34話 愉快誘拐助かるカーイ
管制室は、静まり返っていた。
割れたモニター。
床に残る焼け跡。
人がいた痕跡だけが、そこに残っている。
「……親父」
昇は、何度目か分からない名前を呼ぶ。
返事はない。
「……もう、ここにはいない」
焔が低く言った。
分かっている。
分かっていても、身体が動く。
昇は端末を操作し、
記録を探し、
通信ログを辿る。
だが――
どれも途中で切れていた。
「……転送先、追えません」
守の声が、静かに響く。
「痕跡が……残ってない」
剣は何も言わず、周囲を見ていた。
破壊じゃない。
奪取。
必要なものだけを、正確に持っていった跡。
「……探しても無理だな」
剣が、事実だけを告げる。
昇の手が、止まる。
「……は?」
「追えない」
「今の情報じゃ、どうにもならない」
それだけだった。
⸻
しばらく、誰も喋らなかった。
「……僕たち」
守が、ぽつりと呟く。
「何も出来ないんでしょうか」
焔が壁を殴る。
「くそ……!」
「目の前で連れていかれて」
「追うことすら出来ねぇのかよ……!」
昇は、床に腰を下ろした。
拳を、強く握る。
怒りもある。
悔しさもある。
でも――
それ以上に、どうしようもなかった。
「……俺さ」
昇が、低い声で言う。
「強くなったと思ってた」
「連携も出来た」
「守れるって、思ってた」
顔を伏せる。
「……結局」
「何も出来てねぇ」
誰も、否定できなかった。
⸻
施設内を、あてもなく歩く。
探しているというより、
動いていないと、立っていられなかった。
「……この先、行ったことあります?」
守が足を止める。
薄暗い通路の奥。
表示灯が点いていない区画。
「……いや」
昇が首を振る。
「親父、ここは触るなって言ってた」
「理由は?」
「聞いてねぇ」
いつものことだ。
⸻
扉は、施錠されていなかった。
押すと、静かに開く。
中は――
整理途中の研究室だった。
完成品はない。
ケーブルが剥き出しの装置。
未接続の端末。
書きかけの設計データ。
「……なんだ、ここ」
焔が、思わず声を落とす。
「研究……途中?」
守が周囲を見回す。
剣が、壁際の装置に目を向けた。
「……未完成だ」
「だが」
「放置された感じじゃない」
⸻
昇は、端末に近づいた。
画面には、まだ起動していないシステム。
タイトルも、説明もない。
ただ、保存された最新ログの日付。
――今日。
「……これ」
昇が、息を飲む。
「親父たち」
「さっきまで、ここにいたんじゃ……」
誰も、答えなかった。
言葉にするのが、怖かった。
⸻
完成していない。
説明もない。
使えるかどうかも分からない。
それでも。
「……何も無いよりは、マシだ」
昇が、ゆっくり言った。
拳を握る。
「諦める理由には、ならねぇ」
焔が、静かに頷く。
「……反撃の芽、ってやつか」
守も、息を吸い込む。
「まだ……終わってませんね」
剣は、短く言った。
「偶然でも、見つけた」
「それで十分だ」
⸻
奪われたものは、戻らない。
だが――
全てを失ったわけじゃない。
反撃は、
ここから始まる。




