線が変わっても、目つきはそのままだ。いや、むしろ険悪になったか。
「ちょっと、あれ持ってきて!」
彼女がそう言うと、一人の黒頭巾が返事をして彼女に近寄る。手にはコの字型の台を持っていた。彼女の前にそれを置くと、黒頭巾はそそくさと元の場所に戻っていった。
彼女が台に乗る。目線が俺とほぼ同じになると、彼女は片方の髪を後ろに払い、満足げに鼻息を漏らした。
一連の動作にあえて何も言わず、俺は彼女を見る。
「東堂映花よ」
台の上で腰に手を当てたまま彼女はそう言った。
「東堂?」
聞き覚えのある苗字に、思わず聞き返す。
「映花でいいわ。あんたのクラスに弟がいたわね。どうでもいいけど」
俺の意図を理解したのか彼女がそう答える。確かにどことなく面影はあるが、弟というよりは兄と言ったほうがしっくりくる気がした。
彼女の言う通り、今はどうでもいいと判断した俺はそれ以上は詮索しない事にした。
「まずは説明が必要ね。どこから始めようかしら……」
腰に当てていた片手を口元に持ってきて何かを考え始める。さっきからの質問にまともな答えを返さなかったのは無意識なのだろうか。
口元にあった手が俺を指刺した。
「というわけであなた、委員会に入りなさい」
「いやおかしいだろ」
どこから説明しようか、と言った直後に出てくるとは思えない発言を、俺は反射的に否定した。
「なんでよ」
「こんな得体の知れない会に、理由もなく入るわけがないだろ」
「ふーん」
俺の言葉に、映花は目を細める。
「初対面の女と屋上から飛び降りたのに?なんで?」
返答に詰まる。映花が何故それを知っているのかは大したことではない。彼女の弟もそれを知っていたし、噂は広がっている。
俺は何故、九ノ瀬と屋上から……。あの時俺は何を考えていたのか……。ただ流れるように手すりに手をかけ、彼女の手を握っていた。落下すればただでは済まない高さを、一緒に落ちた。死にたいとは思っていなかった。だが生きたいとも思っていない。
そういえば俺は、あの時の彼女の問いに、まだ答えていない。
「あなた、死にたいんでしょう?」
九ノ瀬が俺の質問を保留にした理由が、なんとなく分かった気がした。
「ちょっと、聞いてる!?」
俺の思考を停止させたのは映花の声だった。
「君には関係ない」
ほとんど言い訳だった。気の利いた返答を探すことができないまま、そんなことを口走る。
「もう、帰ってもいいか?」
溜息混じりにそう言った。もうこりごりだ。
「駄目に決まってるでしょ!」
映花がまた腕組みをする。俺は入り口に目を向ける。何人かの黒頭巾がそこに立ちふさがっていた。が、強行突破できなくもない。
「おかしなこと考えないてないでしょうね」
俺の視線に気付いたのか、映花が言った。
「それじゃあ、これが最後だ」
俺は映花の目を見る。
「説明してくれ」
「何を」
「全部だ。君と君たちの素性、何に属する執行委員なのか。俺をここに連れてきた理由」
「欲張りね」
「当然だ。もうからかうなよ」
「……いいわ。全部言ってあげる。もともと、そのつもりだったし」
映花はそう言うと、黒頭巾の群集に目配せをした。 何人かの黒頭巾が室内の端に走っていく。数人がかりで持ってきたのはキャスターの付いたホワイトボードだった。
映花の後ろに配置される。
「それじゃあ始めるわ!」
そう言って後ろ手にホワイトボードを勢い良く叩く。その衝撃でホワイトボードの盤面は中心を軸にしてぐるりと回転し、盤面の上部が映花の頭に直撃した。
彼女が台の上にうずくまると、数人の黒頭巾が彼女に駆け寄り、憂慮の言葉を口にする。彼女はそれを手で制して立ち上がると、何事も無かったように胸を張った。
これから説明される彼女と、委員会とやらの素性、その正体の片鱗を見た気がした。
読了感謝