29話 日常回です通してください 訓練回「よし、通れ」
訓練が終わっても、空気は重いままだった。
誰かが失敗したわけじゃない。
でも、うまくいったとも言えない。
剣が端末を閉じる。
「今日は、ここまでだ」
三人が顔を上げる。
「今のまま続けても、噛み合わない」
一拍置いてから、剣は続けた。
「……外で食事をしよう」
「え?」
昇が素で声を上げる。
「今それ言う?」
焔も少し驚いた顔をした。
守は戸惑いがちに聞き返す。
「……外、ですか?」
「戦闘から離れろ」
剣はそれだけ言って立ち上がった。
「頭を切り替える」
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久しぶりの街は、思ったよりも騒がしかった。
「……なんか久々だな、こういうの」
昇が周りを見回す。
焔はその空気を感じ取ったのか、わざとらしく肩を回した。
「よーし! じゃあここは一発――」
「無理するな」
剣の一言で、焔の動きが止まる。
「……はい」
焔は苦笑いした。
「バレたか」
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食事が運ばれてくるまでの間、少し沈黙が落ちる。
最初に口を開いたのは、焔だった。
「……俺さ」
箸を止めて、視線を落とす。
「火力出すのは得意なんだけど」
「出しすぎると、周りが見えなくなる」
「抑えようとすると、今度は迷う」
自嘲気味に笑う。
「面倒な性格だよな」
守が、静かに首を振った。
「……僕は、逆です」
三人が守を見る。
「止めることばかり考えてしまって」
「次にどう動くかまで、余裕がなくなる」
「迷惑をかけないように、って思うほど」
「動けなくなる時があります」
場が、少し重くなる。
その空気の中で、剣が口を開いた。
「……俺は」
短く息を吐く。
「指示が失敗した時」
「一番危険に晒されるのは、前に出ている仲間だ」
三人は黙って聞いていた。
「だから、今まで」
「自分にも、仲間にも厳しくしてきた」
視線を伏せる。
「それでも……」
「もし判断を間違えたら、と思うと」
言葉が、途切れた。
その沈黙が、妙に重かった。
焔も、守も、何も言えずに俯く。
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「なあ」
その空気を切ったのは、昇だった。
三人を見る。
「みんなで乗り越えようぜ」
少し照れくさそうに、続ける。
「俺さ、親父が理不尽すぎてさ」
「小さい頃、研究室に呼び出されて」
「『手伝え』って言われたから行ったら」
昇は肩をすくめる。
「何の説明もなしに、徹夜作業だったんだぞ」
「で、終わったら」
「『次から慣れとけ』だ」
焔が思わず吹き出す。
「ひでぇな、それ」
守も、少し驚いた顔をする。
「……それで、嫌にならなかったんですか?」
「嫌にはなった」
昇は即答した。
「でもさ」
少しだけ、真剣な顔になる。
「一人で抱え込むより」
「誰かと一緒の方が、まだマシだった」
三人の表情が、少し緩んだ。
距離が、確かに縮まった気がした。
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食事を終えた後、四人は街を歩く。
店先を覗いたり、他愛のない話をしたり。
剣も多くは喋らないが、
どこか楽しそうだった。
守は、少しだけ背筋が伸びている。
焔は、今度は無理に騒がない。
昇は、それを見て満足そうだった。
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その時。
昇の腕にあるブレスレットが、震えた。
《警告 施設に敵反応》
「……来たな」
焔が言う。
剣は即座に歩き出す。
「戻るぞ」
守も、強く頷いた。
「はい」
昇は、拳を握る。
「よし」
「戦闘だ!」




