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第一章:旅館修復の始まり 5

1週間にわたる清掃と修理作業を終え、いよいよ温泉を稼働させるための最終段階、ボイラーの試運転が始まる時が来た。ボイラーは温泉の命ともいえる設備であり、これが正常に作動しなければ温泉の再開はありえない。静たちは胸の高鳴りを抑えつつ、慎重に準備を進めていた。


「部品交換も完了し、配管もつながった。理論上はこれで大丈夫なはずだ。」

エリオットが帳簿と設備図面を再確認しながら言った。


「まあ、やってみなきゃわからねぇけどな。」

グリゴルは自信ありげに笑みを浮かべたが、少し緊張した面持ちも垣間見えた。


「失敗するわけにはいかないわ。このボイラーが稼働しなければ、すべてが水の泡になってしまう。」

静は心の中でそうつぶやきながらも、表情は崩さなかった。彼女の目には、新しい温泉が客を迎え入れる未来が見えていたのだ。


ボイラーの試運転は、エリオットの手によって慎重に進められた。まずは各部品の最終点検が行われ、ガス供給のバルブがゆっくりと開かれる。ボイラーの燃焼装置が起動し、小さな火花が散った。


「さあ、行くぞ。」

グリゴルが静かに見守る中、エリオットがスイッチを押し込む。すると、ボイラー内部で低い音が響き、燃焼室に火が灯った。


「……よし、点火した。」

エリオットが落ち着いた声で報告する。

管を通じて湯が流れ出し、温泉に供給される水が徐々に温まり始めた。


湯の温度が徐々に上昇し、静はその様子を見つめながら手を合わせた。「お願い、うまくいって……」


湯が一定の温度に達し、配管全体を通じて温泉に流れ込む音が響き渡ると、静たちはようやくほっと胸を撫で下ろした。


しかし、安堵したのも束の間、初回の試運転中に湯温が急激に下がるトラブルが発生した。温泉の各所に設置した温度計が一斉に異常値を示したのだ。


「何だ?急に冷えちまったぞ。」

グリゴルが苛立たしげに声を上げる。


エリオットがすぐに原因を探し始めた。「どうやら、配管の一部が熱をうまく保持できていないようです。」


「まだ配管のどこかに不具合があるってことか。」

静は眉を寄せたが、すぐに冷静さを取り戻した。「私たちのやり直しが必要ね。今ならまだ間に合うわ。」


静たちはすぐに動き出し、不具合のあった配管を徹底的に調べ直した。どうやら、接続部分の断熱が不十分で、湯が途中で冷めてしまっていたようだ。エリオットは素早く断熱材を追加し、配管の再接続を行った。


「これでどうだ……もう一度試してみよう。」

エリオットが慎重にバルブを操作し、再び試運転を始めた。


今度は、ボイラーから供給される湯が滑らかに流れ、温度も安定して上昇していった。


「やった……これで大丈夫だ。」

静は胸の中に広がる達成感を噛みしめた。


再接続が成功し、温泉の湯船に温かい湯がゆっくりと満ち始めた。澄んだ湯が静かに湯船を満たし、立ち上る湯気が旅館全体を包み込む。


「これで……ついに完成ね。」

静は目の前で湯が湛えられるのを見つめ、胸にこみ上げる感情を感じた。


リリィがはしゃぎながら飛び回り、グリゴルも満足げに腕を組んで湯気を眺めている。エリオットも、淡い笑みを浮かべた。


「これで、温泉の修復は完了だわ。」

静は湯船に手をかざしながら、小さな声で言った。その声には、ここまでの苦労を乗り越えた達成感が滲んでいた。


「ふん、これでようやく人を迎えられるってわけだな。」

グリゴルが満足げに笑い、リリィが「やったー!」と歓声を上げた。


「これからが本番よ。温泉をただ再開するだけじゃなく、ここに訪れる人たちに本当の癒しを提供するの。」

静の言葉に、仲間たちはそれぞれうなずき、彼女の決意を受け止めた。


温泉の試運転が成功し、静たちは旅館再建の第一歩を踏み出した。湯船に湯が満ちたこの瞬間は、彼女たちにとって希望の象徴となった。だが、これはあくまで始まりに過ぎない。


「温泉は完成したけれど、まだやるべきことがたくさんあるわ。」

静はそう言いながらも、胸の中に広がる充実感を隠せなかった。

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