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そんなこと言われましても

掲載日:2026/01/07

初めて投稿させていただきます。

設定などふわふわしている部分がありますが、ご笑納いただけますと、幸いです。


1/9 一部加筆修正いたしました。


2/4 本日、初の連載を始めました。

「三原色信仰の国を追われた無色の花嫁は、帝国で世界を彩る」

https://ncode.syosetu.com/n9901ls/

ぜひお読みいただけると嬉しいです。毎日連載がんばります!

あぁやはり、こうなってしまったのか。伯爵令嬢のカトリーナ・ド・モンフォールはそっとため息をついた。


「ジャン様、承知しました。婚約破棄を受け入れます。」


子どもの頃より、何も言われずとも視線やため息、ちょっとした仕草で、表面上の言いたいことがわかってしまう、やっかいな能力をもっていた。


私の前でイザベル・デ・ロハスの机を愛おしそうに撫で続けているのは、婚約者の侯爵令息のジャン・ド・デスタンだ。物憂げな表情を浮かべている。早くこの面倒なやり取りを終わらせて自由になりたいと思ってるんだわ。


隣国にも爵位によるルールがあるものの、情熱的な振る舞いが許される、かの国よりやってきた子爵令嬢の彼女に、彼がずいぶん前から思いを寄せていることを、私は知っていた。


決して私と視線を合わせない彼に失望しつつ、カーテシーをした後に静かに学園の応接室を出た。その間に、ジャン様から、すまない、申し訳ないといった類の言葉はなく、それも私の失望に拍車をかけた。


その後のことはよく覚えていない。王都の邸宅に戻り、事の顛末を話す私の前で、途端に両親が困った顔をして、イライラしたように腕を組み、眉間をトントンと叩き始めた。あぁ、こんな外聞の悪い娘がいるのが困るのね、それならば・・・


「しばらく伯爵領の別邸で謹慎いたします。」


そうして別邸での暮らしが始まった。別邸と言っても、通いの使用人がいるだけのため、住めるように最初は掃除からだった。私をはじめとする貴族なら誰もが使える生活魔法を使うことにした。


風魔法でチリや蜘蛛の巣やすす汚れを集めて掃除をした。次は水魔法で汚れを洗い流して、火を起こして簡単な料理を作ってみる。思いのほか体を使わなければできないことが多く、全身の筋肉が軋み、体力のない私には辛かった。


ただ、誰かの顔色を伺わなくてよい生活は、こんなに楽だったのかしら、と思うほど、静かで充実した日々が過ぎている。自分の考えで自分のためだけに使う時間は久しぶりだった。


両親の考えを読み、領地経営の仕事を手伝ったり、領民の不満が表に出る前に、先んじて解決したりした。刺繡など刺したのはいつぶりかしら。魔法でのちょっとした失敗などもあったけれど、生活していればそれくらいは誰でもあるでしょうと思って、クスっと笑ってしまった。


ただ、いくら生活魔法を使えると言っても、料理には限界がある。今までやったことがないため、レパートリーが少なすぎるからだ。通いの使用人が何かと作ってくれるが、朝作ったものは夜には傷んでしまうし、そろそろ自分以外の誰かが作ったパンが食べたかった。


思い切って、別邸を出て街のパン屋へ行ってみることにした。この地に来て、二週間以上引きこもりで住まいを整えたため、お出かけはとても新鮮だった。ここに来るまでひとりで身支度など整えたことなどなかったわと思い返しながら、


「この恰好でおかしくないかしら。」


と小さくつぶやいた。


今までひとりで買い物に出たことがないため、挙動不審になりながらたどり着いたパン屋の女将さんは、人のよさそうな女性だった。


遠目から見てもニコニコとしていた女将さんは、私と目が合った見た瞬間に少し後ずさり、目を見開いて怯えてしまった。久しぶりに人の表情を読んでしまい、ドロドロとした暗い気持ちがあっという間に広がる。これは・・・


「すみませんでした、ご不快・・・ですよね、すぐに帰宅いたします。」


スっと頭を下げて踵を返す私を見て、


「おや、そんなこと言ってないだろ。お貴族様にびっくりしただけさね。」


女将さんは困ったような笑みを浮かべていた。


「そう、そうなのですか。てっきり・・・。」


「勘違いさせて悪かったね。パンを買いに来たんだろう、さ、どれにする?」


今まで表情を読み違えたことなどなかった私は、心底びっくりして、返事ができなかった。今までは感情を読み、先回りして当たり前、言われる前に行動して当たり前だった。しかし、それが常に正しいとは限らないと、私は知った。


帰り道、庭仕事をしているご老人に行き交った。一人で高い枝を切ろうと苦悶の表情を浮かべているのを見て、思わず身体が動いてしまった。とても辛そうだったからだ。


「お手伝いいたします。」


枝を引き寄せようと、手を伸ばすと


「おい、俺の仕事を奪わないでくれ」


大きな声で言われ、ビクッと身体が固まってしまった。怒鳴り声を聞いたのは久しぶりだった。


「お嬢さん、ごめんよ。ただ、俺からこの仕事を取ったら何も残らねぇ。本当に大変な時は助けを求めるから、俺だけでできることは、やらせてほしい。」


一目で貴族の令嬢と見抜いたらしい老人が深々と頭を下げた。


そうなのね。辛そうだからと手を出しては、その人から仕事を取り上げることに繋がるのだわ。私が今までやってきた事って一体・・・・。


◇ジャン・ド・デスタンの苦悩◇

そのころ、隣国のロハス家のパーティーに参加していたジャン・ド・デスタンは困っていた。いつもは何も言わずとも、相手に意図が伝わっていたのに、イザベルにはなにも通じないからである。


「ジャン様、先ほどからなにもおっしゃらないので、つまらないですわ。なにか言葉を話してくださいませ。」


フンっと鼻先をあげ、扇子で顔を隠しているイザベルを前に、冷汗が出てきた。なにか話せといわれても、ほら、示しているじゃないか。空のグラスをもって、ボーイに視線をやっているのだから、飲み物を取りに行こうと言ってるだろう。なぜ伝わらない。


そんな様子をみていた貴婦人たちからクスクスと笑い声が聞こえる。


「あら、デスタン侯爵令息は言葉が話せないようですわ」


それを皮切りに、会場全体に嘲りの笑い声が広がっていくように感じた。言葉にしようと口を開いても、益々言葉が出てこない。ジャンが口をパクパクと開閉する様子に、イザベルは初めて彼を見た日のことを思い出した。


この人が私の運命だと思った。なんてかっこいいの。この私でさえ、惹かれずにはいられない美しい顔。ジャンが欲しくて、猛烈なアタックをしかけた。その時は無口なのがクールでかっこいいわ、なんて思っていたけれど。


「何も話せない侯爵令息なんてお断りですわ。せっかくあの女から奪ったのに、つまらない方」


格下の令嬢にこうも蔑まれ、めまいがするようだった。いつもそばにいたカトリーナが対応してくれていたから、言葉を発することを怠け、思考することもやめてしまった。あれに慣れてしまったら話す必要がない、言葉が出てこない・・・。父上、カトリーナ、助けてくれ。そんな都合のよい叫びはカトリーナには届かない。


◇モンフォール伯爵夫妻の混乱◇

モンフォール伯爵夫妻は本邸の執務室で途方に暮れていた。


「あら旦那様、その嘆願書の山はなんですの?」


「領民の訴えがこんなにも来てしまった。前は一通もみたことがなかったはずだが。」


二人とも、はてなんでだろう?と首をかしげるも、答えがわからない。


「これは冬季の食糧確保の件か。確か、カトリーナは半年くらい前に、領民が揉める前に、備蓄を開始するべきだと言っていたな。」


カトリーナがいた頃は、常に先回りして火種を消してくれていた。何も言わずとも、表情を読み取り、先んじて動いていた。


今までなら当たり前にできていた領地経営なのに、カトリーナ任せにしすぎた結果、驚くほどの盆暗になり下がってしまった。


あの子の味方をしなかったツケを、夫妻は今、払っている。カトリーナ、助けてくれ。そんな都合のよい叫びはカトリーナには届かない。


カトリーナが別邸で謹慎を楽しんでいると、元婚約者の噂がチラホラと届いた。


言葉を話せなくなってしまい、ご執心だったロハス子爵令嬢にも袖にされた、その後のお見合いも惨敗とのことだった。実家は領民からの不満が噴出し、火消しに右往左往しているらしい。


私の能力に頼り切りだった代償を払っているだけなので、同情心はこれっぽっちも起きなかった。私が先回りしなくてもいい世界が、ここにはあるんだもの。知らないわ。


私のせいだと言っているらしいですけど、でも、


「そんなこと言われましても」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
ヒロイン、知らぬ間に皆のお母さんになってたんだなぁ。 でもお母さんにだって愛や感謝を返さないいけないし、それをきちんと返してたのが家族や婚約者でなく他人の平民ってのが皮肉。 あとイザベラはヒロイン…
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