第一章:旅館修復の始まり 4
エリオットが手配した資材が到着するまで、静たちは清掃と仮修理を進めていたが、どうしても一部の配管は限界が来ていた。古い管はところどころひび割れ、内部の錆びもひどかったため、完全な交換が必要だった。
数日後、ようやく待ち望んでいた部品の一部が届いた。エリオットは物資を確認し、計画通り作業を進められることを静に報告した。
「これでようやく進められますね。」
エリオットがそう言うと、グリゴルが腕を伸ばして大きくあくびをした。
「ようやくだな。この管を交換したら、次はボイラーの試運転だ。」
彼は届いた新しい配管を手に取り、古いものと交換するために作業に取り掛かった。
「少し時間はかかるけど、きちんとやれば長持ちするわ。」
静も手伝いながら、一つひとつの作業を丁寧に進めた。
配管交換と同時に、排水設備の整備も進められた。排水口に詰まった泥や枯葉を取り除き、管の通りを確認する作業は単調だが重要だった。グリゴルが手際よく泥を掻き出し、リリィが小さな手で最後の仕上げを行った。
「おお、これでようやく水がスムーズに流れるな!」
グリゴルが嬉しそうに言うと、リリィが誇らしげに胸を張った。
「お婆ちゃん、私、すごいでしょ?」
「ええ、リリィ、よく頑張ったわね。」
静はリリィの頭を優しく撫で、感謝の意を示した。
排水と配管の修理が完了し、いよいよボイラーの試運転の準備に取り掛かることになった。その前に、設備全体のチェックを行い、少しでも不具合がないかを確認する必要があった。
「最後の仕上げだ。緩んだネジがないか、もう一度確かめておくぞ。」
グリゴルが言うと、エリオットが手元の道具を取り出して一緒に作業を始めた。
静も慎重に湯船や排水口、そして配管の状態を再確認する。すべてが整い、いよいよ温泉の再稼働に向けた準備が整った。
しかし、最終チェックの段階で予期せぬトラブルが発生した。新しい配管の一部にわずかな隙間があり、接続が完全ではなかったのだ。
「なんだと……!?」
グリゴルが驚いたように声を上げた。
「接合部が緩んでいる……このままでは水漏れの原因になるわ。」
エリオットが冷静に状況を分析し、即座に対応策を練り始めた。
「部品の交換が間に合わなければ、一時的に修理して応急措置を取るしかないわね。」
静はため息をつきながらも、冷静に指示を出した。
「何とかするさ。」
グリゴルが不器用ながらも応急処置を施し、接合部をしっかりと固定した。
1週間にわたる作業の末、ようやくすべての修理と清掃が完了した。苔で覆われていた湯船は輝きを取り戻し、排水口はスムーズに水を流し始めた。新しい配管も無事に取り付けられ、温泉は再び動き出す準備が整った。
「これで、一通りの修理は終わったわね。」
静はほっと息を吐き、温泉全体を見渡した。
リリィがはしゃぎながら飛び回り、グリゴルは満足そうに腕を組んで頷いた。エリオットもまた、控えめに微笑んでいた。
「もうすぐボイラーの試運転だな。それが成功すれば、温泉が再開できる。」
グリゴルが期待に満ちた声で言った。
温泉の清掃と設備の修理を終えた静たちは、次のステップとしてボイラーの試運転に向けた準備を進めることにした。ボイラーが正常に稼働し、温泉の湯が適温で供給されれば、月影館の再生が現実のものとなる。
「さあ、あともう少しよ。」
静は自分自身に言い聞かせるように呟き、再び未来への希望を胸に抱いた。